おまけ、という名のこぼれ話
姚人の業務日誌
こんにちは、
我々若い人間は起床したらまず官舎の掃き清めからせねばならないのですが、
朝餉は干し飯を蒸したものに、
始業はいつものように
官人の方々は点卯(点呼)までに出勤されていればいいのに、宋少監は書類の整理や片付けで早めに来られることが多いそうです。先日『清、慎、勤』の官人の鑑だと殿中監から褒められている姿を見て、私も嬉しくなりました。
今日に限って言えば、宋少監は点卯に合わせて出勤されていました。
ああそういえば、
それから……ゆっくりと出勤されるときに限って、いつもは香の匂いのしない宋少監から少し甘い香りがします。
ご自宅で気を休めてらっしゃるのかなと思い、「香を焚かれるようになったんですか?」と聞いたところ、宋少監は驚いたような顔でご自身の袖の匂いを嗅がれ、「ああ、これは
「残り香ってどんな種類の香ですか?」と聞いたところ、顔を青くした他の仲間に物陰に引き込まれ、「馬に蹴られて死にたいのか」「野暮なことを聞くな阿呆」「馬鹿は黙っていろ」と叱られました。
どういった香なのか結局わからなかったので、また今度長公主さまに聞いてみたいと思います。
午前時は、省内に籠もって宋少監のお手伝いを、午後からは掖庭宮や主上のもとへのお使いにでかけました。
掖庭宮は相変わらず騒がしい場所で、私は少し苦手です。
最近は主上も頻繁に足を運んでいらっしゃって、今日の午後も少しお顔を拝見いたしました。
その後は外廷に戻り、皇太后宮にお使いへ行ってすぐ戻りました。あそこは本当に苦手です。怖い顔をした女官に凄まれるので、いつも長居しません。
戻りの道中、
「いくつ?」と聞かれたので「十七です」と返すと、また酷く驚いていました。曰く、紅琳長公主さまと同い年には見えないとのこと。茗さんは私の二つ上だそうです。「よくあたしのことを覚えていたわね」とおっしゃるので、「初めてお会いしたときに綺麗な方だなと思っていたので、よく覚えています」と返すと、怒ったような顔をされて背中を
その後は殿舎に戻って、書庫の整理を行いました。埃をたくさん吸ってむせていたら、仲間が
その日の夕餉は鶏粥でした。今度は先輩より先におかわりをすることができたので、お腹一杯に食べられて幸せです。
明日も早いので、早くこれを書き上げて宋少監のもとへ届けたいと思います。
「姚人、これは――」
書き上げるのが遅くなり、提出にと足を運んだ馨可宮では、既に髪を下ろした暁明と曄琳が並んでおり。
得意満面で日誌を差し出す姚人を目の前に、暁明は内容に目を通し始め、そしてすぐに額を覆ってしまった。暁明の様子を見て、曄琳も肩口から覗き込むようにして読み始めるが――その二人の距離が随分と近いことに、姚人はにっこりする。大事な人達の幸せそうな姿は姚人も嬉しいのである。
二人の反応を窺っていた姚人だったが、しばらくすると、曄琳も口を覆って俯いてしまう。
「あれ? どこか変でした?」
暁明が疲れ切った目で日誌を返してきたので、姚人は小首を傾げた。
「姚人。これは業務日誌ではなく、あなたの日記です。明日までに書き直して再提出なさい」
「ふ、ふふっ……駄目だ笑っちゃう……っ」
「そんなぁ、
「そんな、ではありません。あなたの日常がとても楽しいことはわかりましたから、次は業務内容に絞って書きなさい」
肩を震わせる曄琳と呆れ顔の暁明に見送られ、姚人は首を傾げながら馨可宮を後にしたのだった。
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