怪談『ほこり』と、真相『虚童君と子守部ちゃん』
こんな怪談がありました。
『ほこり』
近所に住む友人が、お兄さんと二人暮らしを始めました。
建売賃貸の、小さい一軒家。
一階の半分は車庫になっていて、お兄さんの車が停められています。
そのお兄さんは看護師さんで、夜勤も多いのだそう。
大学生の友人が一人になる夜は、ビール買ってあるから飲みに来ないかと呼ばれます。
ビールと夕食をご馳走する代わりに、家の掃除を手伝ってほしいと。
家事は友人の担当という約束で、お兄さんが借りた家にタダで居候しているのです。
僕も出不精で暇な大学生。
わざわざ居酒屋へ出かけるのは億劫ですが、近所の友人の家なら気軽に行けます。
夕方に呼ばれて軽く掃除を手伝ってから、夕食を兼ねた家飲みが始まるんです。
いつも僕は、掃除機がけを担当します。
2階にあるリビングの隅に細い階段があって、屋根裏というか、広めのロフトに上がれるんです。
物置替わりにしている場所のようですが空調の関係なのか、そのロフト部分からほこりが落ちてきます。
なので、まずは上から。掃除機を抱えてロフトに上がります。
薄っすらほこりが溜まっているので、いつも適当に掃除機をかけます。
でもその日は、ちょっと様子が違ったんです。
ロフトの明かりをつけてみると、積もったほこりに無数の小さい足跡がつけられていました。
大人の足跡はなく、小さな子どもの足跡ばかり奥の方まで。
慌てて、友人を呼びました。友人は呑気に、
「なにこれ。アート?」
などと、言っています。
「あんな奥まで、自分の足跡つけずにどうやって小さい足跡つけるんだよ。親戚の子でも来たんじゃないのか」
と、聞いてみました。
「親戚に子どもとかいないし」
「じゃあ、この足跡は?」
「兄貴が子どもの足跡作って遊んだんじゃね?」
「お前の兄ちゃん大丈夫か」
「普通に元気だけど」
そんな会話をしだけで、友人は気にせず階段を下りて行きました。
僕は、その部屋で妙な足音を聞いたことはありません。
それに誰も居ないはずの家の中で足音など聞こえれば、面白がって教えてきそうな友人です。
お兄さんも、滅入るくらいなら美味い物を食べまくるような性格だったはず。
掃除を終えて夕食をご馳走になっている間も、ロフトは静かなものでした。
僕たちが気付かないだけで、見える人や聞こえる人には足音などがわかるのでしょうか。
ほこりが落ちてくるほど空気の流れがあるなら、ほこりは吹き溜まりに集まるものではないでしょうか。いつも薄く、ほこりが敷かれているのは妙だと思っていました。
掃除機で吸い込んで、ほこりと一緒に足跡も消えてしまいましたが、またほこりが積もるころ、新しい足跡がつくのかどうか気になっています。
――――という怪談の、真相を聞いてみましょう。
『虚童君と子守部ちゃん』
寄せ合う2枚の座布団に、幼い少年と少女が並んで手をつないでいた。
小学校低学年ほどに見える少年少女だ。
ふたりとも、Tシャツに短パンというラフな服装をしている。
「座敷童じゃなくて、なんだっけ」
と、少年が少女に聞いた。
少女は大人びた表情で、
「
と、答えた。
「うつろわらし」
復唱する少年に頷いて見せ、少女は参加霊たちに、
「この子が虚童。生霊なの。私は
と、話した。
怪談会MCの青年カイ君は頷きながら、
「虚童君と、子守部ちゃん?」
と、聞いた。少女は、
「どっちも名前じゃないの。状態って言うか、役割って言うか」
軽く首を傾げながら、少年に目を向ける。
少年は珍しげに、寺の本堂を見回していた。
その様子に薄い笑みを向けながら、少女が話し始めた。
この子は事故にあって、体は意識不明で眠ってる。
でも、もうすぐ目を覚ますの。
そういう状態の生霊とか、お迎えがなかなか来ない死霊も虚童っていうんだけど。
子どもって、じっとして居られないから。
生霊の状態で体から離れ過ぎてしまうと、すぐ迷子になる。
悪い霊や魔物に食べられちゃったりもする。
寿命が残っている生霊を吸収すると力を得られるとか生き返れるとか、勘違いしてる悪霊がいるんだって。
死んでもおかしくない状態の生霊なら、死なせても罪に換算されないとか。
そんな訳ないんだけどね。
それで、そうならないように、虚童の時がくるまで面倒をみてあげるのが子守部。
私の役割。
ほこりが積もった屋根裏に子どもの足跡がたくさん付いてるとか、明らかに子どもがいない場所で遊ぶ声がしてるとか。
そういうのの大部分は、私たちの遊びが原因。
時々、気付いて怖がる人も居るけど……相手は子どもだからさ。
小さい子どもが、そういう状態になってるの。怖がるより、可哀そうだと思ってほしいなって思う。
生きてる人の優しい気持ちだけで、浮かばれる子もいるから。
子どもの姿をした悪霊や魔物もいるし、なんとも言いにくいんだけどね。
ここの怪談会も、面白そうだったから。
今日は、この子と一緒に遊びに来たの。
話し終えると、子守部の少女はにっこりと笑った。
参加霊たちが、ハフハフと拍手する。
薄ぼんやりとした幽霊の両手なので、パチパチとハッキリした音は出ない。
「虚童は人間。私は、逝き先案内人の親戚みたいなもの」
と、子守部の少女が言った。
「……逝き先案内人の親戚かぁ」
と、カイ君が苦笑する。
逝き先案内人。死者を、あの世へ導く存在だ。
様々な理由で、この世に残っている参加霊たちは苦笑いだ。
その表情を読み取ったのか、子守部の少女は、
「私は子ども専門だから。子どもが相手でも、無理やりなことはしないし」
と、言って、含み笑いを漏らす。
MCのカイ君に目を向け、
「お兄さんは、私の仲間だね」
と、言う。
「仲間?」
カイ君は目をパチパチさせた。
「ここは死後の人たちにとって大切な役割だと思う。私みたいな存在にもウェルカムだし」
そう言って少女は、少年とつないでいる手を揺らした。
少年も楽しげな表情で聞いている。
「それは光栄です」
照れ笑いを見せるカイ君にも、参加霊たちはハフハフと拍手を送った。
「ありがとうございます。それでは、次のお話に移りましょう」
幽霊や様々な存在による怪談会は続く。
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