第37話

 ひとまず二匹の幻獣たちには元いたダンジョンに帰ってもらい、家に帰ってから〝鍵〟で連れて帰ることにした。


 そんなこんなで幻獣の暴走事件を解決した僕たちは今、配信を終了させた後に東京都にある〝世界ダンジョン機構WDO日本支部〟にいる。

 涼牙りょうがは『ダンジョンをなんか色々管理してる偉いやつだぜ!』と言っていたのだが、詳細が全くわからなかった。


「うー……東京観光ー……」

「咲太君、少しくらい我慢しなさい。あとで美味しいスイーツショップに連れて行ってあげるから」

「やった〜! まぁお菓子も出してくれてるし我慢しよー」


 応接室でお茶とお菓子を堪能しながら暫し待っていると、ガチャリと扉を開けて誰かが部屋に入ってくる。

 タバコを口にくわえながら、気だるそうな顔をしているイケメンの男の人だった。高身長の黒髪黒目だが、右目だけ赤色だ。


「うーっす。君が噂のサクたんか」

「噂の……? まぁ、はい! サクたんです!!」

「元気だな……。俺はWDO日本支部トップの駆動くどうだ。はぁ、だるい……」


 な、なんかトップとしてはダメそうな感じがする人なんだけど、大丈夫なのだろうか……?


「あれ、よく見たらあれタバコじゃなくてお菓子じゃないかしら?」

「あー……よく気がついたな。タバコは苦いしクソ不味くて嫌いだが、カッコいいからなぁ。けどこれは高速でレロレロしたら煙が出るぞ」

「咲太、あれ嘘だから真に受けるんじゃねぇぞ」

「えっ……れろれろで煙出るとこ見たかった……」


 駆動さんは少し残念そうな僕の顔を見た後、首の後ろを掻きながら話を始めた。


「えー……まずは東京救ってくれてありがとな。勲章とか貰えるだろうが……そういうことするのだりぃから俺が代わりに適当な茶菓子送っとくわぁ……」

「本当ですか!? ちなみにどんなお菓子ですか?」

「あ゛ー……? 東京バナナとかぁ?」

「やったー!!」

「相変わらず咲太はチョロいし駆動さんは女殴ってそうなイケメンだな!」

「ぶん殴るぞ高力たかりき……」


 正直、勲章とかをもらっても特に嬉しいわけではなかったし、茶菓子の方が断然嬉しいから感謝しておこう。

 話はまだまだ続くのかと思っていたが、どうやらもう次の話がラストらしい。


「幻獣を山ほどタラし込んでるサクたんお前さんだが……流石にトップとしては見過ごすわけにはいかねぇ。だから任意だが、今度お前の家を調査させてもらいたい。クソダリぃけど」

「まぁ別に大丈夫ですけど……あっ! 配信とかしていいですかね!?」

「あぁ……? そんぐらいなら構わないが……」


 次の配信内容はどうしようかと悩んでいたが、自分の家がダンジョンなのだからそこで配信をすればいいじゃないかと思いついた。ペット紹介動画みたいな感じだ。

 よくわからないけど駆動さんが調査もしてくれるみたいだし、解説役ゲットだ!


「そんじゃあお疲れぇ。茶菓子は家に直接送って、調査については随時報告するわ。ふわぁ……仕事終わったし俺は寝る」

「あっけなく終わったわね」

駆動アイツ、極度のめんどくさがり屋で甘党だからな!」


 駆動さんはそう言い残し、ソファで横になって寝息をたて始める。

 も、ものすごい濃い人だったなぁ……。



###



 ――咲太のスカイツリーダンジョン配信後、某所にて……。


「次のターゲットはこの化け物を従える化け物か?」

「あぁ。ったく、上も無理難題を押し付けてきやがる」

「ははっ、命がいくつあっても足りないっつーの」


 サングラスに黒いスーツを着たいかにも怪しい男たちが、咲太の配信のアーカイブを見ながら苦笑いを浮かべていた。


「けど麻酔銃も色々揃ってるし、〝動物に好かれまくる体質〟の対策ももちろんある」

「しかもだ、成功したらこの幻獣が全部付いてくるんだぞ?」

「九尾会のやつらの二の舞にはならねぇ」

「アイツらは計画性のないバカだったろ!」

「それもそうだな。クックック……!!」


 男たちがいるのは港で、そこには巨大な船が佇んでいる。

 彼らは非合法の密売人であり、危険な武器や魔道具をダンジョンから収集をし、海外に売る組織だ。最強と名高い武器も取り揃えており、作戦は失敗しないという絶対的な自信があるらしい。


 彼らの作戦、それは――咲太の拉致監禁、そして幻獣の独占だった。


「今この場は東京……そしてターゲットがいるのも東京。運に恵まれてるな」

「隙を見せたら麻酔銃で眠らせて連れて行く。ボスを乗せた船はもう時期出発するが、ボートで追いかけりゃ問題ないな」

「さぁて、一仕事始めますか」


 不敵な笑みを浮かべて、車に乗り込む男たち。

 だが、彼らと彼らの組織の末路は目に見えているものであった……。

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