サーラの過去 1

「最初に教えてください。ウォレス様は、第一王子セザール殿下ですか? 第二王子オクタヴィアン殿下ですか?」

「君が、君の秘密を話すと約束するのなら」

「……約束、します」


 どのみち、これほどの大物相手に、秘密を秘密のままでおくことはできまい。隠そうとしても暴かれる。


「わかった」


 ウォレスはサーラの手から懐中時計を取り返して、ポケットに納めた。

「私は、第二王子だ」

「そう、ですか……」

「今、少し安堵したな」

「そうかも、しれませんね」


 セザールでなければいいと思っていたのは事実だ。

 サーラは一つ、息を吐く。


「王子殿下が……」

「ウォレスでいい」

「……ウォレス様が、下町をうろうろしていたのはどうしてですか?」

「兄と私で、王位継承を争っていることは知っているか?」

「ええ、まあ」

「父は、より君主として優れている方を王に据えると言った。後は察してくれ」

(つまり、王になるための実績を積んでいるってところかしら?)


 不正を見つけて、暴く。もちろんそれ以外にもあるだろう。

 例えばセザールの方を押している貴族を追い落とすための材料集めと言うのもありそうだ。

 王位争いと言うのは、ある意味陣地取りに似ている。より多くの味方を集め、国の、できるだけ多くを掌握した方が勝ちだ。そのためには相手の陣地を奪い取ることも考えなくてはならない。


(妙なことに首を突っ込みたがると思ったら、そういうことだったのね)


 貴族街だけでなく下町にも目を向けたのは、悪くない選択だと思う。

 上位貴族になればなるほど、下町には足を踏み入れないだろう。

 けれどもそこに、貴族が関与している裏取引がないとは言い切れない。

 民衆から生まれた暴徒が反乱を起こして、結果新しい王が立ったという例もある。

 何も国は、貴族街だけで成り立っているわけではない。


(……そういうことなら、わたしの存在は気になって仕方がないでしょうね)


 ウォレスと関わったのは間違いだった。

 けれども、一度、怪しいと思われてしまったサーラは、彼から逃げることはできない。


「私の秘密は話した。今度は君の番だ」


 掴まれている手首が、熱い。

 サーラは大きく息を吸って、そして吐き出した。

 ドクドクと鼓動が早鐘を打つように早くなっている。

 秘密を教えた後、サーラはどうなるだろう。


「……一つ、約束してください」

「なんだ?」

「秘密にしていることを教えても、わたしの家族……アドルフやグレース、シャルには絶対に手出ししないと、誓ってください」

「それは、聞いてみないことには判断できない。彼らが何らかの罪を犯しているのなら――」

「犯していません。それは誓って言えます」

「……わかった」


 いいだろう、とウォレスの了承の言葉を聞いて、サーラはちょっとだけ安心した。

 これで、もうこれ以上あの親子に迷惑をかけずにすむ。

 サーラは一度目を伏せて、それからまっすぐにウォレスを見つめた。


「わたしの本当の名は、サラフィーネ・プランタット。ディエリア国の、およそ八年前に取りつぶしになったプランタット公爵家の一人娘です」







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