『追放』の力を授かった俺!今から人生を満喫してやるぜ!納得できねー奴は追放だあ~!

でぃくし

第1話 この力は本物だ!追放された俺!


「アタケ!お前は追放だ!追放追放、追放だ!」

「ええ~っ!?マジで追放されんの~?!」


俺の名はアタケ。

変わった名前だとよく言われる。


母ちゃんの故郷の言葉らしいがそれがどういう意味かは親父も覚えていないらしい。


それに母ちゃんのことも親父にはもう聞けそうにない。

何故なら俺は今、親父の手で家を追放されそうになってるからだ。




古くからの伝承だ。

けれど俺は本気にしていなかった。


それは『神々のチャイム』と言い伝えられている。

なんでも、チャイムの音と共に神々から不思議な力を授かるという話だ。


あれは家の裏手にある農園で一仕事を終え、昼寝でもしようかと思っていた頃だった。




──……爽やかな昼下がりだった。


突き抜けるような空に宝石のような光がちらつき、千切れた真綿のような雲が涼やかな風に流されていく。何処からか聞こえてくる鳥の声。


そんな時に澄み切った美しいチャイムの音色がはっきりと聞こえてきたのだ。


心臓のあたりからだ。腰を抜かした俺は草むらの上に座り込み、そして同時に知った。この力が<追放>という名を持つことを……。




(うわっ、マジかよこれ!?)


神々のチャイムって嘘じゃなかったのか?

しかも<追放>だって?どんな効果なんだろうなあ~!?

うっし!ちょっくら親父相手に試してみっかあ~?!


「うぃーす、オラオラあ!起きてるか、親父い~!!」


何しろ神々からの贈り物だからな!

結果が怖くて試せないなんてことはない。


そして俺は意気揚々と親父の元へと向かい<追放>の力を発動したのだった。




俺達が住んでいるのは歴史と呼べるものも名跡もないただの田舎町だ。

俺の家は貴族でもなんでもなく、ごくごく一般的ないちご農家だ。


ちなみにいちごを甘くするコツは、日当たりが良く風通しの良い場所で栽培するのはもちろんのこと、いちごの根元から生えてくる芽をつみとって本命の株に栄養がいきわたるようにするのがコツだ。




「ぐうおああ!!??」


まあそれはそれとして<追放>の力を使ったと同時にいつもは優しい親父が豹変してしまったのだ!




「神々のチャイムだと!?効果も分かんねえのに変な力を使ってんじゃねえ!うわあああ、かわいい一人息子を追い出したくないのに追放したい欲求に逆らえん!」


「ちょっと試しただけじゃねえかよ!てか効果も教えてくれない神様が悪ぃんじゃねえか!」

「それもそうだな、けれどもうとっとと消え失せろ!」


「えっ!?マジで餞別も何もなしに追放されるのかよ!?ちょ、ちょっと親父!嘘だろ!?」




結局、親父は<追放>の力に抗うことが出来ず、俺は襟首を掴まれ親父に家から放り出されてしまったのだ。枯れた草しか生えていない白く埃っぽい砂利道に無様に転がされる俺!


こんな親父や田舎に未練があるかというと微妙なところだが、着の身着のままで追い出すとは流石に無茶苦茶だと思う。




「親父!クソックソッ!マジで覚えてろよ!いつかまた会う日がきたら容赦しねえからな!」

「すまん息子よ!パパを嫌いにならないでくれ!でも二度とその愛らしいツラを見せるんじゃねえぞ!」


ぺっ、と唾を吐く親父。

軽い気持ちで使った<追放>の効果は恐ろしいものだった。




(こんなもんほとんど洗脳じゃねえか!?)


神々のチャイムの力の効果がどこまでのものかはわからないが、親父の錯乱ぶりを見るに身近な人に軽々しく使うようなもんではないかもしれない。




‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥




「おい、アタケどうしたんだ?」

「あれ?爺さん?何か用?」



家を追い出され、とぼとぼと1時間ほど歩いていた俺に声を掛けてきたのは変わり者で有名な近所の爺さんだ。


俺の親父が子供の頃から爺さんをやっているという筋金入りの老人で、今ではあばら屋に老いぼれた猫と一緒に住んでいるらしい。


俺はいつものように気さくに挨拶すると事情を話す。




もちろん村の住人たちに下手に知られるとヤバいことになりそうな神々のチャイムの件は伏せつつ、親父に勘当されたことだけをおもしろおかしく脚色してだ。




「なるほどな、てっきりわしはお前が何か不思議な力を授かって、それを悪戯に使ったせいで家から追い出されたかと思ったよ」


「じ、爺さん、そそ、そんなわけないじゃないか!きっと親父は酒と間違って犬の小便でも飲んでパーになったんだよ!」


「ぐはは!まあまあ、あいつもすぐにお前のことが心配になって迎えに来るだろ。どうだ?お前も大きくなったし、それまでの間は口入屋で仕事でもしてみるか?」

「口入屋?」

「周旋を生業とする仲介業者のことだ。簡単に言えば働きたい人と働いてくれる人を探している人を引き合わせる仕事と言えば分かるか?」


「何だよ爺さん、いきなり難しいことを言い出して、つまり俺に仲介人でもやれってことか?」

「い、いやそうじゃなく……お前がその、仕事を紹介してもらってだな……」




こうして爺さんのアドバイスの通り、俺はしばらく冒険者となり日銭を稼いでいくことに決めた。




つまり爺さんが紹介してくれた仲介業者が紹介する依頼人たちに仕事を紹介してもらい、いや、紹介してくれた仲介業者に仕事をしてくれる人を探している人たちを紹介してもらって、依頼人に仕事を……?


……とにかく俺は働くことになった。




こうなったら冒険するついでに神様からもらった<追放>の力を試してみるのも悪くないかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る