宝さがしゲーム 1

 そのまま路地裏で酔い覚ましをして、四時を回ったころ、サーラはウォレスと大通りに戻った。

 蒸留酒をがぶ飲みした割にはウォレスは元気である。

 多少は酔っぱらっているようだが、気分が高揚している程度のようだ。

 すっかり機嫌を直したウォレスはサーラとつないだ手を少しばかり揺らしながら、軽い足取りで歩いていた。

 大通りはさっきよりも人が多かった。

 夕方から夜にかけて人が増えるので、まだまだ人が多くなると思われる。


「サーラ?」


 ウォレスと歩いていると、背後から知った声が聞こえてきた。

 振り返ると、市民警察の制服に身を包んだシャルがいた。同僚と見回りをしているようだ。


「お兄ちゃん」


 シャルはちらりとウォレスに視線を向け、そしてサーラとつながれている手を見、一瞬何か言いたそうな顔をしてから軽く首を横に振る。


「……妹がお世話になっています。ええっと、ウォレス様」


 ウォレスが第二王子オクタヴィアンだと知っているシャルはちょっと居心地が悪そうに見える。

 同僚に肘でつつかれて、シャルは「妹と、うちの店のお得意様だ」と短く説明を入れた。


「兄がいつもお世話になっています」


 兄と一緒にいたのはサーラがまだ会ったことのない男だったので、ぺこりと頭を下げておく。

 兄がこれからも気持ちよく仕事をするためには心証をよくしておいた方がいい。失礼な妹がいるなどと妙な噂を立てられたら、シャルが仕事をしにくくなるだろう。

 シャルの同僚は「いやいや」と照れたように笑って頭をかいた。彼の名前はポールというそうだ。頭の中のメモに残しておく。


「どこに行くんだ?」

「イベント会場よ。五時から宝さがしゲームがあるって言うから」

「ああ、あれか……」


 何故か、シャルが疲労の混じったため息を吐いた。


「どうかしたの?」

「どうもなにも、父さんが参加するってさっき息巻いて向かったんだ。今年の特等はかなり上等な酒が出るらしくて、やる気になっている」

「特等って?」

「最初に宝を見つけて戻って来た人に渡される一番いい商品だよ。一番以外は、みんな同じ酒が配られるんだが、一番だけは別商品なんだ」

「へえ、そうなんだ」


 いいお酒がもらえるとあれば、アドルフが張り切るのは無理もないが、大丈夫だろうか。おそらく朝から相当飲んでいるはずだ。


「一番か……」


 ぼそりとつぶやきが聞こえたので隣を見ると、ウォレスが何やら考え込んでいる。


(……一番を狙う気でいるのかしら?)


 ウォレスは変なことに興味を持つことがあるので、この様子だと、本気で宝さがしゲームに取り組むつもりかもしれない。


「じゃあ、サーラ。俺たちは見回りがあるから行くが、遅くなる前に帰れよ」


 シャルがぽんとサーラの頭に手を置いて、ウォレスに会釈するとポールとともに歩いて行った。

 ウォレスがうきうきした足取りで歩き出す。


「……一番を狙うんですか?」

「当たり前だ」

(やっぱりね……)


 酔っ払い王子様は、お遊びに全力投球するつもりである。

 だがまあ、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。


 イベント会場につくと、宝さがしゲームの前に上演されている劇がちょうどクライマックスを迎えるところだった。

 最初から見ていないのでストーリーはよくわからなかったが、恋愛ものの劇のようだ。

 最後に男女が熱く抱きしめあい、物語が終わる。

 宝さがしゲームがはじまるのは五時からだが、どうやらそれまでに参加料金を徴収するらしい。

 酒を商品に出すので、ただとはいかないようだ。

 一組につき、参加料は銅貨十枚。だが、終了時刻までに宝を探して戻ればちょっといい酒がもらえることを考えると安い方なのだろう。


 参加受付がはじまると、わっと人が群がった。

 サーラもウォレスとともに、受付の列に並ぶ。

 ウォレスが銅貨十枚を支払い、代わりにカードを受け取った。

 このカードを持って宝がある場所に向かうと、カードと交換で「宝」がもらえる仕組みらしい。

 そして持ち帰った「宝」と商品のお酒が交換になるのだという。


 全員の受付が終わると、木を組んで作られた壇上に、大きな紙を持った男が上がる。


「宝さがしゲームにご参加の皆様、お待たせいたしました!」


 男が声を張り上げた。


「これから、宝を隠した場所をお伝えいたします。なお、お題の書かれた紙は宝さがしゲーム終了時刻までここに張り出しておきますのでご安心ください。それでは、発表します!」


 男は、壇上で手に持っていた紙を掲げた。


「宝のありかはこちらです! 『夜も日が沈まない城に住む宮廷夫人のもとに宝はある』! それでは、宝さがしゲーム、開始します‼」


 わっと湧く歓声を聞きながら、サーラはつい、笑ってしまった。





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