第59話:懐いた少女
【アイオ】や僕に関するデータを全て削除されても、セラフィは僕を選んだ。
駆けつけたジュリア博士もビックリで、一体どういう仕組みによるものかと困惑している。
フィリウス殿下のために作られた少女は、殿下を嫌っているわけではない。
でも、殿下が何度触れても名前を呼びかけても目覚めなかった彼女は、僕がたった一度名前を呼んで頭を撫でただけで目覚めた。
僕が彼女に選ばれる要素は、一体どこにあるんだろう?
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「セラフィ、ちょっと降ろすよ」
「いや! おいていかないで!」
脳の状態を調べる為にジュリアたちの研究室へ連れて行かれたセラフィは、診察用のベッドに寝かせようとすると、トオヤに抱きついて拒否し続ける。
「おいていかないから。隣にいるから大丈夫だよ」
「やだぁぁぁ!」
説得も効果なし。
まるで、母親の後追いをする幼児のようだ。
「じゃあ、抱っこしたままなら検査していい?」
「うん」
しょうがないのでトオヤが抱いたままベッドに座り、器具を取り付けて検査となった。
セラフィの記憶領域にあるデータは言語理解プログラムと学習プログラムのみで、トオヤに関するものは1つも無い。
「セラフィは、どうして僕と一緒にいたいの?」
「あったかくて気持ちいいから」
「フィリウス殿下は、そうじゃないの?」
「それは、だぁれ?」
「さっき庭園で会った男の人だよ」
セラフィは所有者になる筈だったフィリウスを知らない様子。
所有者登録データも調べてみると、空白になっていた。
「フィリウス殿下も、あったかいけど、あなたはもっと、あったかくて気持ちいいの」
「僕の名前は知ってる?」
「知らない」
「【トオヤ】だよ」
「トオヤ……私の、
セラフィの記憶領域にトオヤの名前は無い。
しかしトオヤが名乗った途端、セラフィの脳はそれを記憶し、所有者として認識した。
「どういう仕組みなのか、今後の研究の為に残して……」
「いや!」
ジュリアが言いかけた途端、セラフィが叫ぶ。
そんな感じで、トオヤと引き離される
脳は暴走の予兆の興奮状態になるが、トオヤがその言葉を打ち消すと落ち着いていった。
「おいていったりしないよ。一緒に行こう」
「うん。トオヤ大好き」
甘える時のセラフィの脳は、子供が親に甘える際の状態と同じになっている。
脳の状態は恋愛感情とは違うけれど、セラフィの身体は女性らしさが出た少女のものなので、恋人に甘えているようにも見えた。
「これはもう、連れて行ってもらうしかないわね」
ジュリアはセラフィの研究を諦めて溜息をついた。
アルビレオ出航直前。
停泊中の空港にはフィリウスと侍女たちが見送りに来ていた。
「これは全てセラフィのために用意した物だ。持っていってくれ」
フィリウスはトオヤに伝えて了承を得た後、侍女たちに命じてセラフィ用の衣装や装飾品などを全てアルビレオに積み込ませた。
「私たちはセラフィ様の世話係として作られたアンドロイドです。同行をお許しください」
荷物の積み込みを終えると、侍女たちのうち2人がセラフィに同行する事を願い出る。
まるで人間の忠臣のようだが、それは人格形成プログラムによるもので、セラフィのような自我によるものではなかった。
「トオヤ、彼女たちも一緒に頼む」
「分った。受け入れよう」
フィリウスからも頼まれ、トオヤは2人の侍女たちも移民団に加えた。
セラフィはトオヤから離れたら置いていかれるとでも思っているのか、アルビレオ号の艦内に入るまでしがみついて離れない。
やむなく、白いドレス姿のセラフィをお姫様抱っこしたまま艦長挨拶をしたトオヤは、それを見た人々から「アルビレオの艦長が美しい令嬢を娶っていった」などと思われていた。
アルビレオ艦内。
セラフィの部屋も他の子供たちと同じくプレイルーム付近に増築され、内装や設備は侍女たちのリクエストによって作られた。
「ここがセラフィたちの部屋、君が暮らす場所。ちゃんと連れて来たからもう大丈夫かな?」
「うん」
真新しい部屋のソファに座らせると、セラフィは大人しく従った。
もう置き去りにされる心配は無くなったからか、トオヤが抱いていなくてもセラフィは落ち着いている。
「セラフィ、一緒に遊ぼうよ」
「カードゲーム、教えてあげる」
早速遊びに誘うカールとチアルムに連れられて、セラフィは他の子供たちがいるプレイルームに歩いていった。
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