二十七話 【焚き火の一夜】

 ドオレスの町でマブルさんと別れ、四人で獣人の国【アームダレス】へ向かう事になった。


「ちょ、ちょっと待って下さい……」

 俺達三人の後をエイルはハァハァと息を切らして歩いている。

「大丈夫か? 少し休憩するか?」

「そんな時間はありません。 一刻も早くルルアを安全な場所に連れて行かなくてはいけません……に……にゃ」

「うんしょ、うんしょ……、エイルさん大丈夫ですか? 私の事は気にしなくて良いので、少し休憩しましょう」

 ルルアはエイルの背中を押してあげている。


「ルルアありがとう」

「いえ……、それよりレアさん! ケンジさん!」

「ん?」

「ルルアどうしました?」

「二人共もう少しエイルさんに気を遣ってあげて下さい」

 ルルアがエイルを座らせて俺とレアも座らされた。


「私の事で急ぐのはありがたいです。 でも私はまだ小さくて身軽だし、片足義足で負担が少ないです。 レアさんもケンジさんも人造人間で体力はありますよね? エイルさんは普通の人なんです。 それに……、私やレアさんより……身体的に負担があると……思いますから……」

「え!?」

 エイルはルルアにそう言われ

 自分の二の腕や見えているお腹をぷにぷに触って確かめている。


 身体的負担……? 

「ごめん、ルルアの言う通りだ。 少し気を遣うよ」

「そうですね。 確かにルルアの言う通りです。 発達途上のルルアと、スレンダーな私では負担が違いますからね」

 レアはエイルの体を見ながら話す。

 それって……、もしかして一部分の事を言ってる?


「仕方ないですね。 少し休憩したら私が背中に乗せて行きましょう」

 レアは大きな猫に変身する。

「あ、レア、小さい方に変身してくれない?」

 大きな猫に変身したレアが近寄ってくると、エイルは注文を出す。

「小さいと背中に乗せられませんが?」

「いいから、いいから」

 レアはよくわからないまま、小さい猫に変身する。


「スーハー、スーハー……、はあ〜……、これよこれ!」

 エイルは小さくなった猫のレアに飛び付き、顔を埋めて猫吸いをしている。

「ちょ! やめて下さい!」

 逃げるように暴れるレア、逃がさない様に必死に猫吸いをするエイル。

 その光景を見て、ルルアは笑っている。


「……まったく……、次やったら置いていきますからね!」

 大きい猫になったレアの背中に乗せてもらいながら、満足そうなエイル。

「わかったよ〜……、でも、これはこれで……モフモフ……」

 ルルアはエイルがレアをモフモフしているのをちょっと羨ましそうに見つめている。

 俺は小声でルルアに伝えてあげる。

「多分ルルアなら断られないよ。 今度頼んでみたら?」

「え! でも……、良いんでしょうか?」

「大丈夫、大丈夫」

 レアはルルアに助けられた恩があるからなのか、気に入っているようだからな。

 ルルアは頷き、「今度お願いしてみます」 と嬉しそうに話す。

 天使の笑顔だな。


 帝都まではレアのパワーアップした能力の探知を使い、魔生獣を避けながら戻って来た。

 勿論、帝都に入る前にレアは小さい猫に変身している。


 帝都から北に向かって行くと村があるらしい。

 そこで一泊し、砦を抜けてアームダレスに向かうことになる。


「問題は帝国を出る時ですね」

 エイルはヴァルスケン帝国の砦から抜ける時、お金ジルがかかる事を気にしている。

「それってやっぱり高いのか?」

 帝国内は何処に行っても基本料金が高い。

「そうですね……、今の金額はわかりませんが、高いはずです」

 これは困った。 お金ジルが無い。

 マブルさんから預かったお金ジルはアームダレスでのルルアの生活費だし。

 エイルの手持ちのお金ジルだけでは足りないかも知れないとの事だ。


「魔生獣を倒して素材を売ればどうだ?」

 魔石とか、エイルが錬金したポーションとかなら高く売れるのでは?

「この辺りはガルムアントが多くて、素材はあんまりおジルになりませんね。 私が作るポーションなら少しは足しになりますが、素材採取に行かないといけないです」

「そうかあ……」

 良い提案だと思ったんだけどな。

「お爺ちゃんから預かったお金ジルがありますから、それで支払えば通れるんじゃ無いでしょうか?」

 ルルアが提案してくるが、流石にそれは出来ない。


「そのお金ジルはマブルさんがルルアの当面の生活費として渡してくれた物だから、それは出来ないよ」

「かまいませんよ。 アームダレスに着いたら働いて返して下さいね」

 ルルアの笑顔が崩れない。

「えと……、利子はいくらでしょうか……?」

「そうですね、トイチでお願いしたい所ですが、助けて頂きましたし……、レアさんのモフモフで手を打ちましょう」

「よし! 乗った!!」

 レアの知らない所で俺とルルアの取引が完了した。

 ルルアはクスクス笑っているけど、トイチとか何処で覚えたんだか……。 怖いわ。


 エイルとレアはお金ジルの事を話し合いながら歩いている。

 砦に着いたら話すとしよう。

 そして借りたお金ジルはちゃんと働いて返すぞ。


 エイルとレアの考えはレアが小さい猫に変身し、エイルがレアを操っている様に見せ、芸を披露すると言うものだ。

 ちょっと見てみたいが、それじゃアームダレスに行けるのはいつになるのか……。


 帝都は広く、北門から出る頃にはエイルのお腹がピークを迎えていた。

「もうダメです……。 私の旅はここまでのようです……」

 ガクッとへたり込んでしまった。

「何言ってるんですか! 砦の近くの村まではまだまだありますよ!」

 砦近くの村【フォグ】までは歩いて二日はかかる。


 それを聞いたエイルは仰向けになり、胸に手を組んでゆっくり目を瞑る。

「私の屍を超えて行って下さい」

 エイルはもう動く気もない様だ。

「もしかして、また私の背中に乗せてもらえると思っていませんか?」

「ギクッ!」

「ご主人様、ルルア、エイルに紐をくくりつけて下さい。 私が引っ張って行きます」

「そんなあ……、レア〜、乗せてよお……」

「駄目です」

 レアにキッパリ言われてしまった。

「もう少し行って安全そうな場所が有ればそこで一泊しますからエイルさん頑張りましょう。 背中なら私が押しますから」

 ルルアはエイルを励ましている。

 ルルアは優しさで出来ているのかな?


「わかったよ〜……、頑張る」

 エイルも流石にルルアに気にかけられらのは恥ずかしいとか思ったのだろうか?

 そんなエイルは俺にはおんぶしてとか言って来ないよな。

 その辺の自制心はあるようだ。

 言われても困るけどな。


 そしてしばらく歩き、レアの探索で安全そうな場所に到着する。

 

「ここが良さそうですね」

 レアの指示した場所にテントを張り、夕食の準備を始める。

「私、外で食べるご飯初めてだからワクワクです!」

 ルルアが夕食の準備をしているエイルを見て楽しそうにしている。

 そりゃこんな魔生獣とかいる世界じゃ外ではキャンプなんて普通出来ないよな。

 旅商人とか他のガルの人はどうやって過ごしているんだろうか?


 キャンプとは言ってもテントを張ってご飯食べるだけだ。

 そのご飯の材料もおジルが無いので質素な物。

 エイルが我慢出来れば良いけど……?

 パンと干し肉、薄いスープしか無いのだが、エイルは普通に食べている。

 いつも沢山食べるイメージだったが、エイルも守護盾ガルガードだ。

 こう言う質素な食事には慣れているんだろう。


「明日も歩きますから、しっかり休みましょう」

 俺とレアが見張り、エイルとルルアがテントで寝る事になる。

 綺麗な夜空の星と、大小二つある異世界の月を見上げ、焚き火を囲いながらレアに人造人間についてもう少し詳しく聞く。


「人造人間についてですか……。 ご主人様は人造人間がどうして作られたと思いますか?」

「それは……、戦争の兵器とか?」

 力や魔力が普通の人よりあるし、少しの怪我も自己再生出来る。

 これなら戦争の兵器として使えるかも知れない。


「間違ってはいませんが少し違います。 では、獣人族やエルフ族はどうでしょう?」

「それは人とは違った進化した人達なんじゃ無いの?」

「それも違います。 確かにこの星は広いですから多少の進化は変わる可能性もあります。 しかし、ここまで変わる事はあると思いますか?」

 う〜ん……。 なんだか難しい話しになってきたぞ。


「と言う事は……?」

「獣人族もエルフ族も人族が進化したと言う事です」

「そんな進化ありえるのか?」

「勿論普通にはそんな進化あり得ません。 普通ならですが……、では何故古代の人は滅んだのでしょう? 今の人達では解析も出来ず、同じ物なんて作る事が出来ない程の超技術があったのに……」

 そうだな。 古代の遺跡と気にせずにいたが確かに……。


「戦争とか何かのウイルスとかで絶滅したって事かな?」

「そうですね、絶滅まではいかないでしょうけど、それに近い程、人口が減ったのは間違いありません。 だから古代の人間は作り上げたんです」

「それが、エルフだったり獣人だったり人造人間って事?」

「そうです。 人間は自分達の寿命や病気に対する体を手に入れる為に、色々な実験をしました。 そしてエルフ族や獣人族が生まれたと記憶しています」

「そうだったのか」

 でもなにか気になる。


「それでなんで滅んだんだ?」

「それは……、……私にも良くわかりません」

 レアにその記憶は無いのか。


 そんな話しをしていると、交代の時間となり、俺は先にテントへ。

 レアは小さな猫に変身して、約束通り、ルルアにモフモフされながら、ルルアの膝の上で眠っていた。


 この世界だけで無く、自分の事もまだまだ知らない事が多い。

 旅を続けて行く間に、この世界や人造人間についてもっと調べないとな。


 焚き火の薪が爆ぜる音を聞きながら目を閉じた。

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