04-04:誘い導く黒い影
脳までを貫き通した閃光と、直後に襲いかかってきた轟音。それに次ぐ衝撃波。四人は盛大に波を被り、たちまちのうちにびしょ濡れになってしまった。
「くっそ、なんだってんだ!」
しばらくの悶絶の末、一番最初に立ち直ったケインが吠えている。
「ううぅ、耳がキーンとしてますぅ……」
シャリーは涙目でそう訴えた。アディスは杖にしがみつくようにして立ち上がり、呆然と海の方を見ていた。オーザは座り込んだ体勢のまま、硬直している。
「みなさん、見てください」
アディスが海を指差した。荒れ狂う大気の
「なんだ!?」
「あわわ……」
ケインとシャリーの声が重なる。驚愕する三人と、「はははは!」と高笑いを始めるオーザ。
海中から何かが姿を見せ始めていた。暗黒色の、影のような、構造物――。
「ディンケルの真の王城だ! あれが本来あるべき王城だ!」
オーザが高らかにそう言った。シャリーは目を細めて「あれが?」と声に出す。
そこにあるのは白皙の都に相応しくない、暗黒色の巨城だった。
「魔神サブラスはあの中で待っている! 待っているのだ!」
オーザは波しぶきの中をふらつきながら歩き始める。だが、五歩も進まぬうちに倒れた。
「オーザさん!」
シャリーが駆け寄って助け起こした。が、すぐに悲鳴を上げて飛び
「どうした、シャリー」
ケインとアディスがやってきて、すぐにシャリーを背中にかばった。オーザには明らかに異変が起きていた。アディスはそこに強い魔力を感じ取る。
アディスは杖を構え、ケインは長剣を抜き放つ。オーザの眼球は黒く染まり、顔中に血管が浮き上がっていた。丸腰ではあったが、何をしてくるのか見当がつかなかった。
「オーザさん! どうしたんですか! 何があったんですか!」
ケインの肩越しにシャリーが叫ぶが、オーザは一切の反応を見せない。ただじっと、ゆらりとした目でケインたちを見つめていた。
その時だ。
「そいつから離れろ!」
鋭い警告と共に、三本の矢が飛来した。強風をまともに受けてもその軌道は揺らがない。だが、その矢はオーザに触れるかどうかというところで砕け散ってしまった。
「き、効かない!? どういうことだ!?」
「セレ姉!?」
セレナを乗せた馬が駆けてくる。
「海の様子がおかしいと思って来てみたら、このありさまだ!」
セレナはオーザに向かって目にも止まらぬ速度で矢を射掛ける。しかし、結果は同じだ。全くダメージを与えられていない。
「何者だ、この化け物は!」
「わかんねぇよ! さっきまで普通のおっさんだったんだぜ!」
ケインが油断なくオーザを睨みながら答えた。セレナは下馬すると緩やかに湾曲した片刃の剣を抜いて両手で構えた。エライザより贈られた、鍛治師の手によって鍛造された由緒正しき名刀だ。聖なる力を付与された魔法刀でもある。ケインの持つ安物の鋳造剣などとは比較にならないほどの威力を持つ品である。
「いずれにせよ、こいつをこのままにはしておけない! あと、あの海の城はなんなんだ、ケイン!」
「質問が多すぎるぜ、セレ姉!」
風は強くなり、波は激しく打ち寄せ、そして空はますます暗くなった。真夏の昼間だというのに、夜以上に暗く、まるで冬のように寒い。
オーザの姿をした化け物は、おもむろに両手を上げた。
「投降?」
「いえ!」
セレナの言葉を否定するアディス。
「攻撃魔法です!」
アディスが
アディスの展開が一瞬遅ければ、オーザの放った火球によって全員が少なからずダメージを受けていたはずだ。セレナが煙を払いながらアディスを振り返る。
「いい仕事だ」
「どーも」
アディスは次なる魔法を警戒して障壁の強度を上げる。その時、アディスの視界の上の端に、何かの光が映り込んだ。
「あっ!」
アディスの声に、セレナも事態に気がつく。
「召喚魔法だ!」
「逃げましょう」
「逃げるって、どこへ」
さすがのセレナも動揺を隠せない。セレナたちを取り囲むようにして魔法陣が浮かんでいる。
「海の方しかないな」
「海って、城のことか?」
ケインが引きつった顔で尋ねた。セレナは厳しい表情で頷く。
「この状況で街に戻るのは不可能だ。であれば時間を稼ぐしかない」
「ですね。しかしこれ、あいつが誘ってるようにも見えます」
「アディス、何にしてもわたしたちには選択肢がない」
「確かに」
アディスはケインとシャリーを振り返る。
「異形が出現します。今はあの城の方へ行くしかありません」
「まじかよ」
その間に、セレナは愛馬を逃していた。そして先陣を切って暗黒の城へと走り出す。
オーザの周辺には無数の黒い影が生じていた。人のようにも見えるが、判然としない影だ。それらが早歩き程度のスピードで淡々とシャリーたちを追いかけてくるのだ。明らかに暗黒の城へと、シャリーたち一行を追い立てている。
「魔神サブラス……思ったより強引な
シャリーは自身の健脚に感謝しつつ、先頭を行くセレナを追いかけた。
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