オニゲーム!
夜野千夜
一名高校オニゲーム部始動!
「たのもー!」
都内某所、閑静な住宅街のすぐ隣に建っている一名高校の生徒会室にて。放課後ということもあり生徒の姿もまばらなため、賑わいとは程遠い校舎に明るい少女の声が響いた。
ピンクブロンドの髪をポニーテールに束ねた、一見高学年の小学生に見えなくもないほど幼気な少女は、生徒会室の扉を勢い良く開け中に意気揚々と入ってきた。
「あれ、セラ。どうしたの」
そんな少女を優しく穏やかな笑みで迎えたのは、少女――
「リヒトなんでこんなところにいるの?」
「僕はたまに生徒会の仕事を手伝ってるんだよ。セラこそ、何の用だい?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」
セラはゴソゴソと持っていた通学カバンを探ると、クリアファイルに入った書類をリヒトに突き付けた。リヒトはその書類に顔を寄せる。
「なになに……創部届?」
「そう!ここオニゲーム部無いでしょ?だからわたしが立ち上げます!」
ドヤァァァ……という効果音がつきそうなほど得意げな顔でそう言い切ったセラだったが……リヒトは眉根を下げて困ったように笑っていた。
「これじゃ受理してもらえないだろうね」
「えぇー!?なんで!?ちゃんとわたしの名前書いたよね!?」
「セラ、よく見てみて」
リヒトはクリアファイルから創部届を取り出すと、今度はセラに見えるように反転させた。リヒトはセラの名前しか書かれていない部員の欄を指差した。
「新しい部の立ち上げには最低でも部員が三人必要なんだよ。だけど部員の名前を書く欄を見るに……部員、セラしかいないよね?」
「うっ」
「おまけに顧問の先生も必要になるだろうし……」
「ううっ」
「これじゃあ部として認めてもらえないだろうね」
「ううう……」
容赦なく打ちのめされ、肩を落としあからさまに落ち込むセラ。そんなセラの肩に優しく手を乗せ、リヒトは微笑んだ。
「そんな落ち込まないで、セラ」
「そりゃ落ち込むよー……」
「ほら、もう一人部員増えたよ?」
「え?」
キョロキョロ辺りを見回すセラ。そんなセラに、リヒトは自身の名前が付け足された創部届を見せた。
「ね?」
「〜〜〜〜リヒトーッ!!」
懐に飛び込んできたセラを難なく受け止めたリヒトは、ありがとありがとと何度も呟くセラを宥めた後彼女を引き剥がした。
「それじゃあ、作戦会議といこうか」
リヒトは生徒会室のホワイトボードの前に立ち、マーカーを手に取った。セラは近くのパイプ椅子に腰掛け、何やらメモ帳とシャーペンを持っている。ちなみにリヒトはすでに自身に任された仕事を終わらせているため、職務怠慢ではないことをここに記しておく。元々彼は生徒会の正式なメンバーではなくただの手伝いなので。
「まず、オニゲームのことだけど。セラはどのくらい知ってるかな」
「はい!鬼ごっこをスポーツに昇格したスポーツで、五人一組のチームで競い合う!です!」
「今はそのくらいの認識で良いかな」
オニゲーム……それは世界中で親しまれている鬼ごっこをスポーツに昇格したものである。そのシンプルが故の奥深さと、老若男女問わず楽しめるゲーム性から瞬く間に人気に火がつき、今では全世界で人々を熱狂させている。オニゲーム先進国の一つである日本では全国で大会が行われているほどだ。
「あれ?部員は最低三人必要だけど、それじゃ大会に出られない……?」
「そうだね、五人で出ないといけないことになっているからね。その上大会で勝つとなると、役割分担も必要になってくる」
リヒトはマーカーのキャップを外すと、ホワイトボードに文字を書き始めた。
「オニゲームのプレイヤーは三つの役割に分類される。それがランナー、トリッカー、ブレインの三つだ」
リヒトはホワイトボードにランナー、トリッカー、ブレインと書き記した。
「ランナーはその名の通り走るのが得意な人だね。一番基礎的なポジション故に、一番大事なポジションと言えなくもない。なにせ走りはオニゲームにおいて一番大事な要素だからね」
リヒトの説明を頷きながら聞いていたセラは、メモ帳に赤丸を書き、その中に「ランナー 大事!!」とメモをした。
「次はトリッカー。トリッカーはゲームの撹乱が役割だ」
「かくらん……?」
「かき回すってことだよ。前もって練っておいた相手チームの作戦を台無しにして、味方チームの動きやすいようにするのが役割、ってとこかな」
「ふぅむ……?」
セラはいまいちわかっていない様子で、メモ帳に「トリッカー かき回す」とメモをした。文字の横には鍋をかき混ぜていると思しき人の絵が描かれている。そういうことじゃない。
「最後にブレイン。ブレインはチームの司令塔だね。作戦を立てたり、チームのメンバーに指示を出したりするのが役割だ」
「ランナー、トリッカー、ブレイン……。わたしだったらどれになるかな?」
「役割分担は人を集めてからにしよう。……そうだな。セラ、部員募集のチラシを作ってくれるかい。学校に貼る許可なら僕がとっておくから」
「まっかせてー!」
「僕も何人かに声をかけておくよ。一週間後にまた集まろう」
こうしてこの日の二人は解散することにした。
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