番外編 2 レニーside

 

 アミリの彼氏がやらかしてすぐ、アミリを切なげに見ていた男の一人、アーネスト・イスト伯爵が仕事中に声をかけてきた。


 さも何か質問があるかのように自然に。


 イスト卿はとんでもない美形で国内でも一割に入る資産家だ。

 そんな人に声を掛けられたら普通の子なら勘違いする。

 だけど、私は顔の良い男を信用しないし、彼の目が誰を追っていたか知っている。


 彼は、うまい具合に誰もいない隙間をぬって接触してきた。

 文官のくせに隠密の才能があるね。


「ねぇ?君ってヴィネア嬢の番犬だよね?僕は彼女が心底欲しいんだ。協力してくれないか?」


 彼曰く、仕事中のアミリの真面目さ、図書館で見かけた百面相、図書館近くでリラックスしてデザートを食べて破顔する姿に惹かれたそうだ。


 コイツ、ヤベェ!マジ、ストーカーじゃん!!!ってちょっと思った。


 でもハタと気付いた。顔の良さとスタイルの良さ、言いなりに従いそうとは言わなかったことに。


 アミリに気がある男の中で下品な男は、顔、身体がたまらない、従順そうだと影で下ネタで盛り上がってた連中を知ってる。

 そんな奴らはアミリに近付こうもんなら蹴散らしてきた。


 番犬と言ったのは多分そのことだけど、デリカシーがないね。


 このやたら顔が良い彼は自分の顔のレベルも財力も自覚してるタイプだから、アミリの顔の良さくらいの女ならいくらでも手に入る。

 でも婚約者がいる間に、アミリに無茶なことをしてきたりは無かった。


「直接行けば良いんじゃないですか?」

「彼女は世間話には付き合ってくれるけど、壁が分厚くて」


 顔が良くても寄ってこないタイプへのアプローチの仕方がわからないみたい。


 彼は昔、親の決めた婚約者が浮気して破談になったって噂があって、それを逆手に今まで婚約話を蹴ってきたはず。


 いつからアミリに目をつけていたんだろう。


「・・・彼女は嫌じゃない相手であれば、グイグイ行けば絆されます」

「嫌じゃない相手・・・?」

「初対面で態度や行動が無理であれば徹底的に避けますから」


 そう、誰からでも押しに弱いわけじゃない。

 多少の好感度は必要なの!

 女友達になるのでも、ちょっと図々しい子がグイグイきたら、仕方ないなって受け容れられる子とダメな子ははっきりしてた子なの。


 自分がないわけじゃない。

 ただすごく好きじゃなくても押されると負けちゃうけどね。


 絶対に無理以外の間口は広い。


「何度か会話できて避けられてないならチャンスがあると言うことか」


 ふわっと笑うその顔はやっぱり美形だ。鑑賞できたのはラッキーかも。


「僕は彼女が手に入れば浮気はしないし、籠の鳥の如く大事にするから協力して欲しいな」


 あざといまでの顔の有効活用をしてるけど私はあいにく男らしい男が好き。


 あと、籠の鳥って怖いよ!


 でもアミリにはこれくらいの執着がある相手が向いてるかも。

 彼女は浮気とかはしないけど、相手側は浮気へのハードルが低い場合が多い。

 まぁ、やらせてないからと言えばそうだけど、一応は貴族の端くれ、簡単にやれるわけないじゃない。

 私だって長い付き合いの彼とは清い関係だよ。

 いくら信じてる相手でも、やった後に浮気だか、家の関係だかで、捨てられたら目も当てられないじゃない。


 最近はうるさくないと言ったって、やっぱり次の相手次第では大問題だもの。


 後先考えずに恋に走って泣くのは女の子側だけって不公平よね。


「・・・アミリが嫌がったら即引けるなら協力するわ」

 彼はにっこりと笑った。


 勝算があるんだろう。


 押しに弱いって、私からしたらバカねって思うけど、誰かに必要とされたいって根底のあるアミリにはグイグイこられるのは、望まれてるって感じになるんだろう。


 でも嫌な時は逃げてるから、それなりの防御能力はある。


 下心満載なのには引っかかったことはない。


 マークス卿は誘われてちょっとグラついたんだろうけど、一応はアミリの価値もわかってたはず。

 でもいかにもお色気な女に負けちゃったのはね。

 フローラは、イスト卿や侯爵子息とか分かりやすく美形の男を狙っていたけど、その男性陣がほんの少しアミリに目を向けただけで嫉妬してた。

 

 だから多分、アミリを貶めたくて、マークス卿を全力で引っ掛けたと思う。

 アミリには一切、フローラへの関心なんてなかったんだけどね。


 今回のことで王宮メイドには残れないだろうから、アミリに少しもダメージがないっていつ気がつくかしら。

 しかもイスト卿とくっついちゃったら、それを知った時はどんな反応するかな。

 見られないのが残念。あー、残念。


「もし、ヴィネア嬢が僕の元の来てくれる時は君も一緒に侍女として来て欲しいな。あ、タイミングが合えば乳母も出来るねぇ」


 おいおい、さらっと子作りまで妄想が進んでる。ヤバ。


「私は高いですよ?旦那予定も付いてきますし?」

「あっは!良いよ!僕に興味のない侍女、普通に欲しいしねぇ」


 王宮侍女職は食いっぱぐれないからずっと続けたいと思ってたけど、アミリがいないとつまんないし、高給なら別に構わないもの。


 最悪、復職可能だしね。資格さまさま。


「アミリが断ったら普通に無しですからね?」


 しっかり念を押す。


「他の奴に邪魔されないように全力で行くよ」


 まぁ、アミリをあげても良いくらいの男は少ないし、アミリを見つめてくる連中の中でアミリが嫌がってない相手もほぼいないから、多分行けるんじゃないかな。


 ハァ、なんか疲れた。彼に会いたくなったわ。




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