第31話 まずは情報収集から
三石さんは私たちに頭を下げる。
「黒崎さんたちは腕は確かだと、紹介されました。この家に何がいるのか調べて頂けませんか。妻はこの通り妊娠中ですし、早く平穏な生活に戻りたいんです」
柊一さんと暁人さんが強く頷いた。暁人さんが答える。
「はい、全力を尽くします。ですが今すぐ除霊して終わり、という形ではないんです。まずはここに何がいるのか調べないといけません、しばらくお時間を頂けますか」
「ええ、それは勿論大丈夫です」
「泊まらせてもらうことは可能ですか? 夜の様子も見たいのです。ああ勿論、食事や布団の準備などはいりませんよ、自分たちでやりますので、空いてる部屋をお貸し頂けたら」
「それも大丈夫です。ここ和室か、上に空き部屋があるので、好きに使ってください」
「分かりました。ちなみにですが、この家が建つ前は何があったのかご存じですか?」
「ええと、駐車場があった、と聞いています」
「なるほど、分かりました。まずは家じゅう見させてください」
暁人さんの言葉で全員が立ち上がる。私もつられて立ったものの、出番は最後の最後なんだよなあ。でもまあ、私も見える体質だと判明したから、何か気付けることがあるかもしれない。
三石さんを先頭に、家の案内が始まった。間取りはごく普通の物で、玄関を入ってすぐにトイレ、洗面所とお風呂。リビングに入ると、隣接した例の和室がある。
階段を上がると、寝室、それから子供部屋と思しき空き部屋が二部屋あった。自由に出入りしていい、と言われた私たちは、子供部屋に一旦荷物を置かせてもらった。
一通り案内を終えたあとは、三石さんたちにはリビングで待ってもらうことになり、三人になったところで、私はようやく現在の家の様子を聞けた。
「どうですか、なんかいそうですか?」
私は見えると判明したものの、やはり柊一さんや暁人さんよりはずっと能力が低いらしいので、恐らく強い物しか見ることが出来ない。二人の意見を聞いてみたいと思っていた。
私の質問に、柊一さんは眉を顰め、暁人さんは腕を組んで難しい顔をした。そして、柊一さんが答えてくれる。
「めちゃくちゃいる」
その一言に、ぞっと寒気がした。
いる、だけではなく、めちゃくちゃとは。一体どんなものがいるというのだろう。
暁人さんも同意する。
「まだ姿は見当たらないんですが……一人や二人ではないですね。三石さんのお話でも、声は老人の声だったり、見たのは子供の姿だったりと、複数いそうな感じでした」
「た、確かに……」
「この家には何かが棲みついているのは間違いなさそうです」
私は腕に浮いた鳥肌を抑えるようにさすりながら、なお質問を続ける。
「一人ならともかく何体もいるって、どういうことでしょうか? ここって新築ですよね、この前みたいに殺人事件があったわけじゃあるまいし」
「いや、その線がないわけじゃない」
柊一さんがきっぱりと言ったので、驚きで目を見開いた。彼は窓から家の外を眺めながら説明してくれる。
「この家は確かに新築だけど、霊は土地に棲みつくものも多いからね。例えば、前建っていた家に住んでいた人が不慮の死を遂げて、家が変わってもそのまま居ついているとか。ただ、普通新築の家を購入するとなれば、前には何があったのか調べたりする人が多いだろうし、三石さんも駐車場だったって言ってたけど……ちょっと調べてみようか、暁人」
「うん」
柊一さんは床にそのまま座り込んだ。暁人さんは置いておいた黒いカバンからパソコンを取り出したかと思うと、彼も座り込み起動し始める。とりあえず私も彼らに倣い、円を描くように座った。
暁人さんがパソコンで何かを調べ出したが、柊一さんは窓の外から空を眺めている。まあ、機器に強そうなのって暁人さんだよなあ。でも、私も雑用ぐらいさせてほしい。
パソコンはないのでスマホを取り出し、暁人さんに尋ねる。
「この家が建つ前に何があったから調べてるんですね?」
「そういうことです」
「ふんふんえっと……」
「ねえねえ見て、遥さん。あの雲の形、ハートに見える!」
無邪気にそう笑いながら話しかけてきたので、あまりのマイペースさに呆気にとられた。当の本人はにこにこ顔で、大変楽しそうだ。分かってたけど、この人本当に変わってるな……。
そんな私に、暁人さんが視線を送ってきた。いいんです、通常運転です。柊一にパソコンを触らせると壊すから触らせたくないんです。……とまでは言ってないかもしれないが、前者は多分正しいだろう。私は笑って頷いてみせた。
まあ、彼は悪霊が出た場合、体を張って退治するという一番大変な役割があるので、そのほかはゆっくりさせてあげてもいいかもしれない。
「いい天気だねー雲がもこもこだー」
「ふふ、柊一さんって感性が子供っぽいですよね」
「え? 子供?」
「あ、ごめんなさい、褒めたつもりなんです……素直でまっすぐだなあって」
私が慌ててフォローすると、彼は空を見ながらわずかに口角を上げた。
「とんでもない。僕はとんだひねくれた人間だよ」
その口調がどこか寂し気だったので意外だった。彼がひねくれた人間だというなら、私はどうなるのか。柊一さんなんて、陽気で自由で優しくて、太陽みたいな人なのに。
けれど、そのセリフを聞いて暁人さんもどこか晴れない顔をしていた。それがまたさらに意外だった。私には知らない二人の歴史に、一体何があったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます