第6話 農民の訴え
「税が重いと?」
「もうわしら、国に麦を納めるばかりで自分らが食う分は、ほぼ残らんのです。餓え死ぬか先ほどのように殺されるか。今これが最後の希望。失礼を承知で直訴に向こうたまでです。この無礼者の老いぼれをどうぞ討ち首に。」
「じっちゃんを殺さないで!!」
赤い髪の少女が目に涙を浮かべながら、鋭い眼差しで俺に訴えかけた
「サロシー!!黙っとかんかい!」
「君の名前は?」
「あたしはサロシー・ケイル、あなたが蹴とばしたじっちゃんの孫よ!!」
長老は孫の言動に思わず、自らの孫の頭を引っぱたいた。赤い髪が頬を打つ音より少し遅れて揺れ動く。
「なんてことをいうんじゃ!サロシー!!」
「だってじっちゃんが」
「このお方は――」
俺はこの長老が見た目にそぐわない勢いのある頬の叩き方に思わず笑ってしまった。
「いいんですよ、蹴ったのが自分なのは変わりないですから。それで、村の名前を聞かせてもらっても?」
「ケイル村といいます。隣におる娘、サロシーの一族が代々率いている村じゃ。わしはもう、一線を退いて今はこいつが村長をやっておる」
赤く長い髪を大きく揺らしながら立ち上がったサロシーは、カエザルに立ち向かうように強い口調で質問を投げかけた。
「村の名前なんか聞いて、村を焼くつもりですか?」
「大丈夫、そんなに睨まないで。村も焼かないし誰も傷つけない。約束する」
「本当ですか?」
「ええ、近いうちに村の様子を見に行くから、それまでは小麦を納めなくていい。だから元気な姿で出迎えてほしい」
「は……はい!!」
俺はサロシーと約束をすると、兵と一緒に城門の中へ戻り、大きな門がゆっくりと閉まり始めた。周りの兵士は整列して俺に向かって敬礼をし始めた。俺は兵士の敬意と疑問の目を背後に感じながら宮殿の中へと歩く。
歩くたびに鎧を身に着けた宮殿内を見回る兵士からは敬礼され、歩くたびにエプロンを身に着けたメイドからは頭を下げられ、歩くたびに同じところをグルグルと回っているようだった。
慣れない身体で長時間歩きっぱなしというのは、さすがに疲れがたまってくる。俺は、服のような荷物を持って歩いているメイドに声をかけた。
「ごめん、ちょっと聞きたいんだけど?」
「ザ……カエザル様……。なっなっなっ何のご用でしょうか」
――そんなに怖がらないでも。
「あーちょっと王女のとこまでついてきてくれない?」
「わっ私がですか?」
「君以外に他にいないでしょ?」
「たっ大変申し訳ございません」
メイドは俺に頭を下げるが、なぜかメイドは頭を下げた状態のまま一分が経ってしまった。
このメイドは何も動かないのか?俺が動かないと動かないのか?二人きりの廊下で気まずい空気が流れる。
俺は試しに一歩動いてみた。
すると、メイドも俺と同じ距離だけ同じ方向へ歩きだす。
これじゃ一歩進んでも一歩戻る状態。永遠に王女の部屋にたどり着けないと思った俺は、一か八かメイドに声をかけてみた。
「先に行ってくれないかな?」
「カエザル様の前を行くことなんてできません」
少し考えてみればわかることだ。メイドはカエザルのような王女補佐官という偉い人の身の回りの世話をする仕事だ。立場上メイドが俺の前を歩くことは失礼にあたるのだと。とはいえ、王女の部屋を教えてくれと聞いてしまうのは、怪しすぎてしまう。
「じゃあ、この指輪を王女の元へ届けてくれないか?」
「それなら」
俺は探偵ごっこをするように、メイドの後ろをこっそりと尾行する。見覚えのある王女の扉が見え始めたのを見計らって、俺はメイドに声をかけた。#5
「ありがとう、やっぱこの指輪は俺が王女に渡しておく」
「そっそれでは、私は失礼します」
自分の指輪を回収し指にはめ、無事に元いた王女の部屋の前にたどり着くことができた。大きなイベントを終えて安堵するとともに、王女の前でカエザルを演じきれるか不安になりながらも、扉に手をかけた。
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