黎明の|錬金技工術師《アルケミスター》|と終焉の|魔導機技師《アーティファクター》|

かなちょろ

第一章 魔導機《アーティファクト》

 一話 【出会い】

 どの位眠ったのだろうか……?

 コポコポと空気の音だけが聞こえる……。

 四肢は動かない……。

 覚えているのは駅構内で暴れていた男性から女性を守った時に刃物で刺された記憶があるだけだ。

 でも今は痛くも無い。

 死んで天国にでもいるのか?

 なんかこのままでいるのも良いかもな……。


「……きゃ………ぁ……ぁ……ぁぁあああーーーー!!」


 ゴロゴロゴロゴロ……。

 ズッシーン!!


 何かが激しく壊れる音が聞こえてくる。


「いった〜……、もう、なんなのよ!」

 ……女性の声か?

「え!? 何ここ……? 見た事無い魔導機まどうきばかりじゃない……。 私ってやっぱり運が良い《ついてる》かも!」


 結構近くにいる?


「何これ! 人? もしかして人形これって……。 こんなに綺麗に残っているなんて」

 コンコン。

 どうやら声の主が何かを叩いているみたいだ。


 バキンッ!

 バチバチ。

 ボンッ! ボンッ!


「え! なになに!? あ! あっちの魔導機まどうきから火が! もしかして私がぶつかったせいー!?」


 爆発音があちこちから聞こえてる。


「あ〜ん! ごめんなさ〜い! 止まって〜!!」


 ポチっ!

 ……ゴボーーーー!!


 ふわふわしていた俺の体に重力が感じられ始めた。


「わー! どうしよ! 起動しちゃったよう!!」


 だんだんと意識がハッキリしてくる。


「私、魔技士まぎしじゃないから全然わかんないよー!」


 目を開けて朦朧としていた意識がハッキリとし、目の前の状況が見え始めた。


 誰かが機械をバンバン叩いてるな……。

 一歩踏み出すと目の前の硝子が開く。 同時に機械を叩いていた女性が振り向いた。


「あ……、う……うし……」

「うし?」

「後ろ! 燃えてます!!」

 振り向くと俺の後ろがゴウゴウと燃えている。


「うおおおお!!」

 炎にびびって女性に駆け寄る。

「きゃああああ!!」

 女性も叫び声を上げて逃げ出す。


「うおおおお!!」

「きゃああああ!!」

 部屋中を2人で駆け回る。


「は、裸でこっち来ないでくださ〜い!! それ以上近寄ったら小型爆弾コロボムを投げますよ!」

「え! いや、ちょっと待って……」

「きゃああああ!!」


 その爆弾の威力はそんなに無かったが、投げた方向が良く無かった。

 正面にいる俺の遥か右手側に爆弾が飛んで行った。

 爆弾の爆発で機械から更に火の手が上がり、爆発音と共に部屋の天井が崩落して来た。

「あぶなっ!!」

 爆発で天井が崩落した時、軽く感じる身体を素早く動かし、女性に覆いかぶさると瓦礫から守る事ができた。

「いった〜」

「大丈夫ですか?」

 瓦礫をどかし、女性の手を引き座らせる。

「あ、ありがとう……ござ……、きゃああああ!!」

「ぐふぅっ!!」

 女性に突き飛ばされ、瓦礫に激突。

 頭からピューっと血が噴き出し、俺はもう一度死んでしまったのか?


「ごめんなさい、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 女性が近寄って鞄から何か取り出している。

 布をかけられ頭から顔全てに包帯がグルグル巻きされる。

「モガ……モガ……」

「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、私、包帯巻くの下手なんです」

 自力で顔の部分だけ包帯を剥がすと、やっと女性の顔がハッキリ見えた。

「ふうー……、君は?」

「あ、自己紹介がまだでしたね。 私は錬金技工術師アルケミスターの【マキルド・エイル】と言います。 エイルと呼んでください」

「エイルさんですね」

「はい」

 笑顔で返事をしてくる。 笑顔は可愛いが、いまいち状況が飲み込めない。

 俺はなんでこんな所に? 錬金技工術師アルケミスターってなんだ?

「俺は……」

 自己紹介をしようとした時、嫌な音がし始め、部屋が崩れ出した。


「大変! 早くこっちへ! 壁を爆破します!」

 エイルさんは鞄からから爆弾を取り出すと壁に向かって……、あさっての方向へ投げた。

 もちろん壁はノーダメージ。

 もうだめだ! と思った時、投球フォームの姿勢を崩し俺ごと転がり壁に激突するも、壁をすり抜けた。

 すり抜けた壁の奥からは部屋が崩れている轟音が鳴り響く。


「助かりました〜……」

「本当にな」

「いったいこの壁どうなっているのでしょう?」

 エイルさんは壁をペタペタ触っている。

 そのエイルさんの姿を見ると、俺のいた日本では見ない不思議な格好をしている。

 白い羽が付いた赤いベレー帽、髪は赤いロングヘア、瞳はうっすらとした赤い色、紺のベストっぽい服装に赤いショートパンツで太腿は出ている。

 俺の周りでは見た事の無い格好で、赤い小さいマントなんかも身に付けている。

 そしてヘソ出しで谷間が見える服装な為に気になってしまう……。

 で、俺は……。

 自分の体を改めて見ると、筋骨隆々で、腹筋もシックスパックに割れている。

 いい身体だ。

 ムスコさんは前よりデカくなってないか?

 ん? ムスコさんが見える?

「うわーー!!」

 俺は急いで持っていた布で下半身を隠した。

 部屋の中では薄暗くてわからなかったが、裸で女性を追い回してたのか……。

 そりゃ逃げる訳だ……。


 エイルさんは俺の声にびっくりしたのか、俺から距離を置いている。

 当たり前か。


「あ、あの、貴方は?」

 耳を赤らめながら顔を背けている。

 そりゃそうか。

「あ、ああ……、俺は……獅堂 賢治しどう けんじ

 俺が覚えているのは自分の名前と自分が殺された瞬間だけだ。


「シドウ ケンジ? この辺りでは聞かない名前ですね。 とりあえず、何か羽織る物が必要ですね」

 エイルさんは小さい鞄から、どう見ても入っているはずの無い大きな黒いローブを取り出した。

「これでも羽織っていて下さい」

「このローブは?」

 結構使い古した感じのローブだな。


「私の使っているローブで申し訳ありませんが……」

 エイルさんはそっと渡してくる。

 裸よりは助かるな。

「ありがとうございます。 お借りします」

 ローブに身を包む。

 丈が合っていなく、膝までしか無いが元々ダボっとしているローブなので、肩幅は丁度良い。

 意外にもローブの前ボタンは止める事が出来たので、前を開きっぱなしにして、人に見せる事は無さそうだ。


「それで、ここは何処なんですか?」

「ここですか? ここは【エルメリオン王国】の西に位置する【緋燭ひしょくの塔】の中です」

「緋燭の塔?」

 エルメリオン王国と言う国も聞いた事がない。

「はい。 古代に造られた塔の中ですが、覚えて無いんですか?」

「記憶は……無いなあ……、それより古代の塔って!?」

「説明は塔を降りてから話しますよ」

 エイルさんは塔の中を案内して進んで行く。


 歩きながら考える。

 俺は一度死んだ。

 生まれ変わったのだろうか?

 良くある転生? とか言うやつだろうか?

 まだ良くわからない。

 エイルさんに詳しく聞いてみないとな。


 塔を下って行くと、奥の通路に何かモゾモゾと何かが動いている。


「気をつけて下さい! 魔生獣ませいじゅう【ガウラット】です!」

魔生獣ませいじゅう?」

 モゾモゾと動いていたのは、二匹のネズミ。

 見た目こそネズミだが、大きさが大型犬位あり、額には小さな赤い宝石の様な物が付いている。

「私に任せて下さい。  私のこの小型爆弾コロボムが有ればあんな魔生獣ませいじゅうイチコロです!」

 エイルさんは得意げに小型爆弾コロボムを鞄から出し【ガウラット】に狙いを定めた。

「ちょっ! まっ……!」

「先手必勝! とう!」

 俺が発した言葉よりエイルさんの動きの方が早く、投げた小さな樽型の小型爆弾コロボムは、やはり見当違いの方向へ投げられ、転がり爆発する。


「あ、あははーー……」

 

 関係の無いので場所で爆発した爆発音に気がついたネズミの魔生獣ませいじゅう【ガウラット】はこちらに気がついたようで、走って向かってくる。


「こうなったら仕方ありません。 戦います!」

 エイルさんは鞄からナイフを取り出し構える。

 何も持っていない俺は拳を構える。

 あんな獣に勝てるのか? 内心超ビビってる。


 尖っている歯で直線的に突っ込んでくるガウラットを上手く躱し、頭に肘を叩き込む。

 床にめり込むように倒れ、ガウラットを倒した。


 エイルさんの方は……。

 ガウラットの歯をナイフで防いでいるが、力負けしている様子。

「見てないで助けてくださーーい!」

 おっといけない、いけない。

 俺はサッカーボールキックでガウラットの横腹を蹴り上げるとガウラットは壁まで飛び、生き絶えた。


「危なかったです。 助けてくれてありがとうございます」

「いや、でもあんな生物がいるんだ……」

 地球では考えられないな。


魔生獣ませいじゅうはそこらじゅうにいますよ。 凶暴な魔生獣ませいじゅうから大人しい魔生獣ませいじゅうまで沢山です」

「へ〜……」

 この世界で生きていく事になるなら、色々勉強しとかないとな。


「それにしても、私って運が良い《ついてる》な〜。 既に調べ尽くされちゃってると思ってたのに」

「そう言えばなんでエイルさんは……」

「エイル。 エイルで良いですよ。 私もケンジって呼ばせてもらいますから」

 呼び方に不満があったのか正された。

 いきなり呼び捨てで良いのか?

「わかりました。 なんでエイルはこの塔に?」

「いや〜、実は路銀が底をつきかけちゃいまして、何か残って無いかな〜って思いまして。 はは……」

 頭をかきながら照れてるけど、照れてる場合じゃないぞ。


「でも、ケンジを見つけられてラッキーだわ」

「俺を見つけられるとラッキーなのか?」

「だって、ケンジさんは古代技術の結晶なんですよ! もしかしたらレリックかも知れません!」

「レリック?」

「そうですね。 古代の超技術で作られ、今の技術ではとても再現する事は出来無い物を言います」

「俺は……、作られたのか?」

 自分の手を開いて閉じるを繰り返してみる。

 とても作られた体とは思えないが。


「あ……、ご、ごめんなさい。 作られたなんて……、失礼でしたね……」

 エイルはペコペコと謝ってくる。

「いいよ、気にしてないから」

 こっちは一度死んでるんだし。


「ケンジさんの価値は凄い高いはずなんですよ。 いくらの価値になるのか……」

 エイルは舐めるようにジロジロと見てくるけど、売ったりしないよな……?


「それにケンジさんってお強いんですね」

「いや、まあ……」

 地球では護身術程度の武術は学んでいたけど、多分この体の身体能力が高いのだろう。

「少しは心得が……」


 きゅるる〜〜。


 急に変な音が聞こえた。

「あ……。 な、なんでもないですよ。 そ、そうだ、魔石ませき取って置かなきゃ」

 エイルは倒したガウラットにナイフを突き立て、額にあった綺麗な宝石のような物を取り出した。


「それは?」

「これは魔石ませきです。 魔石獣にはそれぞれ特徴のある魔石があります。 魔石は売れますし、錬金術の素材にもなりますから、忘れずに取って置かないと」

 魔石を小さな鞄にしまったいる。

 しかしこの世界は錬金術がある世界なのか?

 もしかして魔法もあるのか?


「なあエイル、魔法も……」


 きゅるる〜〜。


 またしても何かの音が聞こえる。


「は、早く塔を出ましょう。 この塔を出て南に行けば【ガッドレージの町】です」

 エイルはお腹を押さえて顔を赤らめている。

「もしかして、お腹空いた?」

「そんな事ありません! 昨日から何も食べて無くても平気です! そんな事より早く行きましょう」


 急かされて、腹減りエイルの後を着いて行く。

 ガッドレージの町に着いたら色々聞かないとな。

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