怪談『窓辺の花』と、真相『手向けの花』
こんな怪談がありました。
『窓辺の花』
これは怖いというか、不思議な話なんですけどね。
私の家の隣は一人暮らしのご老人が住んでいたんですが、最近、空き家になったんです。
体調不良で入院されて、そのまま病院で亡くなったんです。隣の家で亡くなったわけではなくてね。
娘さんが来て、しばらく片付けをしていました。
それで、隣の家は不動産屋に頼んで、売るとか貸すとかにするってことは聞いていたんです。
ちょっと工事が入ったりもして、中はキレイになっていました。
うちのベランダから、お隣の家の窓がすぐ近くに見えるんですよ。
以前はカーテンが引かれてたんですが、今では古いカーテンも取っ払ってしまって、何も無い部屋の中が見える状態です。
別に中の様子をうかがってるわけじゃありませんが、ふと目がいくと、窓際に白い花瓶が置かれていたんですよ。
細身のシンプルな一輪挿しに、薄いピンクのバラの花が1本飾られていました。
不動産屋さんが、内装の写真を撮るために飾ったのかなと思ったんです。
でも、次に気が付いた時は、細いヒマワリに変わってたんです。その時は夏で。
秋口にはコスモスになって、その次は小菊になって、梅の花枝だった時もありました。
ちょっと、おかしいんですよね。
玄関前には枯れ葉が吹き溜まったままだし、娘さんはもちろん、不動産屋さんが頻繁に来ている様子もなかったんです。まぁ、気付かない内に来ていたのかも知れませんけど。
ただ、亡くなられたご老人はお花が好きで、お庭でも色んな季節の花を育ててたなっていうのを思い出すんです。
最近、パステルカラーのスイートピーから、真っ赤なガーベラに変わりました。
キレイに咲いていますよ。萎れているのは見たことが無いんです。
一体、誰が花を替えているのでしょう。
人の気配もなく飾られた花だけが変わるという、ちょっと不思議な話です。
――――という、怪談の真相は?
『
幽霊たちが集まる怪談会。
拍手が収まり、次に幽霊たちの視線が向いたのは品のいい高齢女性だ。
座布団が似合うなどと言っては失礼になるだろうか。
優しい笑みの和服女性は、座布団に座る姿もキレイだった。
ゆっくりとお辞儀し、和服女性は話し始めた。
どうしても、お花を届けたかったんです。
昔からご近所付き合いをしていた、お爺さんが亡くなられたんです。
お互い、独居老人同士でしたから。
茶飲み友だちだったんです。
でも、私が先に亡くなりましたので……。
自分が幽霊になっていると気付いた時には、ずいぶん時間が経ってしまっていたんです。
お爺さんも、亡くなられていましてね。
どうしても、お花を届けたかったんです。
生前も、私が庭で育てた花を、お裾分けしていました。
細身のシンプルな一輪挿しに、いつも飾ってくれていて。
私も花が好きだったので、子どもたちが仏壇やお墓に、いつもキレイな花を供えてくれるんです。
そこから、1本だけ持ち出しましてね。
初めは、薄いピンクのバラの花でした。
成仏なさったのか娘さんを見守りに行かれたのかわかりませんが、お爺さんのご自宅では会えなかったのですけど。
明るい窓際に、ピンクのバラを飾っておいたんです。
また少し経って、今度はヒマワリを届けました。
その時も、お爺さんには会えなかったのですけどね。
なんとなく誰かが、花を見てくれているのがわかったんです。
お爺さんと、行き違いになっているのかも知れませんね。
もう一度会えるまで、花を届け続けようと思っています。
話し終えて和服女性がお辞儀をすると、他の参加霊たちが静かに拍手した。
怪談会MCの青年カイ君が、
「お会いして、伝えたいことがあったんですか」
と、和服女性に聞いた。
「ええ、そうなんです。春になったら、一緒にお花見をしようと約束していたのですけどね。その前に私は死んでしまったので。約束を守れなくてごめんなさいねって、伝えたいんですよ」
「いつか、伝えられると良いですね」
「ええ。ありがとう」
和服女性は、上品な笑みを見せて会釈した。
「こちらこそ、素敵なお花のエピソードをありがとうございました」
カイ君が拍手し、集まる幽霊たちも笑顔で拍手している。
真夜中の、明るい怪談会は続く。
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