第26話 ムシキの結婚?

「あー、眠れない……」


 僕はベットの天井を見上げてそう呟く。


 テオドールさんと別れてから、部屋で4時間ほど目を閉じていたけど、全く眠りに着けなかった。


「でも、テオドールさんが僕たちを見逃してくれるとは思わなかったなぁ」


 僕は瞼を閉じベットに寝ながらその時のことを思い返す。



「テオドールさん!僕たちのことと『女神の涙』について―――見逃してくれませんかぁああああ!!」


 僕は綺麗な直角で頭を下げる。


「ムシキ、こんな奴に頭を下げる価値何て無いわ」


「カレンっ!!何を言ってるんだ!このままだと僕たち打ち首の刑だよ!!」


 僕が必死にカレンに訴えても「ふん、私とムシキならこの国を滅ぼせる」と言い、全くテオドールさんに対して誠意を感じさせない態度を取った。


「もう……」


 僕はどうしようもないカレンに溜息を落とすと、テオドールさんは「ははは……」と笑った。


 僕たちは笑っているテオドールさんを見て目を合わせた。


「どうしたんだろうね?」


「さぁ、わからないわ」


 僕たちは顔を寄せて小声で話しているとテオドールさんの笑いが収まりこちらを見る。


「わかった―――君たちの全てを見逃そう」


「「えっ……」」


 まさかの、テオドールさんの見逃す宣言を聞いて、僕たちは声を揃えて素っ頓狂な声を出す。


 本当に僕たちを見逃してくれるのか?


 そう疑いの眼差しでテオドールさんの瞳を見ると。


「…………」


 そこには初めて会ったときのような陰りは無かった。


 だから僕は―――


「カレン、宿に戻ろう」


「ムシキ!あいつの言っていることが本当だとは限らないわ」


「ううん、テオドールさんの言っていることは本当だよ。だから―――信じよう」


「………っ!」


 カレンは僕の言葉と自分の気持ちとの差に、納得のいかない表情を浮かべるが

「……わかったわ」と僕の言葉を信じてくれた。


「ありがとう、カレン」


 そう感謝を告げるとカレンは照れ臭そうにする。


 僕はそんなカレンに「ふふ……」と微笑んでからテオドールさんの瞳を真っ直ぐに見る。


「本当にありがとうございました。テオドールさん」


「あぁ、娘のこともよろしく頼む」


「はい、行こうカレン」


「えぇ……」


 そうしてちょっぴり不機嫌なカレンと共に宿へと帰った。


 そして、今に至る。



「テオドールさん……優しいなぁ……」


 僕はテオドールさんの優しさを思い出しながらベットから起き上がる。


 顔を洗い、歯を磨き、制服に着替える。


「よし、行くか」


 そう呟いて部屋を出て廊下を歩く。


 昨日の宿での夕食のときにアイシャ先生が、自由に皇都を探検することが今回の社会科見学の目的だと言っていた。


 ―――社会科見学なのかそれは


 そう思ったが、竜人の生活について知ることが目的だから、強ちあなが間違ってはいないだろう。


 そして、階段を降り一階の受付カウンター兼食堂スペースに向かった。


 すると、食堂の席に座っているアイシャ先生と入口付近の壁に腕を組みながら寄りかかっているカレンがいた。


「おはようございます。ムシキ君」


「おはよう、ムシキ」


「おはよう、カレン、アイシャ先生」


 僕がそう返すとアイシャ先生が僕の顔をじっと見て心配そうな表情をする。


「ムシキ君……昨日よく眠れなかったのですか?」


「あぁ~はい実はちょっと―――


 僕が寝不足の理由を正直に話すと、アイシャ先生が見たこともない笑顔を見せる。


「まぁ…!まぁまぁまぁ!!」


 アイシャ先生が、キラキラの入ったピンク色のオーラ纏いながら体をくねくねさせている。


「えっ?どいうこと?」


「はぁ~、ムシキの天然バカ」


 カレンが呆れながら僕に言い放つ。


 その瞬間、聞き捨てならないことを言われた僕は眠気が吹っ飛んだ。


「誰がバカなの!僕はおバカさんじゃないもん!!むぅ~~っ!!」


 僕が頬膨らませてカレンを睨むと、何故か「ふふ……」と手の甲で顔を隠しながら小馬鹿にされた。


 それが余計に―――僕の怒りを増幅させる。


 もう許さない!


「ちょっとカレン!いい加減に―――」


 僕がカレンに怒りを解き放とうとすると、アイシャ先生にがっちりとホールドされるように抱き締められる。


「ん!んんんんん!」


 僕は必死に抜け出そうと、くぐもった声を出しもがくが―――全く微動だにしない。


 何て力なんだ!!


 そう感心しながらも……僕の息は止まりそうになっていた。


「アイシャ先生!ムシキの顔が……!」


 カレンが僕を助けようとアイシャ先生に声を上げるとホールドを解いた。


「ぷはー……!」


 僕は床に膝をつき、窒息死から免れた自分を生き返らせるように呼吸を繰り返す。


「ムシキ……大丈夫?」


 カレンが僕の背中を摩ってくれる。


 そうすると、段々苦しみが無くなり身体が楽になって来た。


「ありがとう……カレン。カレンが止めてくれなかったら………死んでたよ……僕」


「気にしないで」


 死にかけた声で感謝を告げるとカレンは微笑んで返してくれた。


 本当にありがとう―――助かったよ。


 そう心の中でもカレンに感謝をすると、突然アイシャ先生が僕の腕を掴み宿を出ようとする。


「急にどうしたんですか!?アイシャ先生!」


 すると、アイシャ先生は立ち止まり僕の両肩に手を置いた。


「アイシャ先生?」


 僕がアイシャ先生の瞳を覗くように尋ねるとアイシャ先生の呼吸が荒くなる。


 何だか……まずい予感が……!


 そして、アイシャ先生は鼻息を荒くして目をかっぴらいて告げる。



「婚約指輪を探しに行きましょうっ!!」



「………」


 そう言い切って腕を掴むのではなく、恋人繋ぎをして再び進み始めた。


 この時、僕はこう思ったんだ。



 ―――誰もアイシャ先生を止められないと。








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