第26話 バイクでスキップ?
今夜はサラダとオムレツだ、最近フライパンの返しができるようになった。つまりオムレツが、オムレツらしい形になってきたのだ、僕は少し嬉しくなってる。そんな事もあり今夜もオムレツにしたのだが、焼き始めたら思うように上手く返せない、結局スクランブルエッグになってしまった。何でだろうと思いパッドで検索してみる。
「そうか、フライパンのコーティングが取れてしまったのか………」
昨日焼きつかせてしまったので金属のタワシでゴシゴシ磨いてしまったのだ。
「買ったばっかりなのに………」僕はがっくりと肩を落とした。
「ただいま〜!」琴音さんが帰ってきた。
「すみません、買ったばかりのフライパンをダメにしてしまいました………」僕は状況を説明する。
「何だそんなことか、また新しいのを買えばいいじゃん」
「そんなのもったいないです」僕は琴音さんの手のひらに乗りそうなくらい小さくなった………そんな気がした。
「いいよ星七、誰だってたくさん失敗を重ねて上手になるんだから」そう言って僕の頭を撫でている。
琴音さんは日頃想像できないが、優しい人なのかもしれないと思った。
「それより星七これ、もらってきたから」パンフレットらしきものをテーブルに置いた。
見ると教習所のパンフレットだ、中に申込書が入っている。僕はハッとして恐る恐る承諾書を鞄から引っ張り出す。
「おっ、承諾書もらえたんだね、じゃあ申込書を書いて、私が出しておくから」満面の笑顔で僕を見ている。
僕の中にあったいくつかの疑問が解けた。琴音さんは僕がバイクの免許を取れるように文化祭へやってきたんだ、そして近田先生に承諾書をお願いしたんだろう。だから玲司さんも呼んで僕がバイク文化の研究をして出版社まで引っ張り出したように見せようとしたんだ。教習所のパンフレットが何よりの証拠だ。
「………………………………………………………………………………………………」
しまった、あの時にバイクに全く興味がない事をしっかり伝えるべきだった。激しく後悔したが後の祭りだ。僕はテーブルの書類を見て震えた。
「どうしたの星七、そんなに嬉しい?」琴音さんは優しく微笑んで僕を見ている。
僕は今更バイクに興味がないなんて決して言えないと思った。何であの時はっきりと伝えなかったんだろう、この人には適当に済ませたらとんでもないことが返ってくるんだ。僕はただ震えた、そしてこのことは墓場まで持っていくことに決めた。
「すみません、気を使わせてしまって」そうしか言えなかった。
「大丈夫よ、星七が喜んでくれるのが嬉しいから」
あはは………バイクに乗れたら楽しいんだろうなあ…………僕は心の中でバイクのハンドルだけ持ってお花畑の中をスキップしている。
「ありかとうございます………」まだ高校生になったばっかりなのにもう墓場まで背負っていく荷物ができてしまった。これからの人生の足取りが重くなった気がする。
それから一週間後僕は教習所へ通い始める。雪村先輩は「星七くんは研究熱心で努力家なんだね〜」そう言って図書委員の仕事を変わってくれた。茉白ちゃんまで「頑張ってね」そう言って応援してくれている。僕はなぜか孤独感に苛まれる。僕はバイクが好きになるしかないなあと思った。
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