第2話 イトコって???
僕の父、
「全くどんな両親だ!」独り言が漏れてリビングに沸々と溜まっていく。
ガラーンとした室内も二、三日すると少し慣れてくるものだ。考えてもどうにもならないのでラノベを読んで自由を満喫する事にした。
僕は本を読むのが大好きだ。本はこんな時でさえ僕を物語の素敵な世界へと連れていってくれる。僕は誰に遠慮する事もなく本の虫になった。そして本の上を尺取り虫のように這い回った。
『ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ』突然スマホが鳴り響く。見ると父さんが勝手に記録した『琴音様』の文字が液晶へ表示される。
「げっ!イトコのお姉さんだ………」恐る恐る出てみる。
「はい、
「久しぶりだね星七、今着いたよ、マンションの前にいるから降りてきて」妙に明るく馴れ馴れしい声がスマホから勢いよく飛び出してきた。
「えっ、前にいるんですか?はい、今降りて行きます」エレベーターで下りエントランスを抜けてマンションの前へ辿り着く。
一台の『ニンジャ』とロゴの付いたオレンジとシルバーのカラフルなバイクが止まっている。忍者ってこんなカラフルでいいの?素朴な疑問が湧く。ライダースーツに包まれた人は徐にヘルメットを脱いだ。柔らかそうな髪がはらりと揺れてうなじへと寄り添う。クッキリとしたまゆに風が起こりそうな長いまつ毛、規格外の大きな瞳、にこやかに微笑んだ彼女はとっても美人だ。僕はゴクリと唾を飲み込む。
しかも、モデルさんかと思うようなスタイルで、僕よりも身長が高い。コンパクト星人の僕は思わず見上げる。
「久しぶりだね星七、会いたかったよ!」そう言ってイトコのお姉さんは笑顔で両手を広げた。
「…………………」どういう事?もしかしてあの胸に飛び込んで『琴音お姉ちゃん!』そう言って抱きつき、懐かしがるシーンのように、台本があれば書かれてある気がした。
しかし従姉のお姉さんを僕は全く覚えていないし、こんな綺麗なお姉さんにいきなり抱きつくような勇気と強いハートは持ち合わせていない。
どうしよう…………どうしたらいいんだ………僕は口をポカンと開けたまま固まる。
「………………」しばらく重たい沈黙が流れる。僕は全身にいやな汗をかき始める。どうしたらいいんだ…………じわっと煮詰まる。
「そっか、久しぶりだから恥ずかしいか?そうだね、もう高校生になるんだもんね」
優しく微笑んだお姉さんは広げた両手をきまり悪そうに下ろした。そして僕に近づき「大きくなったね」そう言って僕の頭を撫でている。僕は少し震えながらこの状況に耐えた。
綺麗なお姉さんに頭を撫でられている、その事実だけで僕の頭の中は真っ白になっている。
「ねえ星七、バイクを停める駐車場を教えて?」そう言って微笑むと僕にヘルメットを渡す。
このマンションの駐車場は裏手にあり屋根付きで小さな物置まで付いている。車好きの父はそれが気に入ってこのマンションを買ったらしい。
「この501の番号の場所がうウチの駐車スペースです」僕は辿々しく案内する。エンジンをかけゆっくりとついてきたバイクは駐車スペースへ停車した。
「なるほど、これなら雨でも安心だね」イトコのお姉さんは納得している。
バイクにつけてあるバッグを外してエントランスを抜けエレベーターで上がり部屋へとたどり着く。僕はロボットのようにカタカタと案内した。
「へ〜、思ったよりいい部屋じゃん」そう言って一通り見渡す。
いったいどんな部屋を想像してたんだろう?。わりと普通だと思うんだけど………。カーテンを開け外の景色を確認している。
「あっ、池が見える、大きな公園が近くにあるんだね」
「はい、ボートにも乗れます」
「そうなんだ、今度一緒に乗ろうね」微笑んでいる。
「……………」僕はまた固まる。
僕はふと母さんの言葉を思い出す『絶対に怒らせないでね』とりあえずお茶を用意してみようと思いキッチンへ向かった。
コップに冷たいお茶を入れてトレーに乗せリビングへ持ってきた。
「えっ!」目が点になる。
『ガシャーン』トレーごとお茶を溢してしまう。なんと従姉のお姉さんはライダースーツを脱ぎ捨て、パンツとブラだけになっている。
「ん、どうしたの?」不思議そうに僕を見ている。
「何してんですか、そんな格好で」僕は片手で目を塞いだ。
「着替えているだけだよ?」何も不思議は無い、そんな表情だ。
「見えない所で着替えてください」僕は落としたトレーとコップを拾いながら抗議した。
「だって、私たちイトコだよ?」不思議そうに僕を見ている。
イトコってなに?どういう事?イトコってどういう関係?下着姿を見せてもいい関係がイトコ?僕の全身からはてなマークが大量に飛び出す。
僕は女の人の下着姿を目の前で見たことは一度もない、全く免疫を持っていないのだ。しかも美人でスタイルの良い女の人がわずか2メートルほどの距離に立っている。僕の心拍数は急激に上昇し頭の上からは『ピー』っと音がしながら湯気が出ているような気がした。これは救急車を呼んだ方がいいかもしれない………。
「ねえ星七ちゃん、これから私たち二人で暮らすのよ、だから慣れてちょうだい!」笑っている。
慣れる?その下着姿に慣れることができるなんて僕には全く考えられない。
「そんなの無理です!」僕は呆然と立ちつくす。
「じゃあどうしたらいいの?」不思議そうに聞いてくる。
「えっと………その………徐々に慣れるとか………」何も考えられなくて俯くしかできない。
「じゃあ、今日はパンツの横だけ、明日はお尻の方とか、徐々に見せていけばいいの」彼女は笑いを堪えながら言っている。
「いや、そういう事じゃなくて……」
「じゃあどういう事?」肩を揺らしながらさらに聞いてきた。
「わかりません、でも恥ずかしいんです」僕は赤面したままぐったりと項垂れる。足がプルプルと震えている事に気がつく。
「こんなの水着と変わんないってば」唇を尖らせ少し不満そうだ。
「僕はそんなふうに思えません」必死に抵抗する。
彼女はしばらく考えている。僕は床のフローリングを見つめる。ウチのフローリングってこんな色だったっけ?。
彼女は少し痺れを切らしたように言葉を放った。
「昔は二人で一緒にお風呂にも入ったんだよ、覚えてないの?」
え〜、一緒にお風呂へ入ったの?嘘でしょう?全く覚えてないんですけど。
「全く覚えてません」一応記憶のカケラか画像が一枚でも落ちてないか脳内を探してみる。
「そっか、なんかよそよそしいなあと思ったら全く覚えてないのか」残念そうに呟いている。
「すみませんね、でも7歳の頃の記憶なんて普通覚えてないでしょう」
琴音さんは何か納得できない表情で僕をみた。
「あのうお茶を入れ直してきます」僕は逃げるようにその場を立ち去る。
しばらくしてリビングへ戻ると彼女はジャージ姿に着替えていた。しかも姫東高校と書いてある。ジャージ姿にまたドキッとしてしまう。僕は彼女を少しだけ身近に感じてしまったからだ。そして何とこのお姉さんとここで二人暮らすのだ。ウオー………全てがキャパオーバーな気がする。
しばらくして現実にやや戻った僕はお茶を入れ直す。
「はい、お茶です」
「ありがとう、星七は相変わらず優しいんだね」彼女は少しホッとしたように微笑んでいる。
僕はその笑顔を見て巨大な不安が押し寄せてくるのを感じた。
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