竜騎士学園の【自称】落ちこぼれと【ガチ】落ちこぼれ~落ちこぼれと呼ばれている少女を、見て見ぬふりするなんて出来ません!!上辺だけで判断する価値観なんて、ぶち壊してやりますよ~

大豆あずき。

第1話 入学初日、幼馴染と過去

 教室の扉の前に立つと、クラスメイトたちの楽しそうにしている話し声が良く聞こえた。

 

 僕は談笑の妨げをしないよう、静かに扉を開け教室に入る。

 

 教室の中を見渡しある人を探す。


 ――いた。


 幼馴染のカレンを見つけた。カレンは窓際の最後列、一人で外の景色を眺めていた。僕は静かな急ぎ足でカレンの元へと向かう。


「おはよう、カレン」

「ん?あぁ、おはようムシキ」


 カレンは、微笑みながら挨拶を返す。僕はカレンの隣に空いている席に座ると突然、カレンが僕の両頬を手で挟み無理やり目を合わせられた。


「ふぉうしたの、ふぁレン?」

「来るのが遅かったから心配したのよ。あなたは、ぼぉ~としているから、何かあったのかと思って」


 カレンは顔から、腕、お腹と上から順番に僕の体を触り、怪我がないか確認をした。


「大丈夫だよ!ここに来る途中、綺麗なお花が咲いていたから見ていただけだよ」

「だとしても、お花に集中しすぎて、誰かに誘拐されかねないわ」

「いや、もう15歳だよ。そんなことはありえないって」

「いえ、ありえるわ。あなただもの」

「えぇ~」


 そう、カレンは僕に対して、過保護すぎるくらいに過保護だ。まぁ、そうならざる負えないきっかけになったのは、10年前のことだった。


 竜皇国グランゼルが神聖王国アスタリアの国宝『女神の涙』が埋め込まれた首飾りを強奪された。


 国宝が保管されている神殿の結界が破壊され、そこから侵入し盗んだそうだ。


 また、神殿を守護していた聖騎士たちは首や腕が切断されており、惨たらしく殺されていた。


 竜皇国のこの行為は、遥か昔に約束をした、不可侵条約に反するものとして人間と竜人の戦争が始まった。


 その戦争に僕の両親も参加していた。


 父は神聖王国最強の聖騎士であり、母は女神の生まれ変わりとされる聖女だ。


 神聖王国の最高戦力であった父エルギスと母アリアがこの戦争に出陣するのは必然だった。


 僕は戦争の間、カレンの家族に預けられ、両親が生きて帰ってくるのを待っていた。


 そして、神聖王国と竜皇国はこれ以上の被害を生み出すのは国家存亡の危機にさらされると判断し、両国は平和条約が結んだ。


 しかし、平和条約が結ばれ、戦争が終結したというのに、僕の両親は帰ってこなかった。


 そのことを不思議に思った僕は、カレンの父に尋ねるとあることを伝えられた。


「……エルギスとアリアは消息不明だそうだ。生きているのか死んでいるのかもわからない状態だ。今も捜索を続けているが……もうっ」


 カレンの父が唇を噛む。カレンの父から告げられた話に、僕は父と母に会うことはもうできないのだと悟った。


 そして、僕はあまりにショックで意識を失った。


 その後、意識を取り戻した僕はひどく泣き腫らしたカレンに抱き着かれた。


 カレンの父によると、僕は無意識のうちに、近くのテーブルに置いてあったナイフを自分の首元に当てようとしたようだ。



 ―――自殺しようとしていた。



 すぐさまナイフを持っている僕の手をカレンの父が押さえ、首に軽い切り傷ができただけだった。


 そんな出来事があってから、カレンは僕の近くを離れず、守ってくれるようになった。


「やっぱり、私があなたを見守っていないと……」


 カレンは僕を胸元に抱き寄せ、髪を梳くように頭をなでなでされる。カレンの艶やかな長い黒髪が僕の頬に当たってくすぐったい。


 さすがに僕は、人のいる教室の中で抱きしめられるのは恥ずかしい。何とか離してもらえるよう、上目遣いになりながら目でカレンに訴えたが……。


「ふふ…かわいい」 


 逆効果であった。


 僕の余計な行動でさらに強く抱きしめられる。


「カレン…死……ぬ」

「あぁ、ごめんなさい」


 カレンはまだ抱きしめたいそうだが体を離してくれた。「死ぬかと思った。ハグで窒息死なんてどんな死因なのだよ!聞いたことないよ!」と思いながら呼吸を整えていると僕とカレンの前に、ある男がやってくる。


「おい、カレン!朝からこんなゴミクズとイチャついてんだよ!お前までゴミクズ無能菌が移っちまうぜ!」


 男が僕に向かって指を差しながら罵倒した。この男はアベル、赤髪に高い身長のイケメン君だ。


 そんな彼は僕にだけ罵倒をする。僕以外には紳士な対応なのになぜだろうか。


 その答えは……僕の幼馴染であるカレンだ。


 カレンの隣にいる僕に嫉妬しているのだろう。そんな僕が気に食わないから、意地悪をするのだ。


 僕はアベルとカレンの青春をより煌びやかにするために、今、僕のやるべきことはただ一つ!


「ねっ、アベル!よかったらカレンの隣、座る?」


 僕は席に座りながらアベルの目を見てそう言った。


 下からアベルを見上げているため、になってしまったが、カレンとアベルの青春の一ページを作ることができた。


 そう思っていると、だんだんとアベルの顔が真っ赤に染まっていった。


「は、はぁ―!!べ、別にお前のことなんか好きじゃねーし!!女男のお前なんか好きになるわけねーだろうがっ!!バーカ!!!」


 予想外の返答にえっ、と僕とカレンが驚きを声に出した。


 質問と返答が全く嚙み合っていないし、なぜ、僕がアベルに愛の告白をして、断られるという状況になるのだろうか。


 摩訶不思議である。


「あんた、ムシキは席を変えようかと聞いているのに、愛の告白と勘違いしているのかしら?バカじゃないの」

「ふぇ?」

「あぁ、もしかしてあんた、ムシキのことが好――」

「ぎゃぁあああああああああ!!!」


 アベルはカレンの声を遮るように叫んだ。


「まぁ、でも私のかわいいムシキに手を出したら……わかっているでしょうね」


 僕とアベルは、カレンの殺気の孕んだ声に「ヒィイ!」と、何とも情けない声を出す。


 いつも優しいカレンが、こんなに怖い顔をして怒っているのを初めて見た。


 僕が魔法と剣術の才能が無くて、アベルたちにいじめられていたときよりも遥かにカレンは怒っていた。


 カレンの殺気にあてられたアベルは、恐怖のあまり真っ白な抜け殻と化していた。


「あんた、さっさと自分の席に戻りなさい。私とムシキの邪魔よ」

「ふぁい……」


 アベルは、直立不動のまま、小さな歩幅でトコトコと自分の席へと帰っていった。


 僕はその様子を見ていると、カレンが僕の手の甲に手を重ね微笑んだ。


「あなたのことは私が守るわ……ずっと…ね?」

「あ、あははは………」


 うん、カレンには一生逆らわないようにしよう。そう思っていると、教室の扉が開かれた。


 教室の扉から入って来たのは、ボサボサの黒髪に無精ひげの生えた死んだ目をしている男性と背の高い美人な竜人の女性だった。


「お前ら、席に着け。ホームルーム始めるぞ」


 男の方がそういうと、騒がしかった教室の空気が一変し、自分の席へと座った。


「え~、まずは入学おめでとう。俺はこのクラスを指導するシルバだ。そして、隣にいるのは同じく先生のアイシャだ」

「よろしくお願いします」


 アイシャ先生が丁寧なお辞儀をする。シルバ先生はだらしない感じがするが、アイシャ先生はしっかりとして大人な女性という感じだ。


「皆、この難関な試験を突破した仲間だ。人間とか竜人とか、身分など関係なく切磋琢磨し合ってくれ。はいっ、以上」

「待ってください、シルバ。まだ説明することがあるでしょう?」

「あ~面倒くせぇ~、あとはお前が適当にやっといてくれ。俺は寝る、ぐかー」

「ちょっ!寝ないでください!」


 シルバ先生はそのまま立ちながら大きく口を開けて寝た。


 アイシャ先生が両肩を掴んで強く揺らしても起きる様子はなく寝ていた。


 しかし、先ほどシルバ先生が言ったようにここ、グランフィール竜騎士学園は難関の極みである。


 入学試験では、魔法と剣術の実技試験、戦術など戦に必要な知識を図る筆記試験があった。


 両方ともレベルの高い試験で、合計で200点中120点以上を取ることが合格の条件だが、その壁を超えることが困難だ。


 僕は一度見たものや聞いたことは覚えているため、筆記試験は容易に満点を取ることができた。


 でも、問題は実技試験だった。僕は周りからしたら、弱い存在だと認識されている。


 だから、を隠しながら、合格に必要な20点を獲得しなければならなかったのだ。


 僕は何とか、上手く力をコントロールし、合格に必要な20点分を取り入学試験を突破することができたのだ。


 そう入学試験のことを思い返していると、シルバ先生を起こすのを諦めたアイシャ先生が溜息を吐いた。


「はぁ、ここからはシルバ先生に変わり、私が説明を致します」



 アイシャ先生がシルバ先生の襟首を片手で掴み、教室の外へと放り投げた。




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