5 ガール・ミーツ・ガール
折笠さんは姫川さんとの出会いを語った。
【折笠詩乃 視点】
わたしとヒメの馴れ初めはコトジョの入学式。
わたしは入学テストで学年一位を狙っていた。
それをいともたやすく覆し、入学生代表の挨拶をしたのがヒメだった。
当時のわたしはプライドの塊。成績へのこだわりは強かった。
プライドが高い分、劣等感も強かったわ。
「あんた、入学テストで一位だったんだって? やるじゃない」
わたしは偶然にも同じクラスだったヒメを睨んだ。
ヒメは飄々と流し目をわたしに送った。
「昔取ったキヌヅカだよ」
「それをいうなら
「どこだっていいじゃない。いまこの瞬間を生きているあたしにとって過去は存在しない。大切なのはいまとこれからさ」
わたしのヒメへの第一印象は最悪だった。なめた態度しやがって。いつかへこませる。
「名前教えてよ。あたしは姫川。姫川天音。人はあたしのことを自由を愛する
「本当に? 本当にそう呼んでいいの?」
「うそぴょん」
ヒメは両手でウサギの耳をつくって頭にのせる。からっぽな頭に。
本当にこんなやつが成績一位?
こんなやつにわたしは負けたのか。
わたしは青筋を浮かべて舌打ちをかみ殺した。
「わたしは折笠
最低限の礼儀として挨拶はしてやった。
すると、ヒメはまっすぐにわたしを直視した。窓からの春光が彼女の
それまでのおちゃらけた態度から想像もつかない真剣な眼差しと
「あたしは運が良い。あなたに逢えたから」
そういって握手の手を差し伸べてきた。意味不明だった。
だが、わたしは彼女の手を
姫川天音。ヘンなやつ。あほだけど会話してやってもいいか。
それがヒメへの評価だった。
「姫川。中間テストはあんたに負けないからね」
それからわたしはヒメを追い抜くことを目標にがり勉した。
ところが中間テストの結果はあっさりヒメを追い抜いてしまった。
わたしは学年一位。ヒメは八二位。
拍子抜けだった。
わたしは怒りすら覚えた。
結果を知ったわたしはヒメに詰め寄った。
「あんた、中間テスト本気ださなかったでしょう? ふざけるな!」
ヒメは回答する代わりに背伸びした。
「てめー!」
放課後の誰もいない教室でわたしはヒメの胸倉を掴んだ。
ヒメはそのままの姿勢で天井を見ながらしゃべった。
「ごめんね。あんたそんなこと言ってたもんね。でもあたし、見つけちゃったんだ。勉強より大切なこと」
「なんだよ」
わたしはヒメを解放した。自分自身の暴力的な行動にわたし自身が衝撃を受けていた。
わたしは自分のことをクールだと自負していたからだ。こいつといると調子が狂う。
「一度きりの青春をハッピーに過ごすこと」
彼女は真っ直ぐにわたしの瞳を見た。ヒメのアクアマリンを連想させる大粒の瞳のなかには星空のような輝きが映っていた。
「あ?」
信じられない回答だった。
「勉強すれば幸せになれる保証がどこにあんのさ」
「それは良い大学に行くことでしょ。大学を卒業するだけで時給が上がることもあるし、大卒が条件の仕事だって多いじゃない」
「あんた弁護士にでもなるつもり? それとも政治家?」
「違うけど」
わたしは言い淀んだ。有名大学へ行くことは目標だったが、卒業後の具体的なヴィジョンを持っていなかった。
「いまを楽しもうよ。あたしが教えてあげる。人生の楽しみ方を」
そういって微笑む彼女は蠱惑的。まるで
「姫川、あんた何者なのよ。じつは前世過労死したOLの人生二週目だったりしないだろうね」
「あたしはそんな退屈なアニメ見ないよ。今日の放課後一緒に遊ぼう。それからあたしのことは天音って呼んで」
「おまえなんてヒメで十分だ」
それからわたしたちの腐れ縁がはじまった。
正直、ヒメに出会うまでのわたしは頑なで視野が狭かったと思う。プライドデブのくそ女だった。
ヒメと付き合ってから人間的余裕が出たわたしはキャラ変化した。
言葉遣いも丁寧になって物腰も柔らかくなったわ。
ヒメに連れられてはじめてゲームセンターに行った。
ゲームは時間どろぼう。親に禁止されていたわたしにとって未知の体験。……楽しかった。最高に楽しかった。人生ではじめて心からの笑顔になった。
ヒメをわたしの両親に紹介したとき、意外にも親は歓迎したわ。ヒメと付き合うようになってからわたしがよく笑うようになったって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます