三話 【守護盾《ガルガード》】

「ここが守護盾ガルガードの支部です」

 エイルに案内された場所は、通りの真ん中辺りにある建物。 看板には盾と剣が描かれた看板が付いている。

 中は受付の女性が一人と、緑色したローブを纏った長身の男性がいた。

「ミリムさん!」

「あら、エイルちゃん。 今日はどうしたの? 依頼でも受けに来たのかしら?」

「いえ、今日は新しくガルガードになりたいと言う方をお連れしましたー!」

 エイルは俺の方に手を差し出す。


「えと、初めまして、獅堂 賢治しどう けんじと言います」

「初めまして、私はこのガッドレージ支部の受付をやっている【ミリル・フィーヤード】って言います。 ミリルって呼んでくださいね」

「はい、よろしくお願いします」

「それで、ケンジさんはガルガードになりたいとの事ですが、得意分野ってありますか?」

「得意分野?」

「エイルさんと同じ錬金技工術師アルケミスターだったり、魔導技工士まどうぎこうしだったりしませんか?」

「そう言うのは特に……」

 人造人間です! とは言えないからなあ……。

 朝、エイルに「人造人間と言う事は絶対に秘密にして下さいね! でないと何処かの組織に研究材料にされてしまうかも知れませんよ」 と念を押された。

 研究材料になるなんてごめんだ。


「ケンジさんは強いんです! その辺の魔生物なんて簡単に倒せますよ!」

 エイルが助け舟を出してくれる。

「へぇー、面白そうじゃ無いか」

 緑色したローブを見に纏い、弓矢を背中に背負っている黄緑色したロングヘアーの男性が声をかけて来た。

「ミリル、彼を僕に任せてもらえないか?」

「マドルさん、良いんですか?」

「ああ、今は暇だからな」

 このマドルと言う男性、背が高く、イケメンだ! よく見ると耳が長い? もしかして……。

「エルフ!?」

「へえ、長耳族エルフを知っているのか」

 エルフと言えばファンタジーでは定番だ。

「ますます君に興味が湧いたよ。 是非僕に守護盾ガルガードのテストをさせてもらえないか?」

「マドルさんが良ければ」

 どうやらこのマドルと言うエルフに守護盾ガルガードになる為のテストをやらされるようだ。


 マドルさんと二人で魔生獣避けの外灯が無い町の外まで連れてこられた。

 連れて行かれる前、エイルに注意される。

「マドルさんはこの支部では一番強いので、気をつけて下さい」

 一番強いのか……。


「この辺で良いか。 テストを始めよう。 えーと……」

「ケンジです」

「そうだった。 ではケンジ君、僕と魔生獣をどちらが多く倒せるか競争だ」

「競争ですか?」

「そうだ。 守護盾ガルガードは魔生獣との戦闘は切っても切れないものだからね」

「わかりました」

「うむ、ケンジ君は得物はあるかい?」

 そういえば素手だった。

「いえ……」

「ならこのを短剣ダガー使うと良い。 僕はもう一つあるからね」

 マドルは弓矢を岩場に立てかけると、短剣ダガーを構える。


「弓矢は使わないんですか?」

「それでは競争にもならないよ。 それじゃいくよ!」

 森の奥にある少し開けた場所まで魔生獣討伐のレースが始まった。


 マドルさんはエイルに強いと言われているだけはある。

 木々を上手く避け、現れた魔生獣【ガウラット】を次々と

短剣ダガーで倒して行く。

 俺は襲ってくるガウラットを倒すのが精一杯で、マドルさんとは大差がついてしまっている。


「君の力はそんな物かい?」

 マドルさんに挑発もされるが、とてもあんな動きは出来ない。

 そしてマドルさんは先に行ってしまった。


「はあはあ……」

 俺は息も絶え絶えになんとか、森の奥の広い場所まで辿り着いた。

「ケンジ君おつかれ」

 短剣ダガーをくるくると回しながら、木に寄りかかってマドルさんが待っていた。


「マドルさん……、早いですね……」

「そうでもないさ。 ケンジ君もなかなかやるね」

「そうですか……?」

 息を整え、マドルさんにテストはどうなったか聞いてみるか。

「それで、俺のテストは……?」

「そうだねえ……、僕が三十二匹、ケンジ君が十三匹の魔生獣を倒している。 数では僕の方が上だけど、初めてでこの数は中々だよ。 何かやっていたのかい?」

「ちょっとだけですけど……」

「そうかい。 じゃあ、最終テストだ」

「最終テスト?」

「そう、僕とケンジ君で対決だ」

「え!」

 マジかよ! 勝てるわけないじゃん!!


「大丈夫、大丈夫、手加減はするよ」

 マドルさんはわかってるって顔をしてる。

 手加減するって言われてもな……。

「どうする? ここで辞めても良いけどテストには不合格になっちゃうよ」

 それは困る。

「わかりました。 やります!」

「そうこないと!」


 少し開けている場所は少し崖になっていて、二人で降りて行く。

 俺が開けている場所の真ん中に向かって歩いていると、マドルさんが呼び止める。

「ケンジ君! ストップだ!」

 急に呼び止められたが、一歩出てしまった。

「そこから急いで退がれ!!」

 マドルさんの声と同時に地面が揺れる。

 地震か!?

 言われた通りに後ろに下がった。


 さっき俺のいた場所の地面から巨大な鋏が地中から現れた。


「あれは!?」

「魔生獣【ジャイアントリッパー】だ!」

「ジャイアントリッパー?」

「地中に潜み、近づいた所を巨大な鋏で攻撃してくる。 本体は地中だ。 気を抜くな!」

「わ、わかりました」

 巨大な鋏はシャキシャキと動き、本体が地中から出てくる。


 巨大な本体は赤く、足が八本、鋏が付いているのは尻の方で、頭は反対側にあるらしい。 ハサミムシに近いな。

 その巨体にもかかわらず結構な速さで鋏を俺やマドルさんに振り下ろしてくる。


「マドルさん! 弓で攻撃を! ……あ……」

「そうなんだよ。 置いてきちゃった。 テヘ」

 テヘじゃ無い。

 こんなのに勝てるかーー!!

 声を大にしてマドルさんに文句を言いたい所だが、マドルさんはなんだかんだと余裕でジャイアントリッパーの攻撃を

躱し、鋏を短剣ダガーでいなしている。


 なかなか当たらないマドルさんから狙いを俺に変えたのか、鋏を急に振り下ろして来た。


「このおーー!!」

 無我夢中で短剣ダガーを鋏に振り下ろす。

 こんな小さい短剣ダガーでは巨大な鋏に太刀打ち出来るわけが無かった。

 はずだったが、俺の短剣ダガーはジャイアントリッパーの鋏を切り落とす。

 だがジャイアントリッパーの動きも早く、身を翻し口の小さめの鋏で襲いかかって来た。


「ケンジ君!」

 尻の鋏を防いだ事で大勢が崩れてしまっている。

 やられる!!


 その時、ジャイアントリッパーの顔が爆発し怯んだ。

 いまだ!!

 そのチャンスを逃さず、俺はジャイアントリッパーの喉辺りに短剣ダガーの刃を突き立てた。


 ジャイアントリッパーはもがき暴れ、足に俺は崖まで蹴り飛ばされた。

「がっ!!」

 痛みはあるが、まだ大丈夫だ。

 起き上がった時、ジャイアントリッパーの頭は切り落とされ、地面を僅かに揺らして倒れた。


「大丈夫ですかーー!!」

 崖上からエイルの声が聞こえる。

「エイル?」

「遅いから見に来たんですーー!」

 そうか、あの爆発はエイルの小型爆弾コロボムか。

 良く当てたな。


「ケンジ君、大丈夫だったかい?」

「ええ、なんとか……」

「きゃあああああ……」

 マドルさんが俺を起こしてくれていると同時にエイルが崖上から転がり落ちて来た。

「……エイル君、相変わらずだね」

「はは……」

 エイルを起こしさっきの爆発について聞いてみる。


「なんとか当たりました」

 やはりさっきのはエイルが投げた小型爆弾コロボムか。

「助かったよ」

「ほんとほんと。 僕も油断しちゃって、ケンジ君に怪我させてしまう所だったよ」

「本当ですよ! 気をつけて下さい」

 エイルがマドルさんに注意している。

「マドルさんはあのジャイアントリッパーを倒すなんて余裕でしたか?」

 油断とはつまりそう言う事だろう。

「まあ……ね」

 軽くウインクされる。 イケメンだからこそ許されるな。

「おっと、すっかり忘れてたよ。 魔生獣との戦いを加味すると……」

 ゴクリ……。

「合格だ」

「やった!」

「ケンジさんやりましたね!」

「それにしても驚いたよ。 まさかあそこまで僕に食いついてくるなんてね」

「そうですか? マドルさんは俺の倍倒したますけど……?」

「そりゃこれでもプラチナランクだからね」

 プラチナランク……。

 そりゃ強いわけだよ。

「でもケンジ君、キミはシルバーランク位の実力は既にありそうだね」

「本当ですか!?」

 シルバーと言えばアイアンの次、エイルの一つ上のランクだ。 そんな実力が俺に?

「やったあ!  これで一緒に守護盾ガルガードが出来ますね!」

「ああ、よろしく」


 守護盾ガルガードの支部まで戻り、マドルさんにお墨付きをもらい守護盾ガルガードの印であるペンダントを貰った。

 これで俺も守護盾ガルガードか。

 明日からバンバン働いて【ジル】を返さないとな。

 意外にも働く事を楽しみにしている自分にびっくりしながら宿まで戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る