Cを知らない君の隣で
一畳まどか
プロローグ
目の前には、毎日見ている部屋の扉。つい一年前まで、ただの子供部屋のドアだったはずなのに、ある時を境に、越えられないほど高くて分厚い壁に変わってしまった。
天使の梯子のような一筋に輝く音色は、この冷たく静かな家には似合わないような気がするけど、儚さも混じっているようで掴みどころがない。そんな風に感じるのはきっと
侑、相変わらず今日もこの世界には矛盾が溢れていたよ。
算数の授業では、解き方なんて何通りあってもいいはずなのに、一つの公式で解くのがさも当たり前のように教わったり、小学生でも習う道徳を、教えている大人たちの方が知らないみたいだし。
そんな薄暗い世界で切ないくらい真っ白に生きる侑は、隣の希望だった。こんなことを言ったら、おそらく侑は「よく分からないけど、隣は賢いね」と、頭をぐしゃぐしゃに撫でてくるのだろう……。
◇ ◇ ◇
「りーんー」
目を覚ますと、そこには侑の顔があった。いつの間にか廊下で眠ってしまったようだ。
「お兄ちゃん、髪長い」
侑だけど、侑じゃない。侑の身体に知らない誰かの魂が入っているような……。そうか、これは夢なんだ。
「待たせてごめん」
本当だよ。そして、侑の顔をして僕に話しかけてくるこの少年は一体誰なんだ?
「怖い顔してーまったく。あのさ、隣……」
とっさに侑の髪を鷲掴むと、くぐもったうめき声が響く。あ、これ現実だ。そんな隣の心境を知る由もなく、侑は言葉を続けた。
「ベースを弾いて欲しいんだ。俺と一緒にバンドをやろう」
久しぶりに再会した兄が、突然変なことを言い出した。
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