渾身の一発芸
森を抜けると突然開けた場所に出た。
「おお!」
目の前に聳えるのはビルのような岩の塊だった。ここが集合場所なのだろうかと思ったとき、馬車が止まる。
「着いたぞ。ここがアジトだ」
そう言ってクレイが馬車を下りた。
「ここが?岩しかねーじゃねーか」
ドルチェットが感想を漏らすと、一人の男が岩の影から現れた。
屈強な男だった。ガムキー先輩とまではいかないが、取っ組み合いになれば素手では敵いそうにない体躯をしていた。
その男がクレイを見付けるなり笑顔で話し掛ける。
「よお、クレイ。遅かったじゃねーか。たった二年で道が分からなくなったのかと思ったぞ」
「オルゾアさん!」
クレイが嬉しそうにしている。
知り合いらしい。
俺が馬車を下りる頃には更に男達が増えていた。総勢10人の男がクレイと楽しげに会話し、その内の一人がクレイと共にこちらへとやってくる。
すぐ目の前で男が足を止めると、クレイが紹介をした。
「オレの仲間達だ。皆、この人はオルゾアさん。船の指揮を執る副船長」
身長は2メートル近い。
オルゾアと紹介された男はこちらをジロジロと容赦なく頭の先から爪先まで観察する。
俺なんか片手でいとも簡単に潰されそうだな、や、この感じ懐かしいな、と思いながらオルゾアに挨拶をした。
「こんにちは。ディラです」
俺が挨拶したことによって我に返った皆がオルゾアへ挨拶をする。
そして各々挨拶が終わると、今度はオルゾアが自己紹介を始めた。
「よお、はじめましてだな。俺達はいわゆる空の運び屋をやっているモンだ。金次第では何でも運ぶ。人でも武器でも何でもだ。次のために覚えておけ。といっても今回はクレイに免じて超格安で運んでやるんだ。感謝するんだな。んで、こいつらが乗組員だ。ほれ、挨拶」
「うっす!!!!!!」
屈強達の挨拶で反射で俺はあちらの乗組員と同時に「うっす!!!」と挨拶を返してしまった。恥ずかしい。
それで何かを察したらしい数人がこっちを見て変な笑みを浮かべてる。
とはいえ、俺のそんな失態を気にする人は居なかった。何故ならばノクターンはビビり過ぎて意識が遠退き掛け、ドルチェットとジルハは思わず警戒体制に入っていた。そんな中アスティベラードはというと。
「ふむ。やはり前のと同じように見えるな」
謎の発言をしていた。
前ってことは、前も同じようなものに乗った経験がおありなんですかね?
そんな疑問はさておき、オルゾアはこちらを見回して「ん?」と首を捻る。
「メンバーは七人?六人だと聞いていたが」
「ん?」
いやそんなわけはないよ、と、クレイは振り返り、指さしで数え出す。
それぞれ指差して、最後に自身を指差して確認するとオルゾアに言う。
「いや、六人のままだけど」
「じゃあ、そこの鎧はここに置いていくのか?」
指差す先にはロエテムだった。
皆に混じり、何食わぬ顔で話を聞いていたような雰囲気をしていたロエテムは、オルゾアに指差された事で、みんなに注目された瞬間に何故か腕を組んで偉そうなポーズをとった。
最近思うのだけど、本物の魂が内蔵されているのではないかと俺は疑っている。
そんな人間そのものに見えるロエテムを確認して納得したクレイが早速訂正をした。
「すんません、こいつ人間じゃなくて人形です」
クレイがロエテムの背中を軽く叩くとこんにちはと兜を上げるロエテム。
この前の落ち込みから一変、開き直って一発芸にしたらしい。
だけど、オルゾアは無言でロエテムの中身を見詰め。
「紛らわしいから首に人形ですと札でも下げててくれ」
とだけ言って話を切り上げてしまった。
思ったよりも反応が薄くて感心する。
でも万が一パニック起こされてロエテム壊されでもしたら堪らないので言われた通りに『ボクは人間ではなく人形です』札を下げておくことにした。
ちなみに一発芸が滑ってロエテムは少し落ち込んでいるような雰囲気になっていた。可哀想である。
「んで、積み荷は馬車か。言っとくが馬の糞の面倒まで見てられないぞ」
そう言われたので、俺は自信満々に答えた。
「ご心配なく。こちらも人形なので、なんなら解体してしまっておくことも出来ます」
よいしょとグラーイを解体すると、屈強達から感心したような声が上がる。
オルゾアが俺のすぐ隣に来た。
「便利だな。いくらで売る?」
「売りませんよ」
思わぬ所に需要があるものである。
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