三十四話 【暗緑燭の塔】

 ギオルグ王に【魔闘気】の技術を授かり、お姫様を探す為に一度ガル支部へ戻って来た。


「ホランさん、只今戻りました」

 扉を開けるとホランさんと一緒にもう一人女性が話している。

「あら〜、ケンジさん〜!」

 ホランさんが気がついて、こちらに手を振ってくれる。

 するとホランさんと一緒に話していた女性が振り向く。

「兎美さん!?」

 ホランさんと一緒に話していたのは荒物組の兎美さんだ。


「あら〜、姉の事、ご存じでしたか〜」

「姉? ホランさんのお姉さんなんですか!?」

「そうさね。 何か変かい?」

 変かと言われると……、確かに見た目は同じ兎だけど……、雰囲気が全然似てない……。

「だって名前が違い過ぎません?」

「アタシの兎美って名は組で使っている名前さね。 本当の名は【ネザ】って言うのさ。 でも外では兎美って呼んでおくれよ」

「わかりました」

「それより、ケンジは王様の依頼に合格したと聞いたが本当かね?」

「本当ですよ。 それでこれからまた帝国に行こうと思っています」

「さすがアタシが見込んだ男よな。 帝国に行くならウチの獣力車を出してやるよ」

 それは助かる。 お願いしますと言おうとした時、レアが割り込んできた。


「いえ、帝国に向かうのは後回しです」

「どう言う事だ?」

「兎美さん、このアームダレスには【暗緑あんりょく燭の塔】がありますよね?」

「あんりょく?」

 兎美さんはパッと出てこないようだ。

「古代から建っている塔です」

「それなら〜、ここから東に〜……、向かった所にありますよ〜」

 ホランさんの喋り方はおっとりしているせいか長い……。


「確かに合ったな、そんな塔が」

 兎美さんも思い出したようだ。

「塔に何しに行くか知らないが、その、あんりょく? の塔とやらに連れて行ってやろうじゃないか」

「それは助かります!」

 レアは兎美さんの手を握りお礼を言う。


「その塔ってもしかして、ケンジさんがまたパワーアップ出来る場所ってこと?」

 エイルも気がついたようだ。

 俺は世界各地にある古代の塔でパワーアップ出来るらしい。

「それなら先に行った方が良いですよね。 何か残って無いかな〜」

 ルルアは古代の遺物に期待しているようだ。


 兎美さんがガル支部から出てしばらくすると、外には獣力車が二台止まり、砦で会った獣人の男が体を窄めて狭そうに入って来た。

「お待たせしやした。 姉さんに言われて迎えに来やしたぜ」

「ありがとう、助かるよ」

「良いって事よ。 それで、塔に行くって聞いてるけどよ、あそこはオススメしねぇぜ」

「オススメしないって何か理由でも?」

「塔の中には変な魔導機がウロウロしてるって話しでさあ」

 また前の塔にいたような奴がいるのか?

 でも行かないとパワーアップ出来ないしな。 これから姫を救うって言う定番おやくそくが待っているし。


「多少危険でも必要な事なんでお願いします」

「おうよ! 俺に任せときな! そうそう、俺の名前は【熊吉ゆうきち】ってんだ。 よろしくな」

「俺はケンジ、よろしく」

 お互い挨拶も済ませ、熊吉さんはミチミチっと扉を歪ませながら外に出た。


「さあ、行きやすぜ!」

 一応全員獣力車に乗り込むが、エイルとルルアは出発前から青い顔をしている。

「お手柔らかに頼みます」

「任せておけって!」

 前よりはマシと言う感じの走りで、塔に着いた頃にはレア以外グッタリとしてしまっていた……。

 猫の三半規管恐るべし……。


 こうして辿り着いた【暗緑あんりょく燭の塔】は石を積んだ普通の塔だ。


「さあ、着きやしたぜ」

「あ、ああ……」

 ヨロヨロと体を起こし、エイルに肩を貸し、レアはルルアを背負い、塔の中へ。


 暗緑あんりょく燭の塔の中は今までの塔とは違い、薄暗い。

「薄暗いですね、足元に注意して進みましょう。 私の後について来てください」

 レアは暗い所でも目が効く。


「なんだこれ……」

 塔の奥に進めば進む程、何かの機械の残骸が転がっている。

「何だろうね?」

「この辺のアーティファクト達は壊されたばっかりだよ」

 ルルアはアーティファクトの残骸を調べて気がついたみたいだ。

「と言う事は、誰かがこの塔の中にいる?」

「だと思います」

 敵じゃなければ良いが……。

「気をつけて進もう。 レアは何か気が付いたら直ぐに教えてくれ」

「はい」

 俺達はゆっくりと通路を進む。


 塔の通路は入り組んではいない。 罠らしい物も特に無いようだ。

 だが、曲がり角に差し掛かると金属がぶつかる音が聞こえて来る。


「誰かいるな」

「誰か戦っているようです」

 俺達は角に隠れ、そっと様子を見てみる。

 そこには黒いローブと大きめの帽子をかぶった人が子供位のサイズがある自走式のアーティファクトを相手に戦っている。


 次から次と出てくる自走式アーティファクトをローブをボロボロにしながらも破壊して行く。


「すげぇ……」

「何者何でしょうね?」

「どうやら獣人のようですね。 私が変身して見に行って見ますか?」

「いや、もう少し様子を見てみよう」

 下手に飛び出して攻撃されたらたまらない。


 その獣人は向かってくるアーティファクトを全て破壊すると、ボロボロになってになったローブの埃を払い、帽子を直すと、こちらをチラッと見る。

「おい! そこにいるのはわかっている。 出てこい!」

 バレてる。 においでバレたか?

 俺達は獣人の前に姿を表すと、レアが一番前に出る。


「お前達……、何しにこの塔へ来た?」

「それはこちらの台詞せりふです。 貴方こそ何しにこの塔へ来ているんですか?」

「…………」

 獣人は答えない。

 するとルルアが俺の後ろからひょこっと顔を出す。

「あ! あの時私を助けてくれた獣人さん!」

「おまえ……!」

 ルルアが崖から落ちた時か……。 てことはあの野菜泥棒か!


「俺達はこの塔の奥に用があるだけだ」

「そうか、俺はこの塔の屋上に用がある」

 俺達は俺のパワーアップを求めて来たが、屋上には何かあるのだろうか?

「目的が違うなら俺の邪魔するな」

 獣人は通路を進もうとする所をルルアが声をかける。

「あの……、途中まででも一緒に行きませんか? 助けて頂いたお礼もしたいですから……」

「礼などいらん。 俺は俺のやりたいようにしただけだ」

 そのまま行ってしまった。


「俺達も行くか」

「そうですね。 邪魔なアーティファクトは彼が倒してくれましたから楽に進めます」

「ご主人様……」

 レアは俺に近寄ってくると、耳元で小声で話す。

「あの獣人の事は注意しましょう」

 今は仕掛けてこないが、気をつけるに越した事は無いだろう。

「わかった。 気をつけて進もう」

 獣人は走って行ってしまったが、攻撃を仕掛けて来ないとは限らないからな。

だけど、屋上に何かあるのか?


「とりあえず俺達はこの塔にある隠し部屋に向かおう」

「そうですね」

「あ、ケンジさん。 私、少しこの辺りのアーティファクトの残骸を調べていて良いですか?」

 ルルアが通路に散らばっている残骸を見て言う。

「う〜ん……、良いけど、またこのアーティファクトが現れたら危険じゃないか?」

「なら私がついてますよ」

 エイルがいるなら少しは安心かな。 俺のパワーアップはレアと二人だけだしな。


「危なくなったら塔から脱出するんだぞ」

「うん」

「わかった、任せてよ!」

 ルルアの事はエイルに任せ、俺とレアは塔を上っていく。


「しかし……」

 あの獣人かなり強いな。 隠し部屋がある階まで上ってきたが、ここまでのアーティファクトは全て破壊されていた。

「あの獣人には要注意ですね」

「そうだな」

 レアと隠し部屋の入口を探しながら最上階に向かった獣人の話しをする。


「ありました!」

 レアが隠し部屋の入口を見つけた。 今回は何かと戦う事は無いようだ。

「恐らくここまでの途中に大量に出てきたアーティファクトがこの塔を守っていたのでしょう」

 なるほどな。 それをあの獣人が全部倒しちゃったって事か。


 隠し部屋にはやはり透明の筒が二つあり、俺とレアが入る仕様になっている。

 今回はちゃんと服を脱いで筒に入った。

 筒の中に水のような物が満たされて行く。

 満タンになった位で、上の階からズシンと何かが戦っているような音が聞こえて来た。

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