02-02:ヴラド・エールにかけられた呪い
四人に増えた一行は、そのまま丘を下り、城下町へと入る。メレニ太陽王国の事実上の属国という立場にあるために、都市は城塞化を放棄させられ、今や攻められれば一瞬で火の海になって
そもそもディンケル海洋王国とメレニ太陽王国では、武力に差がありすぎた。超級の騎士で構成される宮廷騎士団・
「さて、それで」
ケインとアディスの住宅件店舗に到着し、一ヶ月分の埃にうんざりした表情を見せつつ、セレナが腕を組む。彼女の視線の先ではケインとアディス、そしてなぜかシャリーがせっせと掃除をしていた。セレナは自分の座る場所だけを確保すると、遠慮なく腰をおろして足を組んだ。
「三級錬金術師が、お前たちにどんな依頼を?」
「ところでさぁ、セレ姉」
一通りの掃除が終わり、アディスが新たな水を汲みに出ていったのを見ながら、ケインが口を尖らせる。
「俺たち、なんでセレ姉にことこまかに報告しなきゃならないわけ?」
ケインは荷物から干し肉を引っ張り出した。シャリーの目がキラリと輝く。
「当たり前だ。わたしはお前のご両親に、お前のことを任されたんだ」
「それ五年も前の話じゃん。それにセレ姉だって俺と一つしか違わねえじゃん」
「お前の亡きご両親は、わたしを信じてわたしにお前を任せたんだ。当時より優秀な神官補だったわたしに、何の特技もなかったお前をな」
「相変わらずグサグサくるな」
「事実を述べたまでだ。がっかりする必要はない」
「するよ!」
ケインは干し肉を木皿の上にドンと置いて、シャリーの前に移動させた。シャリーは躊躇の一つもなく、さっそく手を伸ばして食べ始める。
「よく食うなぁ、相変わらず」
「良い食べっぷりだな、ガリ子のくせに」
「この干し肉、おいひいのれす」
もはや「ガリ子」にツッコミを入れることもないシャリーである。
「ああ、そうだ、セレ姉。サブラスって魔神の話を知ってるか?」
「その名前かどうかは知らないが――」
セレナは一瞬宙を見上げて、すぐに首を振った。
「わたしの口からは何も言えないな」
「なるほど?」
ケインは椅子の上であぐらをかきつつ頷いた。
「ま、簡単に言うとさ、そのサブラスって魔神のところへ行って、魔石を手に入れてこいっていうのがシャリーの依頼」
「やめとけ」
「アディスもそう言ってた」
ケインは肩を竦めて、下唇を突き出した。
「でもよ、セレ姉。俺はその魔神ってやつを見てみてぇし、魔物が出てくるっていうのなら戦ってもみてぇよ」
「好奇心は猫も殺すんだぞ、ケイン」
そう言うとセレナは新緑の瞳を細めた。空気がピリピリと一変する。
「魔神はな、お前程度のやつが好奇心で近寄っちゃいかん相手なんだよ」
「でもぉ」
シャリーが口を開いた。
「私には魔石が必要なんです」
「なぜ?」
「それは、その」
「ニ級の昇格試験のため。違うか?」
「違いません」
シャリーはあっさりと認めた。セレナは「はぁ」と大げさに溜息をつく。
「魔石じゃなくても霊薬は作れるだろ」
「それはそうなんですが、格の高い霊薬を作るのは、龍石では難しいんです」
「龍石?」
ケインが口を挟んだ。それにはセレナが答える。
「そこらの石ころのことだ」
「そうれふ。この大陸は
「俺さぁ、
「おまえなぁ」
セレナは呆れ顔で頭を振った。
「この惑星に元々あった全ての大陸は、異次元より現れた
「さすが神官様。立て板に水だな!」
ケインがおどけて言う。セレナは不満げに鼻から息を吐いた。
「しっかしこの地面が
「それはそうなんだが、元はと言えば、龍の英雄たちも普通の人間だったらしい」
「普通の? それが世界を滅ぼしちまうような相手を倒したって?」
干し肉を齧りながらケインは呻く。
「とはいえ、力ある異形――魔神連中を殲滅することはできなかった。封印するのが精一杯だったようだ。それが時々発見される魔神の結晶のルーツだ」
「なるほど?」
ケインはシャリーを見る。シャリーは干し肉を齧った姿勢のまま固まっている。
「龍の英雄ってのが、今の神様だよな。エレンとかヴラド・エールみたいな」
「そうだ。龍の英雄たちは
神官らしくよどみなく説明するセレナの顔を、ケインはぽかんとした顔で見た。
「これは余談だが、ヴラド・エール神は不死の呪いをかけられた。そしてエレン神は、愛するヴラド・エール神とは決して交わることのない、転生の呪いをかけられたと言われている」
「うーわ、悪趣味」
「全くその通りだ」
セレナは憤りを隠そうともせずに頷いた。
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