扉に“ニート”


 事前にノクターンに大量の補助魔法を掛けて貰っていたのと、スキルの大量発動&事前に矢を配置していたお陰で、一瞬で片が付いた。

 一応攻撃漏れを警戒していたけど、物音も気配もしない。

 エクスカリバーを手にしながらも光音叉を地面にぶつけると、すぐさま俺を中心にして光が広がっていく。


 見える範囲、つまりはこの広い空間にいた限りのエングラードラゴンを倒せたらしい。

 とりあえず生き残りはいないと判断した。


「ぶはぁーっ!!!ひぃー、怖かったぁー…!! いててて…」


 回復魔法掛けて貰ったけどまだ脇腹が痛む。

 擦ってみると、どうやら奥の方が痛いらしい。


 回復漏れなのか。

 それとも動いたから回復が甘いところが開いたのか。


「ノクターンも疲労困憊だったもんな。しゃーないか」


 合流して、元気になったらまた回復魔法掛けて貰おう。

 改めてみんなの位置を確認すると、マークが移動して、ある地点で消失、全く違う場所に再び現れた。


 ワープって、思ってたよりもえぐい距離跳ぶんだな。


 とはいえさっきよりもずいぶんと近くなった。

 この分だと頑張れば早めに合流できそうだ。

 まぁ、俺が迷わなければの話だけど。


 にしても移動速度早くないか?と、結構な速度で移動するマークを見つめる。

 もしかしてみんなクロイノに乗っているんだろうか?

 いいなぁ。


「ふかふかだったな」


 また乗せて貰おう。頼めば乗せてくれるはず。


「んー、それにしても廊下の光が元に戻らないなぁ。なんでだろ?」


 元凶であるエングラードラゴンは倒したから戻るはずなのに戻る様子がない。

 光音叉である程度明るくなったとはいえ、光量自体はだいたい月明かり程しかない。

 歩くには申し分ないけど、物陰から急に襲われたら反応が遅れる。


 仕方がないので千里眼の自動発動を切り替えることにした。半径10m以内に生物が入れば自動マークする。

 これで奇襲はなんとかなるだろう。


「さーて、どうしようかな」


 問題は俺がどっちへ進むかだ。

 下手に動き回るのもどうかと思いつつ、このまま立ち止まっているのもどうなんかなーと、サボっているような気分になる。


 迷子のくせしてサボっているもくそも無いんだけど。


「なんかないかなー、この状況を打開してくれるヤツ」


 鞄に手を突っ込んで探してみる。

 例えば最終目的地に案内してくれるナビゲーターみたいな。そんな事を思いながら、ちょうど手に触れた魔法具を取り出した。


「方位宝針?」


 この世界での旅立ち前半でお世話になった魔法具だった。


「…あれ?こんな色だったっけ?」


 茶色だったはずだけど、取り出した方位宝針は青色だった。


「間違えて二つ入れたのかな?」


 なんだかんだマーリンガンだって年寄りだ。

 そんなこともあるのかもしれない。


 まぁ、この状況を打開できるのならなんだって良い。

 使い方は同じはずだ。


「んん?」


 避ける対象を入力するためのボタンを探してもない。

 もしかしてこれ不良品?そんな事を思った瞬間、青色の方位宝針が勝手に起動した。

 針が高速でクルクル回ったかと思うと、廊下の先をしめした。


「なにも指定してないのに…。まぁ、いいか」


 どうせ廊下に沿って歩くつもりだったんだ。






 針に従ってしばらく行くと分かれ道が現れた。しかし針はその一方を迷い無く示す。

 俺は針の指すがままに歩き、時折みんなの位置を確認した。

 ずいぶんと近くなった。

 この分だと合流するのに時間は掛からないだろう。


 相変わらず廊下は薄暗いけど、何故かモンスターと遭遇しない。


「…………、これもしかして針はモンスター避けているだけで迷子なのは変わり無いのでは??」


 そんな考えが頭を過る。

 今からでも元の場所に戻った方がいいんだろうか?

 内心ドキドキしながらも角を曲がると、俺は目の前の光景に思わず口が開きっぱなしになった。


「…うわ、なにここ」


 方位宝針に従っていれば、凄い装飾のされた扉に辿り着いた。

 ちょうど突き当たりで他に道はなく、針はこの扉を示している。

 入れって事なのか。

 改めて扉を観察すると文字があるのに気が付いた。


「なんか文字が書いてるな。…えーと?“汝、理を知れ”“汝、鍵で在れ”? どういう意味?」


 更に上の方には小文字のアルファベッドのような文字が三つ並んでいた。


「えぬ…わいてぃー…? …ニート? 違うか」


 ニートな訳がないし、ニートだとしても意味がわからない。

 とりあえず入ってみて、やばそうならすぐにさっきの場所に引き返せば良いだけだ。


 扉に手を掛けると、勝手に扉が開いていく。

 重そうな扉だったのに、自動ドアだったらしい。


「お邪魔しまーす…」


 恐る恐る中に入り、俺はまた「うわぁ…」と驚きの声を上げた。


 中は青色に光輝く洞窟だった。

 全てが青色に発行する鉱石に包まれ、美しい光景を作り出している。


「おお…、すっご…」


 一歩足を踏み出し、すぐさま気付いた。

 どうやらここは氷の洞窟のようだ。

 廊下とは比べ物にならない程の冷気に包まれ、靴越しでも光る石がつるりと滑らかなのがわかる。

 なんで光っているのかわからないけど、慌ててスキルの【滑り止め】を発動してから洞窟の中へと進んだ。


「ほわー、綺麗だなぁー」


 スマホがあれば連写していたところだ。


「ん?」


 青色の光の中で、宙に浮かぶ不思議な球体を見付けた。

 昔本でみた神秘的な宇宙の景色をそのまま切り取ったような、陸地の無い地球のような、そんな不思議な球体だ。

 大きさはバスケットボールほどで、どこも吊られている様子もないのに宙に浮いて微動だにしない。


「なんで浮いてるんだこれ」


 思わず手を触れた。

 その時。


「!?」


 バンッ!!!!とブレーカーが落ちたように辺りが一瞬にして明かりが消えた。

 俺が最期に見たのは、光が消えたその瞬間、手を触れたその球体が美しい青色からマグマのような鮮やかなオレンジ色の斑点が出現し、そこから炎に吹き出した光景だった。


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