第2話『心機一転、新たに探索者となる』

 たった1日で全てを失った和昌かずあきは、探索者連盟支部へ足を運んでいた。


 各地に設置してあるこの施設は、それぞれ立地などはバラバラであるが、探索者であればどの出身地であろうと利用が可能。

 利用する探索者によって多少の雰囲気差こそはあれど、相談事や換金などいろいろな手続きをしたり、パーティメンバーを募集するなどしている。


 そう、和昌かずあきは探索者になることを決意し、この場所まで来ることを決めたのだ。


「賑やかだな……」


 和昌は、内容は聞き取れずとも和気藹々と話をしている風景を目の当たりにし、学生時代の友人達と話をしていた時を思い出す。インターネットでの活動は、ボイスロイドでのゲーム実況などが主だったことから、コラボなどがあったとしても台本をみんなで用意してそれに声を当てていた。

 だからこそ、どこか眩しく、憧れの眼差しを向けてしまう。そして、これから自分もそのようになれる、と期待に胸を膨らませる。


「あの……探索者になりたいのですが」


 探索者登録窓口、とカウンターの下に記されている場所で受付のお姉さんに声を掛ける。


 偶然にも後ろに並ぶ人もおらず、ボブの黒髪に緑色を基調とした制服に身を包む女性は快く対応してくれた。


「はい、かしこまりました。では、こちらへどうぞ」


 カウンター前に設置されている椅子へ腰を下ろし終えてすぐ、書類を目の前に出された。


 項目を1つずつ確認しながら進行し、都度それぞれの解説を聞きながら目を通していく。その際、ダンジョンで命を落としてしまった際には基本的には責任を負わない、という旨が記されていた。

 さすがに無責任ではないか、と和昌も思ったが、不義理ではあるものの二次災害の可能性やそれに費やすための金銭等を考えれば妥当だと納得する。


 落ち着いた口調で聞き取りやすく説明してくれていたおかげで、いつの間にかに凝り固まっていた表情も柔らかくなっていた。


「説明は以上になります。最後に、武器の支給を行います。お好みの形状はあったりしますか?」

「例えばどんなものがあるのですか?」

「本当にいろいろなものがありますよ。アクション映画などはご覧になられたことはありますか?」

「はい。ファンタジーやSFなどのゲームもやったりするので、特徴的な武器でも言ってもらえればある程度はわかると思います」


 お姉さんは「ん~」と、視線を斜め上に少しだけ向けた後に話を切り出す。


「日本刀や剣。トンファーやガントレットナックル。両刃剣や双槍。盾や大剣。鎖鎌や青龍刀。と、いう感じのラインナップになっておりますが、まだまだ候補はあります。ぜひ、なにか質問をしてみてください」

「じゃ、じゃあ……ハルバードやモーニングスター、ジャマダハルやウルミーとかはありますか?」

「はい、もちろんです。ですが、残念ながら科学的なライトセイバーや遠距離武器全般はありません」

「なるほど、なにか理由があるのですか?」

「もしかしたら、エンジニアのような方がパーティにいらっしゃれば問題が無いのかもしれませんが、戦闘中に不具合を起こした際は丸腰になってしまいますので、連盟としてはそのような武器は推奨しておりません。そして、遠距離武器に関しましては弾や矢を無限に持ち歩くことはできないからです」

「納得しました。ちなみに、オススメはどれですか?」

「初心者の方は、剣と盾ですね。やはり、戦闘に慣れるまでは恐怖心があったり体力面をカバーするためです」


 ここまで説明を踏まえ、悩む。


(様々な戦闘をするゲームをやってきたからこそ、普通ではない武器が魅力的に感じてしまう。だけど、今説明してもらった通りでモンスターとの戦闘をビビらずにできるのか? 正直、わからない。しかし、かっこいい武器で戦う姿にロマンを抱いてしまう)


 未だ始まってすらない、活躍している未来の自分に思いを馳せる。


「ちなみに、武器庫を見学していただいたり、使用後に変更する、ということはできませんのでご理解ください」

「決めました。片手剣でお願いします」

「かしこまりました。只今、武器をお持ち致しますので少々お待ちください」


 一礼後、受付のお姉さんは背後の扉から出て行った。


(様々なゲームをやってきたからこそ、わかることがある。中盤や後半になったら特殊な形状の武器を使用することが増えるけど、序盤は推奨された剣と盾や剣一本だ。だとすればそれに倣うのも悪くない)


 先人の知恵を借りる気持ちで、和昌はそう決めたのだ。


(それに、こんなところでいつまでもうだうだと考えていたら誰かの迷惑になるし、なにより少しも時間を無駄にしたくない)


 5分経過後、先ほど部屋から出て行ったお姉さんが鞘に収まった剣を持って来てくれた。


「こちらになります」

「抜刀してみても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」


 了承を得て、ゆっくりと抜刀。

 目立った装飾は一切なく、刀身・鍔・柄といったシンプルそのもの。刀と違って両側面が刃になっている。

 重量もそこまでなく、体を動かしている人間にとっては本当に軽く感じる。が、流石に包丁よりは重く、気軽にブンブンと振り回せるほどではない。


 例外なく和昌も少し重く感じたが、日頃からしているトレーニングのおかげでなんとかいけそうだ、と思う。


「それでは手続きに関しましては以上になります」

「ありがとうございました」


 氏名の記入や同意の欄に指で押印した書類を回収される。


 そして、立ち上がって頭を下げ終えて建物を後にした。

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