「第九話」狩人の目
テントの中に足を踏み入れると、妙な不快感を覚える。まるで自分よりも大きな動物の口の中に自ら入っていくような、そんな危機感を匂わせる。
それを裏付けるかのように、テントの中を流れる魔力の流れは乱れていた。穏やかでも乱れてもいない、だが……私はこの目眩がするような魔力の流れを、痛いほど知っていた。
「……」
「……」
互いに無言のままテントを進む。警戒は最大限に、全方位の魔力の流れを読み続ける……こんな場から得られる情報などたかが知れているだろうが、何もしないよりはマシだと思った。
それにしても、そんなに大きくないはずなのにずいぶん歩くなぁ。──私がそんな事を思ったとほぼ同時に、男が立ち止まる。
私は思わず身構えたが、すぐにただその場に立っているだけだということを理解する。おそるおそる、しかし油断も隙も見せないように尋ねる。
「……着いたの?」
「ああ、着いた」
その瞬間、溢れ出る光に視界が奪われる。
(目眩まし……!)
大勢を立て直そうとしてももう遅い。どこからともなく飛んできた縄が足に絡み、私は勢いよく宙を舞う……そして逆さまぶら下げられた私は、テントの全貌を見た。
積み上げられ、並べられた檻。その中に閉じ込められた魔物、動物……果てには、同じ人間に含まれる種族。どれもこれも鎖に繋がれており、その自由が奪われていた。
「ひどい……!」
バンの言葉が、私の頭をよぎる。魔物ならまだしも、同じ人間をあんな檻の中に閉じ込めるだなんて……絶対に許せない。怒りに身を任せ、私は魔力を込めた。
──響く。
足音。それが鳴り響く度に、周囲の魔力が揺らぎ……そして、ねじれる。
(強い)
瞬時に、そう思った。
その風貌、立ちふるまい……それはまるで暴力を体現したような存在ではあったものの、ここまで突き詰めてしまえばある意味の美しさを感じた。──弱肉強食。弱い存在を引き裂き喰らった事により研ぎ澄まされた、狩人の目であった。
「こんにちは、ゼファーの置き土産」
しなやかに整った身体の女性。白く長い髪に、白いローブ、美しい装飾の施された白い杖。
真っ白なその容姿とは裏腹に、ぶら下がる私を恐ろしい眼力で睨みつけていた。──それはまるで、獲物を逃すまいとする猛獣のように。
「私はマーリン。かつて君の師匠に殺された、世界を救う『はずだった』魔法使いだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます