嬉し恥ずかし、そして痛い?特訓タイム



「いち、に、さん、いち、に、さん、はい上手ですよ。その調子です」



 さて、王家主催の夜会まであと4日となった。


 そしてオスカーとシャルロッテは今、ダンスの練習に励んでいる。



 と言うのも、夜会の10日前になり、相性確認としてオスカーと2人で踊ってみたのだが、その時シャルロッテの動きがかなり酷かったから。



 これはオスカーと初ダンスという緊張のせいもあるにはあったが、実のところ理由はもう一つあった。



 アラマキフィリスに罹ったと知った約1年4か月前。


 シャルロッテは、思い残すことがないようにと婚約者探しもデビュタントの準備も止め、残った時間全てを好きな事をする時間に当てる事にした。


 つまり、のびのび楽しく生きる為に令嬢としての生き方を止めたのだ。


 令嬢として必要な知識や教養は全て、マナー講義も刺繍も勉強もダンスレッスンも―――そう、ダンスレッスンもきっぱりすっばり止めた。


 そして、王都にケーキを食べに行ったり、初めての乗馬に挑戦したり、木登りしたり、釣りに行ったり、絵を描いたり、1日中図書室にこもって本を読んだりした。



 もう一度言おう、ダンスレッスンをすっぱり止めてしまっていたのだ。1年と4か月ほど前からず~っと。



 そんなシャルロッテが、久しぶりに踊ってみる事になって。


 しかもパートナーが大好きな夫、オスカーで。


 確認という名目で、ダンス講師やら執事長やら侍女長やらが壁際にずらりと並んで、じ~っと注目される中で、シャルロッテが踊る訳である。


 そんな状態でちゃんと踊れる筈があろうか―――いや、ない。



 そう、結果は惨憺たるものだった。


 最初はホールドの状態で硬直して動けなくなるわ、いざ踊り始めたらコケそうになるわ、ステップを間違えてオスカーの足を何度となく踏みそうになるわ(実際2回ほど踏んだのだが)、結果、ただの確認の筈だったダンスの時間は、早々に猛特訓タイムへと変更された。



 ―――それが、6日前の事だ。



 猛特訓と言っても、オスカーは基本忙しい。


 だが他の人と練習すると言えば、なぜかオスカーがいい顔をしない。


 加えて言えば、シャルロッテ自身、最初に猛特訓した翌日の筋肉痛が酷く、それが治るのに2日。その後、練習もとい特訓を再開して再び筋肉痛に見舞われ・・・という状態で、連日の練習は到底ムリだった。


 という訳で、10日前に開始が宣言されたダンスの特訓は、本日でまだ3回目。


 だが、2度の練習を経たお陰か、今日はシャルロッテの動きもだいぶ滑らかになってきたのか、ダンス講師からようやく冒頭の誉め言葉をもらえたのだ。




 ようやくもらえたお言葉に、シャルロッテは思わず、ほっと安堵の息を漏らす。


 すると頭上から、ふ、と小さな笑い声が降ってきた。



「そんなに心配するな。踊るのは俺との2曲だけ。他の男が誘いに来ても、俺から断りを入れるから」


「・・・実は、お父さまとランツ兄さまから手紙が来て、私とのダンスの予約したいと。だから、少なくても全部で4曲踊る事が決まってしまいました」


「・・・なるほど、君と夜会で踊れるのがよほど嬉しいのだろう。もし君が辛いようなら、俺とのダンスを1曲減らすか?」


「いえ、それは駄目です! 役目をきちんと果たす為にもなるべく仲のいいところを皆さんに見ていただかないといけませんし・・・なにより、私がオスカーさまとはたくさん踊りたいのです・・・」



 ―――だって、きっとこれが、オスカーさまと一緒に参加できる最初で最後の夜会になるだろうから。



 勢い込んで口を開いた言葉は、段々と尻窄みになってしまったけれど、ちゃんとオスカーの耳には届いたようだ。



 オスカーは微かに目を見開いた後、「それは光栄だな」と笑った。




 夜会がだいぶ近づいてきたので、体に疲れが残るようではいけないと、その日の練習はそこそこで切り上げとなり。




 それでもかなりヘトヘトの状態で部屋に戻って来たシャルロッテに、アニーが先ほど届いたという手紙を渡した。





 差出人は、他国に出向いていたイグナート。


 無事に帰って来たと分かり、シャルロッテはほっと安堵した。








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