第7話 私の生い立ち

  

 * * *

 

 あーーなんか今日一日だけで随分色んな事があったなぁ……。


 フカフカのベッドの上にゴロンと寝転びながらそんな事を考える。


 乙女ゲームのNTR役に転生したかと思えば、いきなり攻略キャラと結婚することになるなんて。

 しかもこれ、たった一日で起きた出来事よ?

 はぁ、展開が早過ぎて頭が付いて行かないわ。


 ゴロリと体勢を変えていると転生時に入ってきた記憶達が脳裏を過ぎる。


 そう、転生前のエステルの記憶だ。


 エステルは『能無し』として家族からは厄介者扱いされてきた経歴がある。

 エステルには妹がいたが、両親は揃って妹ばかり可愛がり、いつも私は存在しない者として扱われてきた。

 

 たくさんのおもちゃも、

 綺麗な服も、

 両親の愛も、

 それらは妹だけが貰えるもので、エステルはおこぼれを貰う立場だった。


 食事だってそう、家族が終わった後に残った物が基本だった。

 教育も妹だけには専属の家庭教師が付いたが、妹との境遇の差を見兼ねた家庭教師がこっそりと私に読み書きやマナー等を教えてくれたお陰で、エステルにはある程度の予備知識があった。

 また、エステルは地頭が良い様で文字の理解も早く、スターク家にあった書物から独学でたくさんの知識を得ていたようだ。

 そして、まるで辛い現実から目を背けるかのように、ひたすら書物庫に籠っては本を読んで過ごす日々を送っていた。


 うんうん……エステル、よく頑張ったね、辛かったね。


 エステルの過ごしてきた境遇に同情してしまい、思わずよしよしと頭を撫でる。まぁ、自分の頭なんだけど。


 それに比べれば今の環境はまるで天国のようだ。


 フカフカのベッド、

 美味しい食事、

 そして何より、エステルをひとりの人間として見てもらえる。


 夫となるのは『紅の閣下』なんて異名を持つ怖い方だと噂されているけれども。

 今日会ってみて、そんな風には全然感じなかった。

 ……まぁ、まだ初日だし今後どう扱われるかは分からないけど。


 しかし、孤独や家族からの虐げに耐え抜いたエステル。

 しかも、前世の私はシングルマザーで、世の中の荒波に揉まれつつも女手一つで息子を育て上げてきた根性もある。


 そう、今のエステルはちょっとやそっとのことで崩れるようなメンタルしてないのだ!


 NTR役だし、今後クロード様がどう行動するかは分からない。

 

 でも、せっかく毒家族とおさらば出来たのだ。ここはランブルグ辺境伯夫人の立場を存分に堪能しつつ、いざNTRされた後の生活基盤を整えておこう。

 

 それにはまず、妻としてこの家の事を色々把握しておく必要があるだろう。

 それなら、まずは使用人達と仲良くしておいた方がよさそうだわ。


 ふぁぁ、色々考えていたら眠くなってきちゃった。少し休もうかな。


 おやすみ、エステル。

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