四十三話 【リーナの奥の手】

 錬金技巧術師アルケミスターのリーナが錬金した鎧に刃が通らず、魔闘気まとうきで戦う事を決意した。


 魔闘気まとうきは素手でしか使えない。

 よって間合いはどうしても接近しなくてはならない。

 ある程度のダメージは覚悟で魔闘気まとうきを放たなければならない。

 全身に魔力、闘気が巡るように呼吸を整える。

 目を閉じ両腕を下げ、隙だらけの状態となる。


「なんだい、隙だらけじゃ無いか? カウンターでも狙っているのかしら?」

 リーナは警戒しているのか近づいてこず、矢を飛ばしてくる。

 爆弾は尽きたのか投げて来ない。


 矢は体に数発突き刺さるが、闘気を纏っているために浅い。

 最後に放たれた矢は頭をめがけて飛んでくる。

 その矢を当たる直前で掴み防御した。


「なっ! ……それだけの矢を受けて、更には飛んでくる矢を掴むなんてね……、どう言う体をしてるんだい……?」

 リーナは矢が尽きたのか、俺には効かないと思って使うのを辞めたのか、剣に持ち替えて止まっている。

 お互い睨み合う形となる。


 俺の方は闘気も魔力も巡った。 再生力も上がるのか体に刺さった矢は床に落ちる。

 攻撃するなら今だ!

 剣のカウンターに気をつけ、リーナに走り寄った。

 剣を俺に投げつけると突然! 鎧のパーツが僅かに弾け、飛び散る鎧のパーツを片手で防ぎながら突進すると、リーナは空高く飛び上がり、片手に赤い光が集まっている。


「くらいな! レッドライトニング!!」

 リーナの腕、足、腰、胸と、全て赤く光り、その光りが俺を狙っている腕に集まると、リーナの一声で赤い光りが一閃となって発射される。


 俺は直撃してしまい、闘技場コロシアムの壁にめり込むように飛ばされた。

「がっ……は……」

 魔闘気まとうきで体を覆っていなかったらヤバかった……。

 なんとか壁から這い出る。

「恐れ入ったよ! 本当に凄い体をしてるな。 ますます抱かれたくなってしまうよ!」

 リーナはまた手の平を俺に向けた。

 鎧が赤く光り出す。

 次受けて防ぎ切れるか……。


 リーナの鎧から放たれる赤い光りはが必要らしく、直ぐには発射出来ないようだ。

 今だ!

 目眩しとして崩れた壁を投石の武器として投げてみると、リーナは構えたまま飛んでくる石を躱す。

 どうやら身軽になった分、防御が甘くなったって事か。

 そして俺はリーナに向かってジグザグに進む。

 照準を合わせづらくするためだ。


 リーナの赤い光りは俺の腹を掠め、俺の拳もリーナの左肩を掠める。

 が、ダメージが大きいのはリーナの方だ。

 魔闘気まとうきの衝撃がリーナの肩を貫いたようで、リーナは左腕をダランと垂らしている。


「くっ…………、なんだい、その攻撃は……」

 リーナは後ずさると、「シルテル!」 と叫ぶと落ちている盾のパーツと僅かに体に着いているパーツが集まり大盾となる。

 大盾でも魔闘気まとうきの拳は防げない。


 俺は大盾に魔闘気まとうきを叩き込む。

 大盾には少しだけヒビが入ったが、リーナは壁際まで吹き飛んでいた。


 死んで無いよな……。

 加減が出来る相手じゃなかったけど……。

 心配にはなるが、魔闘気まとうきが効いていないと言う可能性もある。

 俺は壁際で倒れているリーナに向かい、直ぐに攻撃が出来るように残心をとる。


「…………まって……、降参だ……。 私の盾で防げないなんてね……」

 良かった。 生きてた。


 リーナが降参した事で、試合は俺の勝ち。

 皆んな喜んでくれている。


 リーナはヨロヨロと大盾を担いで戻る前に、盾の傷を見て降参して正解だったと言っていた。

 リーナの盾は殆どミスリルで作られていたそう。

 ミスリルは魔力が伝わり易く、軽い。 そして何よりその硬さ。 そのミスリルを素手で傷つけたとなると驚いて当然のようだ。


「……ケンジ気に入ったよ、私の傷が治ったら一晩付き合いな。 勿論、泊まりでね」

 リーナは大きな胸元を密着させ、耳元で話すと戻って行った。

 リーナが戻るまで顔を赤らめて見ていた俺は、三人の視線が突き刺さっている事に気が付き、そそくさと控え室に戻るのだった……。


 控え室に戻り次の試合を考える。

 次は暗殺者アサシンの【アン】と対戦だ。

 下手に勝つ事が出来ない相手だし、負ける訳にもいかない。

 どうするか……。


 考えている間に後半の試合が終わり、今日の大会は終了した。

 続きは明日で最後まで試合をやるそうだ。

 今夜はゆっくりお休んでくれとの事。

 俺は最初に案内された部屋に戻ると、ベッドに横たわる。

 すると部屋の扉が開かれ、レアが小さい猫となり、服をくくりつけて入って来た。


「レア! どうやって部屋を抜け出して来た?」

「ちょっと鍵を外してきました。 そんな事より、ご報告があります」

 レアは変身すると屋敷内で見て来た事を話した。

「そうか……、侍女らしき人はいたけど王女様は見てないか……。 まだ捕まって無いって事か……?」

「わかりません。 あと、厳重な部屋がありましたのでそちらにいる可能性もあります」

「なるほど……」

 もし囚われているのであれば、最後まで勝ってあの成金野郎に勝てば返してもらえば良いしな。


「レア、ずっと部屋からいないのも怪しまれる。 そろそろ戻って二人を頼む」

「わかりました。 必ず勝ってくださいね」

 レアは俺を抱きしめると、変身して部屋から出て行った。

 次の対戦相手はあの暗殺者アサシンのアンか……。

 体を十分に治して全力を尽くさないとな。


 次の試合が始まるまで体調を万全にしておこう。

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