二十九話 【山道の攻防】

 山道を登り始めて直ぐに空がどんよりとして来る。


「雨降りそうだな」

「砦までもってくれると良いんですけど」

 最悪、何処か雨宿りできる場所を探して置いた方が良いな。

 そんな事を考えていると、空から魔生獣が襲いかかってきた。


「皆んな! 気をつけて! あれは魔生獣【ニルドバード】です!」

 遅いかかって来たのは鳥型の魔生獣が五匹だ。


 武器が無い俺は拳を構える。

 エイルは短剣ダガーを構え、レアは大型の猫に変身、ルルアはマジックハンドを出す。


「飛んでいて短剣ダガーじゃ届かないです!」

「エイルの魔導法術機ガルファーの魔法は!?」

「魔石が無いから使えませーーん!!」

「私のマジックハンドも簡単な修理しか出来ていないので、パワーは出ません」

 俺がパワーアップしていても、数で襲われると不利な状況になる。 しかも相手は飛んでいる。

 攻撃してくる時だけ急降下してくるが、こちらが攻撃しようとすると直ぐに飛んでしまう。

 なんてやっかいな……。


 これは逃げた方が良さそうだな。

「皆んな! 砦まで走れ!」

 砦までは数刻かかる距離。

 行けると思ったが、この判断が失敗だった。


 ニルドバードと戦いながら砦まで走っていると、土砂降りの雨が突然降り出した。

 雨宿りしたい所だが、こう襲われているとそうもいかない。


 雷も鳴り響き、土砂降りの雨で視界も悪い。

 この土砂降りにはニルドバードも離れて行く。

 だが、最後の一匹にルルアが襲われ、避けたルルアはバランスを崩し、山の崖を滑り落ちて行く。

「きゃあああ!!」

「ルルア!」

 手を伸ばし、ルルアのマジックハンドを掴む。

 しっかりと掴んだマジックハンドだが、嫌な金属音と共に壊れ、ルルアのリュックから外れてしまった。

「ルルアーー!!」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふ〜……、危なかった……」

 崖から滑り落ちたルルアは片方のマジックハンドで崖から生えている木の枝を掴み、落下を免れていた。

「これからどうしよう」

 この場所から登るのは無理そうだし、一度下に降りてかれもう一度登るしかないかあ……。

 木の枝にしがみついて、ゆっくりと木を降りようとするが、雨で手が滑ってしまう。

「きゃあ! ……………ああぁぁぁぁ!!」

 マジックハンドで掴んだ枝も折れてしまい、落ちて行く。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「早くルルアを探しに行かないと!!」

 ルルアが崖から落ちてしまい、その手を掴むことが出来なかった俺は土砂降りの中、立ち竦んでいた。

 そしてレアに連れられ、岩影に入り雨宿りをしている。

 そんな中、エイルがジッとしていられず、探しに行こうとしている。

「駄目です」

 エイルの事をレアが止める。

「なんでですか! ここでこうしている間にもルルアは……」

「そんな事はわかっています! ですが今探しに行ったら二次災害が起きるかも知れません。 今はルルアを信じて待つべきです!」

 エイルもそんな事は百も承知だろう。

 それでも何かせずにはいられない。

 エイルは岩影から出ようとする所をレアに掴まれた。


「私が探しに行きます。 私なら探索能力が使えますし、変身で狭い所も入れます」

「それなら私も!」

「エイルさんはルルアが怪我していた時のために、ポーションを用意していて下さい」

「俺も行くぞ!」

「ご主人様はもし魔生獣がいつ襲ってくるかもわかりません。 その為にここでエイルさんを守って下さい」

「では行って参ります」

 レアは土砂降りの中、走って行った。


 雨の強さも弱まってくる。

「ニルドバードも辺りにはいなそうだな」

 岩影から顔を出して空を確認する。

「俺、少しその辺を見てくるよ」

 山道を少し下るとレアがルルアの手を引いて登って来ていた。


「ルルア!」

 足早に駆け寄り、ルルアの安否を確かめる。

「無事だったか!?」

「はい……」

「怪我は?」

「大丈夫です。 私のルルアーハンドが壊れちゃったくらいです」

「そうか〜……、良かった……」

 俺はルルアの前に座り込んでいた。

 ルルアに何かあったら、マブルさんに申し訳が立たない所だった……。


 岩影で待つエイルの所へ戻り、念のためエイルがルルアの体を調べる。 ルルアはくすぐったそうにしているけど、自分でも気がつかない怪我があったら大変だ。

 ルルアは服を脱いで調べているので、俺は後ろを向いて待つ。


 ルルアの体を調べ終わり、崖から落ちて無傷だった理由を聞いてみた。

「しかし良くあの高さから落ちて平気だったよ……」

 ルルアが滑り落ちた崖はそれなりに高い。

 大人でも落ちればタダでは済まない高さがある。


「それはですね、落ちてもう駄目だと思った時、黒いローブに黒い帽子の人が助けてくれました」

「それって!?」

「はい、多分ですけど、畑を荒らしていた人だと思います」

「まさか……」

 確かにあの動きなら助かる事も可能かも知れないが……、畑を荒らすような奴が何故ルルアを助けたんだ?


「ルルアの言っている事は間違いないと思います。 微かにあの人のにおいがします」

 理由はわからないが、ルルアを助けてくれたなら今度お礼でも言わないとな。


 しばらく雨宿りしていると、やっと雨が上がり、日も差し出したので、砦まで登る事にした。

 魔生獣のせいで余計な時間はかかったが、空に現れた虹を皆んなで見ながら登り、【ライガー砦】に到着した。

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