二十三話 【人攫い】
鉄と錆とオイルの臭い。
ここヴァルスケンは
拐われたレアを追いかけ、俺とエイルはやっとこの場所に辿り着いた。
「レアは何処にいますかね?」
「そうだな……、なんとなくここにいるってのはわかる気がする。 ただ場所がわからない」
「困りましたね。 聞くだけ聞いてみましょうか?」
「レアがどの姿なのかわからないからな。 服は持って無いはずだから、猫のままだと思うけど」
「黒くて可愛いネコ探してます。 じゃ見つからないでしょうし……」
二人であれこれ話し合うが良さそうな案が浮かばない。
帝都の中をしらみ潰しに探さないとダメか……。
帝都の中は広い。
エルメリオン王国よりも広いかも知れない。
キョロキョロとしながら歩いている姿は完全に田舎から出てきたおのぼりさん。
変に目立つがレアを探さないといけない。
怪しそうな場所や建物に重点をおいて探すしかないだろう。
町中を探索していると、俺達と同じようにキョロキョロと辺りを見ながら、走り回っている女性の姿を見つけた。
俺と同じ様におのぼりさんかな?
いや……、服は違うが、あの猫耳に尻尾は……。
「レア!!」
俺の掛け声に気がつき、駆け寄ってくる女性。
「ご主人様ーー!!」
俺の胸に飛び込んでくると、会いたかったと頬を寄せてくる。
「レア、レアだよな!?」
「そうです〜、ご主人様〜! 会いたかったにゃ〜!!」
「怪我とか何処かおかしい所は無いか?」
「大丈夫です。 問題ありません」
「そうか、良かった……」
「レア、私もいますよ!」
エイルは抱きしめられるように両腕を広げてレアを待つ。
「あ、エイルもいたんですね……」
俺に抱きつきながらエイルの方をじとっと見ている。
「いたよ! 目の前にいました!」
「そんなことより、 ご主人様、お話ししたい事があります」
エイルはレアに自分から抱きついて頭を撫でてもらっている。
「話し?」
「はい。 とにかく着いて来てください」
レアに案内されたのは古屋な感じの家。
「ーーーーそれで、ここに?」
連れ去られてからのレアの事情を聞き、目の前には俺の事を知り、目を輝かせているお爺さんがいる……。
「それで、話しってなんだ?」
俺とルルア、エイルの話しをしただけなので、まだレアの話しを聞いていない。
「はい、私を助けてくれたルルアが二日前から行方不明なんです」
「行方不明? 人攫いか!?」
それでレアは走り回っていたのか?
「わかりません。 ですが、一刻も早く探さないと!」
「そうだな。 レアの命の恩人だ、手分けして探そう」
「すまんが、宜しく頼む」
ルルアのお爺さんが頭を下げてくるが、そんな必要は無い。
「必ず見つけ出します」
俺達は手分けして町の中を探しに走った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「準備は出来たか?」
「もちろんでさあ」
薄暗い何処かの場所にある地下。
そこにある牢屋に私と何人か他の女の子もいる。
「シクシク……」
「お母さん……」
泣いている子もいれば、もう諦めている子もいる。
「うるせえぞ!」
鉄格子をおもいっきり蹴り飛ばされ、「ヒッ!」 と体を震わせて歯を食いしばり声を抑えていた。
私は家を出た所で、この人攫いに攫われた。
手枷足枷をはめられているので、動けない。
リュックが有ればこんな所すぐに逃げ出すのに……。
「よし、出ろ!」
牢屋を開け、ひげ面のいかにも不潔そうで悪そうな男性に女の子達は連れ出されている。
「おっと、お前はこっちだ」
その男性に止められると、私だけ別の部屋に連れて行かれる。
「こいつですが、如何でしょう?」
人攫いが普段使っていそうな部屋に連れて行かれ、身なりが整った男性がいる。
「なるほど……、確かにこれは珍しい。 その義手は何処で手に入れた?」
「…………」
私は答えない。
顔をプイッと向けると、大人の大きな手が飛んでくる。
「聞いてんだ! さっさと答えろ!!」
頬を叩かれ、口の中を少し切って血が滲む。
「おい、傷をつけるな!」
「す、すいやせん……」
身なりの良い男性に怒られている。 いい気味だ。 べー。
「まあいい。 こいつを貰おう。 いつもの場所に連れてこい。 代金はその時だ」
「わかりやした」
身なりの良い男性は部屋から出て行くと、私はまた牢屋に戻された。
◇◆◇◆◇◆◇◆
町中を探し、迷子になりながらエイルが怪しい連中を見かけたと言うので、俺、エイル、レアで集まり夜まで待つ事にした。
「あれです」
帝都の外れ、鬱蒼と茂った木々の奥にボロい木の家がある。
その家に似つかわしく無い、獣車が一台止まっている。
そして野蛮そうな男共が数人うろついている。
「見張りでもしてるのか?」
木々の影から三人でそおっと顔を出して見る。
「そうかも知れません」
「倒しますか?」
「少し様子を見よう」
扉が開くと男が小さな少女達をぞろぞろと引き連れ出て来た。
完全に人攫いだな。
「さっさと乗れ」
男が指示して少女達を獣車に乗せている。
「行くぞ!」
人攫いに奇襲をかける。
「ぐわっ!」
レアが投げた
「なんだ!」
「どうした!?」
人攫い達は慌てた様子で武器を構える。
俺の剣が一人を倒し、夜目が効く大きな猫に変身したレアが、爪や牙で人攫いをどんどん倒して行く。
「私だって!」
エイルが鞄から取り出した
が、家の方に飛んでいってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ズシンと上の方で音がする。
なんだか騒がしいな……。
手枷足枷をはめられたまま、牢屋の天井からパラパラと土が落ちてくる。
「何事だ!」
「敵襲です!」
「さっさとぶっ殺せ!!」
「おやぶん!」
「今度はなんだ!?」
「上のアジトが燃えてます!」
「なんだと……! 早く火を消せ!! 商品は無事だろうな!」
「わかりません!」
「ちっ! なんだってんだ!」
おやぶんと呼ばれているひげ面の男性が鍵を開けて牢屋に入って来た。
「お前はこっちだ!」
ツインテールの髪を引っ張られて、無理矢理立たされた。
「痛い!」
「うるせえ! さっさと歩け!! お前は先約がある。 別格の値段なんだよ!」
男に引きずられ薄暗い通路を歩く。
「ルルア!!」
通路の奥から私を呼ぶ声が聞こえる。
この声は……。
「レアさん!!」
「今助けます!」
「だれだてめえ! ……ん?」
レアは大きな猫のまま男に突進して行く。
「なんだこのバケモノは!」
男はルルアの首元に剣を当てる。
「近づいたらこの嬢ちゃんの頭と体がおさらばするぜ」
「グルルルル……」
レアは一定の距離から近づけない。
「レア! 大丈夫か!?」
外の敵を片付け、レアの後を追って地下の通路まで来てみれば、金髪ツインテールの少女が男に捕まっている。
しかも喉元に剣を突きつけられている。
俺の姿を確認したレアは、人型に変身した。
勿論服は着ていない。
「なっ!?」
いきなり目の前で変身したレアを見て男が突きつけていた剣を少し下ろして驚いている。
その隙をつき、レアは
すかさずレアは大きな猫に変身して男に襲い掛かった。
ルルアと言う少女から離れた所を俺の剣が男をとらえた。
「レアさん、!」
「ルルア!」
少女はレアに抱きついてお互い喜び合っている。
エイルがレアの服を持ってくると、レアは人型に変身し、レアは少女の手枷足枷を男から鍵を取って外す。
「この人攫い達はどうしますか?」
「帝都の兵士に突き出すしかないだろう」
「ご主人様、この男だけは殺しましょう」
おいおい物騒だな。
「この男はルルアに傷をつけましたから」
「レアさん、だ、大丈夫だよ」
「ルルア、ダメです。 ルルアの顔に傷をつけるなんて万死に値します」
少し膨らんでいるルルアの頬を見て
「待って待って、私のポーションならこの傷治せるから」
エイルは鞄からポーションを取り出して、ルルアの頬にポーションを塗ると腫れはすぐに引いていく。
「もう大丈夫です。 ありがとうございました」
ルルアはエイルにお礼を言うと、エイルはルルアをギューっと抱きしめる。
「良かった……」
「あ、あの、少し痛いです……」
「エイルさん、ルルアが痛がってます。 早くどいて下さい」
エイルはレアにどかされると、レアはルルアをお姫様抱っこをする。
「よし、この男も縛ったから問題ないだろう。 外の少女達も解放しよう」
兵士に色々聞かれると面倒なので、人攫いは全て縛り上げわかりやすい場所に転がしておく。
攫われていた少女達を解放し、お爺さんが待つ家に四人で帰る。
ルルアはレアに抱っこされたまま、少し恥ずかしそうにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます