第27話 お守り
***
「花、これなんかどうだ?」
「いいかも!!」
街をぶらぶらとしながら、白樹が提案してくれたのは羽織紐だ。羽織の前部分を止めるための実用的な面もありつつ、おしゃれにもなる優れものである。
「これなら、手芸屋さんで買ったガラスビーズも使えそうだね」
組紐を編むよりも大量生産しやすそうなのもいいし、組紐と組み合わせるのもありだよなぁ。女の人には飾り結びをするのも可愛いよね。
効果は検証しないとだけどさ。
「気になってたんだけど、たすきをしてる人っていないんだね。人前では使わないの?」
たすきなら縫うのに真っ直ぐだから、簡単だと思う。だけど、街中では見ないのだ。
ということは、たすきを使うのはあくまでも家で家事をするなど、誰にも会わない時限定なのかもしれない。
「そうだな。人前では、ほとんどいない。だが、作業時には使う。例えば、食事処で調理をする者がそうだ。袖が邪魔になる時にはたすきを掛ける」
「そっかぁ。討伐の時は使う?」
「人によるな。俺は使わないが、善と悪は使っている。少ないが洋装の者もいるから、使用者は半分弱といったところか……」
半分弱なら、作る価値がありそう。問題は洋装の人かな。羽織紐もたすきも和装の人向けだ。
そうなると、やっぱりお守りがいいかな。
「お守りを作るのはどう思う?」
「……効果ありそうだな。妬けるけど」
「妬けるの?」
「お守りは妻や恋人が愛する者へと贈ることが多い。それを真理花が俺以外の男に作ると思うとな」
「え? あー、うん。そうだよね……。それだとお守りはまずいよね」
ひぁぁぁあ!! 嫉妬されてしまった。どうして、こんなにも心臓が跳ね回るんだろう。
お、落ち着いて。深呼吸だ。今は真剣な話をしているんだから、いちいちドキドキしていたら話が進まない。仕事モードにしないと。これは、仕事。仕事だ。大事なお仕事なんだ……。
よし! 仕事だと思ったら、落ち着いてきた。
えっと……。お守りをなしにすると、洋装の人は組紐だけになっちゃうんだよね。他に何か考えないと──。
「俺の気持ちだけを言えば、花に俺以外の男にお守りを渡して欲しくない。だが、効果は高そうだとも思う。やってみる価値は十分じゃないか?」
「そう……だね……」
だーかーらー!! ときめかないのっっ!! 心臓がギュッとなるけど、そこはサッと流さないと。
白樹は口下手だと思っていたけど、実は違かったんだよね。特定の人としか話さないから言葉が不足していただけっぽい。
甘い言葉をさらっと言えちゃう人なんだから。その度に動揺してちゃ、だめなんだよ。
私ばかりがドキドキして
先程までとは違う動悸で、私は胸を押さえた。
今、通り過ぎたのは何?
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。気のせいであって欲しい。そう願って、振り返る。けれど、そこにいたのは──。
「何あれ……」
普段はそこら辺を浮遊しているだけなのに、集まっていく。どこからともなく、彼女目掛けて飛んでくる。
淡い紫の着物を着た、とても儚げな女性。誰も彼女の異変に気が付いていない。つまりそれは──。
「花っ!!??」
白樹の慌てた声が聞こえたけれど、今はそれどころではない。あの女の人のところに行かないと。
走り出した足を止めるつもりはないものの、人が多い街中では、なかなか前に進めない。
「どうした!?」
白樹に追い付かれ、腕をとられる。その間にも彼女との距離は広がっていく。
「あの女の人のところに行かないと!!」
「どの人だ?」
「薄紫の着物を着た、髪を一つに束ねている──」
「分かった。行くぞ」
「へ? ひぁぁぁぁあ!!!!」
真っ昼間の街中だというのに、白樹は当たり前のように私を抱き抱えて走り出す。そのスピードは早く、どんどん景色が流れていく。
だが、抱えられたことで進行方向とは逆を向いた私には、街行く人々が振り替えって私たちを見る姿がよく見えた。衝撃的な展開過ぎて叫んだこともまた、人々の目が向くのに一役買ったらしい。
「わた、私のことは置いてって! あとで追い付くから!!」
「駄目だ。花を一人にはできない」
どうにかして降ろしてもらおうと言葉を重ねようとした時、「追い付くぞ」と白樹が言った。
その言葉に振り向けば、身体中を黒いもので覆われた女性まであと少しというところだった。
地下で見た穢れとの違いは、穢れが意図を持って動いているように見えたのに対し、ただ集まっているように見えるということ。
「もう自分の足でも追い付けるから、降ろして」
「前に回り込むぞ」
私と白樹の言葉は同時だった。
そして、走っている人が急に止まれるわけもなく、抱えられたまま女性の前に運ばれ、降ろされた。
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