第44話 国家冒険者

 俺に金をたかりに来たサラ。肉体関係を匂わせたりと、ある意味で最悪の嫌がらせだった。

 女性経験の無い俺のような男にはダメージがデカい。


 とは言ったものの……パーティーメンバー全員とキスをしてしまったのだから、いつの間にか経験を増やしている現状である。


「どうしてこうなった……」


 結果として、サラの匂わせ行為が皆の性欲や禁断症状やお世話欲に火をつけてしまったようなのだ。


「アキ君っ! キミは目を離すと女子に捕まっちゃうみたいだからな。ボクがずっと一緒にいないと。もう離さないぞっ♡」


 前から距離が近かったレイティアだが、更にグイグイ来ている気がする。いくら何でも俺の腕を掴んだまま離さないのは如何なものか。


「アキちゃぁ~ん♡ アキちゃんってモテるのね。悪い子のアキちゃんはぁ♡ お姉さんと強制密着刑でーす♡」


 さっきからアリアが魔法の手錠で二人の手を繋げようとしている。そんな呪いアイテム何処で手に入れたんだ。


「アキっ! あんた無意識に女を堕として回ってるでしょ! これはアタシの教育的指導が必要みたいね。やっぱりアタシが添い寝するしかないじゃない。もうっ、しょうがないわね♡」


 誰も堕としていないはずなのに、シーラが女教師のように指導しようとする。こんな可愛いロリ女教師なら怖くない。


 だが、俺が限界になる前に、このお姉さんたちを何とかしないと。


「ちょっと待ったレイティア、それ健全な男子にはキツいんだって。もう柔らくて良い匂いで限界なんだ」

「へ、へぇ……あそこ……が限界なんだ。ボクとくっついて……はうぅ♡」


 レイティアが照れている。

 照れるくらいなら下ネタはやめてくれ。


「それからアリアお姉さん、変な呪いアイテム付けるの止めてください」

「アキちゃんが悪いのよ。私を焦らしてイジワルするから♡ もう、私……どうなっちゃうか分からないから♡」


 ヤンデレ目でアリアが言う。本当に何をするか分からなくて怖い。


「あ、アタシは仕方なくよ。あんたが悪い女に捕まっちゃうと困るから、仕方なくお世話してるんだからね。って、コラぁ! もっとアタシに構いなさいよぉ♡」

「お、おい、シーラ、仕方なくなのか構って欲しいのかどっちだ?」

「どっちもよ!」


 シーラまで密着してきた。これは絶対仕方なくではない。


「くっ、こんなの我慢できないぜ……。俺……どうなっちゃうんだ」


 そんな激しくもイケナイ感じの毎日が続き――――

 


 ◆ ◇ ◆




 遂にその日がやって来た。


 俺たち閃光姫ライトニングプリンセスが国家冒険者に推薦されたのだ。今日が国王に謁見えっけんする日である。


 城門をくぐったそこは、規則正しく敷き詰められた石畳と綺麗に植えられた花壇が壮観な景色だ。

 帝国と比べれば小さな国だが、それでも田舎育ちの俺には豪華に見える。


 王城の長い絨毯を進み、玉座の間で俺たちは平伏した。


「皆の者、おもてを上げよ」


 威厳のある低い声が室内に響き渡る。

 声の主はアストレア王国の国王、エゼルリード・ガウザーその人だ。


「そなたらが冒険者ギルドから推薦状を得たパーティーか」


「はっ、この度は国家冒険者の称号を賜り、恐悦至極にございます。陛下」


 代表して俺が答えた。


 何となくリーダーっぽいレイティアが挨拶するのかと思っていたのだが、直前になって緊張でオロオロした彼女が俺に代わってくれと言い出したのだ。


 そんな本番に弱いところも可愛いから仕方ない。


 つつがなく行事も終わるかと思った矢先に、それは起こった。


「これ、そこの女冒険者よ、陛下の御前であるぞ。帽子を取らぬか」


 横に立っていた気難しそうな顔をした貴族が、突然アリアのかぶっている帽子にイチャモンを付けたのだ。

 本来、女性の帽子はファッションの一部とされており、室内でも問題無いはずなのだが。


「は、はい……」


 恐る恐るアリアが帽子を取った。


 ザワザワザワザワザワ――――

「おい、あのツノは……」

「魔族なのか?」

「国家冒険者に魔族というのは……」

「だがしかし、魔族だからと取り消すのも」

「これは国の威信に関わる問題ですぞ」


 周囲から好奇の目に晒され、アリアがうつむきくちびるを噛む。


(アリア! どうして、どうして魔族だからと偏見の目に晒されないとならないんだ! こんなの間違ってる!)


 会場の騒めきは収まらず、国王エゼルリードは困惑した顔になる。

 俺は意を決して立ち上がった。


「陛下、少しよろしいでしょうか」


「貴様、陛下の御前であるぞ!」

「不敬だ! 陛下に意見する気か!」


 周囲から声が上がるが、エゼルリード陛下が手で制して黙らせる。


「許す、申してみよ」


「はっ、畏れながら。このアリアは魔族の血を引いておりますが、冒険者としてギルドでも日常生活でも問題を起こさず真面目に取り組んでおります。誰にも後ろ指をさされるいわれはありません」


 俺は国王と周囲の貴族に向けでハッキリと述べる。


「魔族との長きにわたる戦争が終結して百年が経ちました。いまだ魔族に対する差別や偏見と共に猜疑心さいぎしんが根強く残っているのは承知しております。しかしながら、今ここに魔族である彼女を国家冒険者として認めるのは国益になると考えた次第です」


「その国益とは?」


 静かだが重々しくエゼルリード陛下が問いかけた。


「はっ、我が国は西に強国であるヘイムダル帝国と国境を接しており、北方領域では魔族強硬派が魔王を信奉しております。いまだ火種は燻ぶっており、いつ争いが起きるやも……」


 少しだけ間をおいてから続ける。


「しかし、我らアストレア王国が魔族を国家冒険者に起用しているとの話が広がれば、魔族たちとの緊張を和らげ、尚且つ帝国に対する牽制にもなりましょう! 帝国としても、我が国と魔族、両方との対立は避けたいはずです」


「なるほど。そなたの話、一理あるようじゃ。北方の魔族と西方の帝国、両者との外交バランスを保ち安全保障に繋げるのじゃな」


 エゼルリード陛下が頷く。

 今適当に考えた外交関係の話だが、何とか役に立ったようだ。


 しかし、熱くなった俺は余計なことまで話し始めてしまう。俺のアリアが誹謗中傷されたら止まらないのだ。アリアを想う気持ちが次々と溢れてくる。


「それに、彼女をよくご覧ください!」

「ふむ、それはどのような意味であるか?」

「アリアはとても美しい!」


「「「おおおおおお!」」」


 俺の言葉で会場がざわつく。

 パーティーメンバーも驚きの声を上げる


「ちょ、ちょっとアキちゃん♡」

「アキ君っ、何を言ってるんだぁ!」

「あ、あんた、また本音が漏れてるわよ」


 熱くなった俺は何人なんぴとたりとも止められない。


「ああっ! 薔薇ローズのように鮮やかで煌びやかな髪に、宝石のように妖しく輝く瞳! くちびるは天使の羽のように柔らかく、豊満な胸はまるで神の奇跡のようだ! 彼女に罪が有るとするならば、それは美し過ぎる罪だろう! こんな彼女を、誰が咎められようか!」


 ザワザワザワ――


「「「おおおおおお! 確かに!」」」

「おっぱいなら仕方ない」

「そうじゃ、あの魅力……罪な女じゃの」

「なるほどなるほど、巨乳なら無罪ですな」

「魔族は嫌いだが、巨乳美女ならしょうがないか」


 俺の話に感化された貴族が好き勝手に言う。まあ、当初の批判も消えたので良しとするか。


 きゅぅぅぅぅーん♡

「ふへぇええっ♡ アキちゃぁん♡」


 アリアの方から危険な音が聞こえてくる。

 禁断症状だろうか。


 こうして、無事? 俺たちは国家冒険者として認められた。


 ◆ ◇ ◆




「ふうっ、一時はどうなるかと思ったけど、無事に終わって良かったよ」


 家に戻った俺は、緊張から解放されホッと息を吐き出した。

 ただ、緊張からは解放されたが、ヤンデレ化が進んだアリアからは解放されないのだが。


「ぐふっ♡ ぐへへぇ♡ アキちゃぁ~ん♡ しゅきしゅきぃ♡ やっぱりアキちゃんは運命の人なのぉ♡ もう一生離れないからぁ♡」


 トロトロに蕩け顔になったアリアが俺から離れない。


「ど、どうしてこうなった……」

「はぁあぁん♡ もう胸のドキドキが止まらないかもぉ♡」

「き、禁断症状ですか?」

「ねえ、アキちゃん♡ さわってさわってぇ♡」


 神の奇跡のような胸を突き出される。


 他のメンバーに助けを求めようとしても、さっきからもの凄い嫉妬顔で「ぐぬぬぬぬ!」と唸っているのだから困ったものだ。


 ますます眠れない日々が続きそうな気がする。


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