第40話:研究所襲撃
子供たちが帰還した報告が送られてきた時、僕はアニムスに完全支配コネクタを打ち込んだ研究所に潜入していた。
惑星ミカルドにある研究施設の中でも、特にサイキックの軍事利用に長けた研究所。
しかしその技術はミカルド星のサイキックに関するものだけで、僕やアイオが持つアエテルヌムのサイキックに対しては、全く役に立たないようだ。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「管理コンピューター、何をしている!」
「何故セキュリティが反応しない?!」
研究所のスタッフと警備兵が騒然とする。
惑星アーラでの翼人救出時と同じ事が、この研究所でも起きていた。
「対サイキック防壁が効かない?!」
研究所を覆う
銃を撃っても全て発砲した本人に返され、地面に兵士たちが次々に転がった。
「無駄だ。お前たちに僕は止められない」
サイキック兵士たちの攻撃さえも、放った本人に返される。
倒れた彼等の頭部に取り付けられた思考調整リングはその場で粉々になり、脳内に埋め込まれた完全支配コネクタは
トオヤが警備兵を引き付けている間に、アイオは研究所に収容されているサイキック能力者たちの救出に向かっていた。
管理コンピューターを掌握した時点で、アニムスがここにいない事は知っている。
アイオは、アニムスのように無理やり連れて来られた人々を救助していた。
「助けに来ました。行きたい場所をイメージしてくれたら転送します」
「ありがとう! あなたも捕まらないように気を付けて」
アイオがサイキック能力者と分った時点で、捕まっていた人々は仲間意識を持ったようだった。
研究所の奥へ進むと、脳を摘出されて円筒形の水槽に保管されている者が複数いる。
彼等はサイキックエネルギーを吸い取る為だけに脳を生かされている、もはや人ではなくなった存在だった。
『……苦しい……楽にしてくれ……』
アイオが近付くと、微かな【声】が流れてくる。
五感はもはや失われた存在だが、
『楽になる方法は2つあります。生命維持装置を停止させて死を迎えるか、アエテルヌムのクローン技術で肉体を再生させて生きるか。どちらを選びますか?』
穏やかに問いかけるアイオに、ある者は死を選び、ある者は再生を選び、それぞれ望みを叶えてもらって水槽から解放された。
『こちら終わりました。帰還します』
『OK』
アイオからの連絡を受けて、トオヤは研究所の管理コンピューターと設備の全てを破壊し、支配から解放されたサイキック能力者たちをそれぞれの故郷へ転送した。
研究所から離れたトオヤとアイオがアルビレオ号へ戻ると、救出されたアニムスが医療ポッドに入れられ、治療を受けているところだった。
「おかえりなさい」
「アニムス迎えに行ってきたよ」
少年たちは隠しも悪びれもせず言う。
全く後悔していない様子に、トオヤは無茶を叱る気にはなれなかった。
脳内に埋め込まれた金属部品を無理やり引き抜いて排出したアニムスの傷は、脳や頭蓋骨や太い血管を損傷する重傷だった。
カールとチアルムがすぐ医療ポッドに入らせたので、アニムスは一命を取り留めている。
「医療ポッドの使い方、習っておいて良かった」
「早く治るように、僕が歌ってあげる」
少年たちは優しく微笑み、医療ポッドをそっと撫でた。
「じゃあ、僕もアニムスが早く治るように力を貸そう」
トオヤはそう言うと、医療ポッドに手をかざす。
彼が持つ
頭部の損傷が全て急速に治癒して、アニムスがぼんやりと意識を取り戻す。
「アニムス、お願い、僕たちの傍にいて」
「僕たち、君が大好きなんだよ」
完治した少年を医療ポッドから抱き起こすカールと、その頬を撫でるチアルムが懇願した。
アニムスは困惑したように2人の顔を交互に見た後、その後ろにいたトオヤに目を向ける。
「アニムス、君がどんな過去を抱えていても、僕たちは受け入れられる。だから一緒に旅をしないか?」
トオヤはそう言うと、いつも抱き上げる時のように少年に両手を差し伸べる。
その手が触れた瞬間、アニムスに流れ込んでくるトオヤの想い。
全て知った上で、彼は手を差し伸べてくれている。
アニムスは言葉の代わりに、微笑みを浮かべながら抱きつく事で答えた。
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