三十二話 【アームダレスの王】

 アームダレスのガル支部でホランさんから頼まれた依頼を受け、アームダレスの城に案内された。

 そして俺は何故か豪華でひっろい風呂に入っている。

 しかも良い匂いの木の風呂だ。 こう言う所は和風なんだな。

 風呂は久しぶりだから嬉しい。


「ふ〜〜……、良い湯だ……」

 このままハ〜ビバノンノンと歌いたい所だけど、誰かが入って来た。

「お、先客か? 人族とは珍しいな」

 入って来たのはデカい虎だ!

 顔は虎そのものだが、立って歩いている獣人だ。

 タオルを肩にかけ、素っ裸で入って来た。

 体もデカいが下もデカい!


「あ、すいません」

 湯船から上がろうとしたが、「かまわん、かまわん」 とそのまま入っていてくれとジェスチャーされた。

 それにしても……、凄い威圧感がある。

 誰なんだこの獣人は……。


 考えていると、その獣人は体を洗い終え、湯船に入ってくる。

「ふ〜〜、一日の仕事の後の風呂はたまらんな」

 虎の獣人は頭にタオルを乗せて気持ち良さそうにしている。

 でもその気持ちはわかる。


「それで、お前さんは誰なんだ?」

「俺ですか? 俺は━━」

 俺が名前を言う前に、虎の獣人が話し始めた。

「いやすまん。 名を聞くならワシが先だな。 ワシの名は【ギオルグ】だ」

「俺はケンジと言います。 守護盾ガルガードです」

「ガルか。 この国に来た理由は?」

 理由か、ルルアの為とは話せない。

「観光ですよ」

「なるほど観光か。 この国はどうだ?」

「まだ着いたばかりですが、良い国ですね。町の人を見てるとわかります」

「さすがガルだな。 よく見ておる。この国は最高だろう!」

 ガハハと笑う姿は本当に嬉しそうだ。


「しかしガルでここにいると言う事は依頼を受けたのだろう?」

 なんでこのギオルグさんは依頼の事を知っている?

「内容はまだわからないですけど、守護盾ガルガード支部のホランさんの紹介です」

「なるほど、ホランの紹介か。 しかし、内容も知らずに依頼を受けるとはな」

「ははは……」

 ルルアの安全を確保出来たら、今度はマブルさんを迎えに行かないと行けないからな。 先立つものが無いのは辛い。


「ギオルグさんはこの城の人ですか?」

「ん? ワシか? ふふ、そうだな……、さて、ワシは先に上がらせてもらうよ」

 ギオルグさんは先に風呂から上がって行った。

 体の動き一つみてもあの人強いな。


 さて、俺も上がるか。 あんまり長く入ってると、エイルが死んでしまうかも知れないからな。


 風呂から上がり、着替えを済ませて部屋に戻る。

 部屋には既に風呂から上がっている三人がいる。

 部屋の中は風呂上がりのいい匂いが立ち込めている。


「ケンジ遅いですよ〜、お腹空き過ぎました〜」

「ごめんごめん」

 全員揃った所で、獣人のメイドさんが案内してくれる。


 王宮の食堂は広く、テーブルは長い。

 執事さんとメイドさんが椅子を引いてくれて、豪華な椅子に座る。

 食事を待っていると、豪華な衣装とマントに身を包み、王冠を被った虎顔のデカい獣人、同じく品のある女性の虎の獣人が入って来て、椅子に座る。

 アームダレスの王様とお妃様だ。

 …………あの獣人は風呂で会った!?


「待たせたな」

 王様が手を叩くと、料理が次々と運ばれてくる。

 キュルル〜。

 並べられて行く料理の美味しそうな匂いにエイルのお腹が鳴る。


「はーっはっは! 自由に食べてくれ」

 俺を含めて全員、こんな場所でのマナーなど知らない。

 知っている限りの知識でスプーンとフォークを使うが、難しい。

「マナーは国によって違う。 気にせず食べてくれ」

 そう言って王様は手掴みで肉を取り、豪快に食らいつく。

 お妃様はシルバーのカトラリーを使い、品のある食べ方をしている。

 それをルルアは真似て食べているのをお妃様は見て微笑んでいる。


「食べながらで良いから聞いてくれ。 お前達は依頼を受けにここに来たのだな?」

「はい、そうです」

「その依頼を出したのはワシでな」

 ブッ!!

 料理を吐き出しそうになった。

 まさか王様からガルに直々の依頼なんて……。

「驚いたかも知れんが、ワシの娘が行方不明になってしまってな」

 娘……、王様の娘って言うと、お姫様じゃないか!!


「もしかして、獣人攫いですか?」

「ワシの娘はそんな輩に負けるほど弱くは無い。 だが、娘の侍女が行方不明になってな。 探しに行ってしまったのだよ」

 お姫様が侍女を探しに行くなんて、良いお姫様じゃないか。

「それで、お姫様を探す事が私達の依頼ですか?」

「そうなる。 だが!」

 王様は先を立ち上がり、俺に向かって話す。

「ワシの娘より弱い奴には要はない! だから明日、ワシと戦ってもらう!」

「え!?」

 俺が王様と戦う?


「ワシに勝てば依頼を任せる」

 王様と戦ったりして大丈夫なのだろうか?

「大丈夫ですよ。 我々獣人族の王は戦いに強く無いと王にはなれませんから」

 俺の心配に気がついたのか、お妃様が説明してくれた。

「そう! ワシはこれまで負けた事は無い。 だから王なのだ。 今もこれからもな」

 自信満々に肉を掴んで笑っている。


 最初に通された部屋に戻ると、お腹を膨らませたエイルがソファーに横たわり、満足そうにしている。

「パワーアップしたご主人様は負けませんよ」

 確かにパワーアップしたし、良い勝負出来るはずだ。

「でもあの王様、とっても強そうでしたよ」

 ルルアは心配してくれている。

「頑張るよ」

 少し心配もあるが、王様にはパワーアップした俺を見せてやろう。

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