第3話 お見合い中だったようです
何てこった。前を向いて生きていくつもりだったのに、まさかのNTR役に転生するとは……。
いや、でも待てよ? これって考え方によっては悪くないポジションなのでは?
愛し合っている関係ならNTR役は辛いものだが、エステルはランブルグ辺境伯様とは初対面。
そして今回の縁談も政略的な意味合いが高い物だろう。
だって、我が家の経営はよくなくてあちこちの家から借金もしていたと聞くし、そもそも男爵家と辺境伯家で身分違いの縁談だ。話が急遽決まったのも、きっとそのためなのだろう。
それに、紅の閣下……いや、正式には『クロード・ランブルグ辺境伯』は辺境地に巣食う魔獣達から国を守る任務がある。
魔獣達の血に染まったその姿から『紅の閣下』として恐れられているが、その功績から貴族の中でも一目置かれた存在だ。
きっとスターク家にいた時よりもお金に困る事はなさそうだし、離婚する事になったとしても原因が相手側にある場合は補償金が支払われる。ランブルグ辺境伯家なら生活に不自由ない程の補償額は払えるはず。
このままヒロインが現れてストーリー通りの展開に発展しても路頭に迷うことはなさそうだし、略奪時に断罪といったシチュエーションもなかったはず。
そう、乙女ゲームにありがちの断罪がないポジションに転生したのなら、これはこれで有りなのではなかろうか。
そんな事を考えていると、コンコンッと小さく扉を叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
返事をするとクロード様を始めとした使用人達がゾロゾロと入ってきた。
「エステル嬢、起きていたのか。体調はどうだ?」
「はい、大丈夫です。クロード様、ご心配をお掛けして申し訳ございません」
「謝る必要などない。それより、エステル嬢が無事で良かった」
おお、先程はいきなり意識を失ってしまったからよく顔を見ていなかったけど、ゲーム越しで見た時よりも綺麗な顔立ちをしているのね。
それに、カラコンじゃない紫の瞳を生で見るのは初めてだわ。
眼帯をしているから片目しか見れないけど、宝石みたいにキラキラしていて綺麗。
「綺麗な紫色……宝石みたい」
あ、しまった! 思わず思った事が出てしまった。
私の呟きを聞いてしまった様で、クロード様はその場でピシッと固まってしまった。
男性に綺麗なんて言ったら失礼よね。ああ、どうしよう!
「た、大変失礼致しました!」
うう、いきなり失言をするなんて、私のバカバカ!
そんな事を思っていると、クロード様はグイッと私の顎を持ち上げた。
きゃーーっ!! いきなり顎クイですか!?
ウン十年と恋愛事とは疎遠な生活を送ってきて、さらにイケメンと全く接点がなかった私には刺激が強過ぎる!
「貴女は、この瞳が怖くないのか?」
「へ!?」
怖い? 一体何の事!?
よく分からないけど黙っていたら失礼だわ、何か返事をしないと!
「こ、怖くないですわ」
「……そうか」
クロード様はスッと私から手を外すとフイッと背を向けた。
はぁ、いきなり美丈夫に顎クイされるなんて流石は乙女ゲームの世界ね、メチャクチャ恥ずかしかったわ。
クロード様が見ていない事をいいことに両手で熱くなった頬を覆っていると「念のために医者を呼んで来る」とクロード様は出て行った。
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