第19話 愛と嫉妬

「太陽の女神……ソール」


 僕がそう聞くと、目の前に来て両頬を手に添えられた。


「そうよ……私はあなたのお姉さんの……ソールよ」


 うっとりとした表情で答えた。



 どういうことだ?


 僕には姉なんて……ましてや人間の僕と神様であるソールとは全く別の存在だ……なのにどうして?



 僕の頭の中は疑問で埋め尽くされる。


「どういうことか、わからないって顔をしているわね」

「……っ!」


 僕が心の中を読まれ驚くと、女神がクスクスと笑った。


 すると、頬に添えられた手を離し女神の表情が真剣なものへと変わった。


「今からその疑問に答える前にあなたには知って欲しいことがあるの……聞いてくれるかしら?」


 女神は小首を傾げながら僕に聞いた。



 ……お父さんを傷つけようとしたことは許せないけど、まずは女神のことを知らなければ二人を



 それに、僕が女神の弟とはどういうことなのか……。



 だから、僕は女神の提案を受け入れた。


「……わかった聞くよ」


 僕の返答に、女神の表情がパーッと明るくなり僕に抱き着いてきた。


「ぐっ、離せよっ!!」

「ありがとう……お姉ちゃん……嬉しいわ……」


 何なんだこの女神はっ!?


 僕は女神が何を考えているのかわからず戸惑うが……。



「………っ!!」



 僕に向けられる笑顔を見てみるとお母さんの笑顔とよく似ていた。



 くそっ……僕が見たいのはこの女神の笑顔じゃないのに



 ―――涙が零れ落ちそうになる。



 僕は少しだけ自己嫌悪に陥りながらも、抱擁を無理やり抜け出し背を向ける。


「きゃっ!どうしたの突然……恥ずかしくなっちゃった?」

「違う……さっさと……話してくれ……」


 僕を揶揄う女神だが、僕は涙声にならないようにするのに必死なため、弱い口調で女神に促した。



 ……じゃないと許してしまいそうになる。



「……わかった、今から話すわ―――あれは数千年前の出来事よ」



 僕は女神に背を向けたまま話を聞いた。




~side太陽の女神ソール~



 私とマーニは、天上の世界『アースガルズ』で姉弟仲良く二人で暮らしていた。


 勿論、私たち以外の神々も大勢そこで暮らしている。


 私たちは平和な日常を過ごしていた。



 なのに―――ある日突然、全て崩れ去った。



「……ノート」

「……マーニ」



 私は偶然見てしまったのだ。


 弟と知らない女が、まるで恋人のように見つめ合いキスをしているところを。


 私の心が燃えたぎるような怒りと嫉妬の炎が渦巻いた。


 だから私は……。



「きゃあああ!!」

「ノート!!」



 ―――女の全てを燃やし尽くす勢いで魔法を放った。



 女の体が燃え苦しんでいる。


「ふふ……」


 私は思わず嘲笑ってしまった。



 だって―――女の苦しむ姿がとても愉快だったのだから。



 それに……全部この女の自業自得……報いを受けるのは当然だ。



 私のマーニを奪うから苦しい目に遭う。



 私のマーニを奪うから私に殺される。



 あんたみたいなが―――マーニの前に現れたのが間違いだったのよ。


「……マー……ニ……」

「ノートっ!!ノートぉおおお!!」


 どうやら、ゴミが燃やし尽くされ灰になったようだ。


「ノー……ト……」


 マーニがその灰に手に持ち俯いている。


 落ち込まないで……マーニ。


 お姉ちゃんがあなたのことを慰めるから、私の愛で悲しさを埋めてあげるから先にお家で待っているね。


 だから、私はマーニが帰ってくる前に家に行こうとした。


 すると、私の聞いたことの無い声でマーニがこう言った。



「許さない…殺してやる………殺してやるっ………!!」

「っ!!」



 全身が凍えるほどの殺気を、あのマーニが放った。



 あんなマーニ……私は知らない……!いつものマーニは……心穏やかで優しいのに……怒ったりなんかしないのに………何で!!



 しかし、心の中ではそう思っていても私は気づいていた。



 ―――マーニはあの女のことを愛しているのだと。



 だからこそ、怒っている……あの女のために。



 だけど私は認めなかった。



 だって―――私にはマーニだけ。


 マーニも私だけ。


 それ以外はいらないはずなのにマーニは



 ―――



「マーニ」

「姉さん……ぎゃああああ!!」



 私はマーニに愛の業火を放った。



 マーニは苦しみ悶えている。


 そんな姿さえもとても愛しい。


「まさかっ!姉さんが……ノートの……ことを……!!」


 マーニが苦しみながらも命を振り絞り私に聞いた。


 えっ?ノートのことを……どうしてあんなゴミのことを聞くの?


 そう思った私の心は―――さらに嫉妬で埋め尽くされた。



「ねぇマーニ……どうして……私だけじゃ……ダメなの?」

「姉さん……僕の質問に……答えてよ……どうして……ノートを―――」



「あんな女の話はしないでっ!!」



 私の発した突然の怒号にマーニは狼狽える。



 でも、マーニの瞳には怒りが残っていた。



 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてっ!!


「ぐっ!!」


 私はマーニが女のことを思っていることに唇を噛む。



 ―――瞬間、私はあることを閃いた。



 しかし、その方法はあまりにも時間がかかってしまう。


 だけど、今のマーニは私の知っているマーニじゃない。


 元に戻すためなら、どんなに時間がかかっても構わない。


 私はそれを実行することにした。


「マーニ……しばらく眠っててちょうだい」

「がはっ!!」



 私は燃えているマーニの心臓を手で貫きあるものを掴む。



「あった……これがマーニのね」



 私は手に持っているマーニの魂を愛おしく撫でる。



 これで元のマーニに戻すことができる。



 ―――私のことしか考えられないマーニに。



「………」


 私が悦に浸っているとマーニが灰に変わっていた。


 悲しみはしない―――だって。



「大丈夫よマーニ………数千年後、私たちは巡り合えるわ」



 灰を見て私は微笑んだ。





「同族殺しのソールを殺せぇええ!!」


「「おぉー!!」」


 私が弟とゴミを殺したことからで私を殺そうとしている。


 今、私のところに襲い掛かっているのもそれだ。


 無駄なことを……私に勝てるわけないのに。


「燃え尽きろ」


「「ぎゃああああ」」


 私の放つ魔法に向かってくる敵は燃え尽きて死ぬ。


 その光景を見て私は決意を込めて言葉にする。



「私はこんなところで殺されるわけにはいかない」



 ―――マーニを元に戻すまでは。



 その決意がある限り、私は死ぬつもりはない。


 例え、同族であっても私の邪魔をするものは全て殺す。


 だから、私を殺そうとする神々を全て燃やし尽くした。



「これでやっと!マーニの魂の修復できる!!」



 ……そう思っていたのに、唐突に私たちが創造した地上で『悪魔』が現れたようだ。


 ―――それは私の計画の大きな害悪であった。



 マーニの魂を修復させるのにが必要だった。



 輪廻転生をすることで本来のマーニへと補完されていくのだが……。


 それはにしかできないことだ。


 私のような神は輪廻転生という概念を持ち合わせていない。


 だから、私は何としても地上の民を守らなければならない。



 ―――全てはマーニのために。



『悪魔』を全滅した。


 あまり苦労はしなかったが、時間の無駄だと思った。


 本来ならマーニの魂の修復のために時間を割きたかった。


 だけど、マーニのためならと思い我慢した。


 また、私が『悪魔』を滅ぼしたことで地上を救った唯一神として崇められるようになったらしい。


 そのとき私はこう思った。



 ―――何かに利用できるのでは?



 まず、私が始めたことは地上の民の人族に、『女神の涙』という名の仮初の宝石を授けることだ。



 実際には、マーニの魂が完全になる前に私のところ来るための道具だ。



 私がそれを授けた理由はただの人では私の元へ来れないから。



 それに輪廻転生しているとはいえ



 ―――マーニの魂にが残っているかもしれない。



 だから、完全なマーニにする前にゴミの記憶を除去しないと。



 あぁ、楽しみだわ。



 数千年後に、本当のマーニに会えると考えるだけで胸の高鳴りが止まらない。



 まるで―――恋人の帰りを待っているかのような気持ち。



「ふふふっ……早く……帰ってきてね……マーニ……」



 そうこうしているうちに、消えかけていたマーニの魂を修復した。



「これなら魂を授けても問題ないわね………」



 私は希望に輝く未来を想像しながら、に天からマーニの魂を与えた。




「ふふ……楽しみね……」

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