第2話
歩き続けること数分、何も無い。
視聴者が増えるわけでもないし、ダンジョン内には魔物が一匹も出てきやしない。ただ黙々と暗い道を歩くだけの地味〜な絵面だ。
「(ダンジョンってもっと魔物が出てくるイメージあったんだけどなぁ……。ここは出ないのかな?)」
そんなことを思いながら歩いていると、何やら奥の方から誰かの声が聞こえ、地響きがしている。
早歩きをして音の方に近づいてみると、そこには尻餅をついている一人の女の子と、巨大な何かがいた。
『グルァア……!!』
「っ! な、何してるのよ貴女、早く逃げて助けを――」
赤い鱗、鋭い瞳、巨大な体格、ツノや尻尾……。これを見て僕は、たった一つ心の底から思い、言葉に出た。
「か――カッコいい〜!!」
「は……?」
目を輝かせ、駆け足でその魔物に近づく。
すぐ近くで腰が抜けているであろう女の子は、目の前のことが何も理解できないと言わんばかりに動けずにいた。
「すごいねこの鱗! しかもおっきい! トカゲなのかなぁ?」
『グルルル……』
「ん?」
トカゲらしきこの魔物は僕を目の前にすると、高い頭を下げて近づけ、スリスリと頬ずりをしてきた。優しくツノを撫でてみると、目を細めて尻尾をゆらゆら揺らしていた。
ガンガンと地面に尻尾が当たるたびにダンジョンが揺れていたが、それほど嬉しいのだろうか?
「このトカゲ、すごい人懐っこいんだね。可愛いな〜」
『グルルルゥ……♪』
「ふふふ、ここが気持ちいいんだねぇ」
数分撫で回していたら、赤いトカゲは完全に脱力して惚けた顔をしている(ように見えた)。
すると後ろから声が聞こえてきた。
「あ、あなた……何者なの……!?」
「はっ、無視してしまってすみません! このトカゲ可愛くてついつい……」
「と、トカゲじゃないわよ、それはドラゴンよ!? しかも危険度Aの!!」
「キケンド? エー?? ……勉強不足ですみません。あ、でもドラゴンはわかります! トカゲじゃなかったんですね」
ドラゴン……初めて見たなぁ。やっぱりトカゲっぽくて、こんなに大きいんだ。
「うーん……あの人爬虫類が苦手なのかなぁ? ドラゴンくん、元いた場所に帰れる?」
『グルゥ』
「うん、いい子だね。バイバーイ!」
僕の言葉が通じたらしく、踵を返してズシンズシンと大きな足音を立てながらダンジョンの奥へと向かった。僕が手を振ると、尻尾を左右に揺らして返してくれる。
言うこと聞いてくれるし、すごい懐いてるし……ダンジョンって面白いんだなぁ! いろんな魔物に会ってみたい!
「ふふふ、安心してください! 誰にだって苦手ものはあるからね! 僕もピーマンが苦手です!」
「あ、はぁ……? そうね。とにかくありがとう、殺されずに済んだわ……。はぁ、生きた心地がしなかった……」
「殺される……? あんなに人懐っこいのに……」
まぁ大きいものは怖いよね、仕方ない。
うんうんと頷いて自分に言い聞かせていると、女の子のすぐ近くに浮いているものが見えた。
「あれ、それってもしかしてダンジョン用のカメラですか?」
「え? ――っ!? 配信オフ!!!」
慌てた様子でそう叫んだ。彼女もダンチューバーだったのだろう。
「ご、ごめんなさい……。配信切り忘れちゃってたから映っちゃった……」
「全然いいですよ! 僕もさっき初めて配信始めたので! コラボってやつですかね!」
「ちょっと違うと思うわ。……とりあえず危険だから、外に出ましょう」
「はーい。……あ、僕も配信切っておこ」
女の子は立ち上がり、ダンジョンの入り口に向かって歩き始める、
さっきはよくみてなかったからわからなかったけど、すごい綺麗な人だ。綺麗な髪だし、青い目も大きくて目が奪われそうだった。
「……あの、私に何かついてるかしら?」
「え、あ、なんでもないです! 綺麗だなぁと思って」
「ふふ、貴女の方が可愛いと思うけれど」
「……僕、男です……」
「え!? 私てっきり……な、なんかごめんなさい」
まぁ……言われ慣れてますしぃ? 全然気にしてないですよ……あはは……。
少し足が重くなった感覚がする。本当は涼牙みたいに男らしくなりたかったけど、僕には向いていないからな。
気まずい雰囲気の中歩き続け、ダンジョンの外まで出てきた。
「私はこれからダンジョン協会まで報告に行くわ。あなた……えっと、名前聞いてなかったわね」
「僕は藍堂咲太です」
「私は
「いえいえ。あ! そういえば今日早く帰らないといけないんでした! さよならー!」
「え、ちょ、待って! ……一緒にギルドに来て欲しかったのに……」
この時の僕はまだ何も知らなかった。
何気ないいつも通りの日常が、大きく変化して行くことに……。
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