3 まじか⁉ プレゼントが歯間ブラシ⁉

「ハッピーバースデー!」

 みんないっせいに拍手した。


 ソファーの横には折笠さんのペット、ゴールデンレトリバーのランスロットとスコティッシュフォールドのアゼルがうずくまっている。


 わたしも体調が良くなっていた。

 折笠さんのお父さまは全国チェーンのファミリーレストラン『スターダスト』の代表取締役だそうで……要するにお金持ちである。


 折笠さんの誕生日を祝い、姫川さん企画のお泊まり会は滞りなく進行していた。


 参加者は折笠さん、姫川さん、村雨さん、そしてわたしこと鳴海千尋。


「みんなありがとう。折笠詩乃は一七歳になりました。皆様のご愛顧のおかげさまです」

 折笠さんは深々と頭を下げる。


「堅苦しい挨拶はいいよ。この前来たときにあったマリモとサボテンは?」姫川さんはくつろいでいる。


「マリモは永久に分解してサボテンは枯れたわ」折笠さんが平然と答える。


「マリモって死なないんじゃ……」わたしは目が点になった。マリモが分解してサボテンが枯れるって、折笠さんはどんな世話の焼き方をしたのだろうか。


「わたしが世話をした生き物ってダメになっちゃうのよね」


「この子たちは大丈夫でしょうか」村雨さんがアゼルを撫でる。


「アゼルとランスロットはパパがお世話しているから大丈夫。そういえば村雨さんイヌが苦手だって言ってたけど平気?」


「ランスロットは賢いので怖くありません」

「早くケーキ食べよう」


「ヒメ! わたしのケーキをまっさきに食べようとするな!」



 女子高生四人はホールケーキを瞬殺で食べ終わってしまった。

 この罪悪感……また太る。


「じゃあ、プレゼントね!」

 折笠さんがそわそわしているのを見て姫川さんが進行した。


 わたしのマグカップ。村雨さんの万年筆。喜んでもらえた。

 つぎは姫川さんの番である。


「はい、これ」

 彼女が差しだしたのは『歯間ブラシ』だった。


『⁉』

 場の空気が凍結した。


 えっ⁉ わたしは二度見してしまった。誕生日プレゼントが歯間ブラシ⁉


「この歯間ブラシを使うようになってから、歯のメンテナンスで歯科医に誉められるようになったの! あなたにも良いと思って!」


 折笠さんを恐る恐る見ると瞳孔が拡散している。

「へ、へぇ……ありがと」


 明らかに動揺している。そりゃそうだよ。誕生日に歯間ブラシを貰って喜ぶ人なんていない。だって、ロマンがないもの。


(きゅうう……)彼女の鼻が鳴った。造形美に溢れた瞳が涙の膜で覆われていく。


 折笠さんはソファーに顔をうずめて泣きだしてしまった。大号泣だった。


Этоエータ ложьローシ」(ロシア語でうそだよ)


 姫川さんは紙バッグから本当のプレゼントを取りだした。

 可愛いユニコーンのぬいぐるみだった。


「誕生日に歯間ブラシなんて、そんなわけないでしょ。驚かそうと思って」


 折笠さんは涙目でぬいぐるみを姫川さんからもぎ取ると冷たい目で一瞥した。


「おまえもう帰れよ」

「悪かったって! 一度下げてから上げるほうが嬉しいでしょ!」


「なにを下げる必要があったんだよ! 地面に叩きつけられたわ!」

 姫川さん、人が悪いなあ。


 そのとき部屋にノック音が響いた。

つづく

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