怪談『挟まる人』と、真相『流行りのアレをふせぐ者』
こんな怪談がありました。
『挟まる人』
もうこれ、なんなのか教えてください。
僕の家の近所に、どの家も高めの壁で庭を囲っている地域があります。
生垣やフェンスじゃないんですよね。ブロック塀だったり、お洒落レンガだったり、万年塀だったり。
見た目は様々ですが、どの家も道路沿いに背の高い壁を立てているんです。
それは別に不思議じゃないんですけどね。
高い壁の民家が続く、住宅地の中を通る道路。
僕は駅までの通勤に使っているんです。
道路には電信柱があって、壁との隙間には人ひとり通れるくらいの幅があって。
歩道のない狭い道なのに車通りが多いので、電信柱と壁の隙間を歩いて行かなきゃいけないこともあるんです。
それなのに時々、電信柱と壁の隙間を、ふさいでいる存在がいるんですよ。
頭があって人の顔があって、二本足で立っているように見えますが人間じゃないんです。凹凸のない壁のような見た目をしています。
麺棒で平らに
隙間を埋めるために膨れたような、詰まるように挟まったような。
目は虚ろで口も半開きのまま、ぼんやりどこかを眺めているように見えます。
呼吸するように動いていますね。
これは幽霊? 妖怪? さすがに宇宙人ではないですよね。
太りすぎた『通せんぼ妖怪』ですか?
気持ち悪いし、不気味だし邪魔だし。僕の幻覚でしょうか。
石でも投げてみたら、すり抜けるんでしょうか。やめた方が良いのだろうとは思いますけどね。
どうやら、車で通過するドライバーたちには見えていないようで。
挟まっている存在が居たら、電信柱と壁の間を通れません。
電信柱の前で車が通り過ぎるのを待っていると、電信柱の向こう側を通ればいいじゃないかみたいな、ドライバーの視線が腹立たしいんです。
石でも投げつけたくなるでしょう?
電信柱と壁の間に、人が通れるくらいの隙間が空いている場所。
その隙間に、じっと立っている人を見かけたことはありませんか。
そういう隙間は、別世界への入り口なんて話も聞いたことありますけど。
そういう入り口を、塞ぐための存在だったりするのでしょうか。
――――という、怪談の真相は?
『流行りのアレをふせぐ者』
ふっくらとした、大柄な男性の姿ではあった。
しかし、話し手の順が回ってくると、その男性はグーっと両腕を真上に伸ばした。
参加霊たちは、見上げながら目を丸くする。
餅のように長々と伸び上がり、スーッと縮んで元の姿に戻る。
人間の骨格ではないことが一目瞭然だった。
「あぁ、広い所はいいですね! いつも狭い所に詰まっているものですから」
そう言って、元通りの姿に戻った大柄な男性は話し始めた。
パラレルワールド、異次元、異世界、あの世……。
そういった場所に出入りできる、
人が通れる隙間だったり、椅子の脚の間だったり、立て掛けたよしずと壁の間だったり。
たまたま繋がってしまうあちらとこちらで、行き来のないように。
門をふさぐのが私の役目です。
特に私は閉じることのない、人間が通れる大きさの隙間を担当しています。
ふすまの開け方が悪いと、どこか別の場所に繋がるという話があるでしょう。
過去や未来だったり、同じに見えて違う世界だったり、全く未知の場所だったり。
一度踏み込むと戻れなくなるので、向こう側が妙だと感じたらふすまを閉めて開け直すといいと言われています。
最近ではふすまも少なくなりましたが、それにあたる場所は多くあるんです。
道路に立つ電信柱と壁の隙間だったり、仕切りがなく向こう側が見える本棚のひと枠だったり。
潜り抜けるだけで別次元へ行ってしまうと、あちらにもこちらにもよくない影響が出ます。本来は門などなく、行き来できない場所のはずですからね。
長く使われていない
そういう場所は、子どもたちのかくれんぼが要注意です。
そういう場所の担当も、私と同じ『ふさぎ』と呼ばれる者たちが対処しています。
近頃は
どうやらフィクション作品によるイメージのようですが、人間の意識とは不思議なもので。
漠然とした興味でも、門を開けてしまうことがあるのです。
他所の世界の存在など知らなければ、そんなこともないのですけどね。
大抵はフィクション作品によるイメージとは、かけ離れた場所へ出てしまうので、私たちが隙間をふさいでいるわけです。
大柄な男性は話し終えると、やわらかな動きでお辞儀をした。
参加霊たちの拍手が静まると、怪談会MCの青年カイ君は、
「異世界転生だったり、転移とか召喚とか。ファンタジー作品に留まらない影響が、この世にも表れているのですか」
と、聞いてみた。
大柄な男性は大きく頷き、
「怪談やホラー作品が有名になると、死者が幽霊としてこの世に残ることを意識するのと同じです」
と、話した。
「――なるほど」
怪談会の参加者は、みな幽霊だ。
妙に納得してしまい、参加霊たちが驚嘆の表情を見せる。
「それは重要なお役目ですね。貴重なお話を、ありがとうございました」
もう一度カイ君が拍手すると、参加霊たちも目をパチパチしながら拍手を重ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます