第2話 ぐ~たら王女

 が、何もかもが理解できない。ここは日本?いや、目の前にいる少女は明らかに、ドラマやアニメで見るような中世ヨーロッパのような身なりをしているし、食器、部屋の装飾、インテリア、何もかも自分がいた日本文化とかけ離れすぎている。


 一番理解できず現実離れしていたのは、姿鏡に映る自分の姿だ。


 目を覚ました直後から、自分の視点がすごく高くなっていることに違和感を覚えていた。疲れで寝ぼけているのかな?くらいにしか思ってなかった。まさか自分の容姿がまるっきり変わっているとは思いもしない。


 姿鏡に映る自分の顔は、性格の悪そうなイケメン。本当にイケメン。この顔があれば高校時代はモテモテだったろうし、背も高いからモデルとか芸能人にでもなれるのではないかと思うレベル。


 これは、何かの民族衣装か?いや、どちらかと言えばスーツに近い。目の前にいる金髪で青い目の少女はドレスだし、海外ではドレスなんかは舞踏会とかの正装。つまりこの服装が正装なのか?

 てか今の俺。背も高いしイケメンだけど、この目つきからして絶対性格悪いし、俗にいう悪役だろ。


 自分の容姿を鑑賞しながら、あれこれ感想を述べていると、部屋の大きな扉が勢いよく開いた。

 扉が開く大きな音ともに、鎧を身に着け剣を携えている兵士が声を上げた。


「リーディア王女!!至急お伝えしたいことが!!」

「は~~。我にか~?」

「はっ!!宮殿の門の前に農民が集結し、リーディア王女に助けを求め声を上げ、今にも門番の兵士に詰め寄りそうです!」

「我は今、目の前の菓子に忙しいからの~~。これは我の仕事ではないぞ~~」

「ですが農民が…」

「我が行くのか~~?そなたのちっぽけな命と~?引き換えとならば行かないことはないがな~~」

「いや…そ、それは……」

「まぁ~そもそも、これは我の仕事ではないぞ~?なぁレルス?よろしくな~ぁ」

「では、カエザル王女補佐官。ご指示を」


 二人の視線が自分に向いているのがいたほど分かる。なにかアクションを起こさないと、中身が”俺”であることがバレてしまう。


 俺は一瞬自分の世界に入り込み思考を巡らした。


 兵士はソファーでぐ~たらしている金髪の少女ことを”リーディア王女”と言っていたから王女で間違いないだろう。

 王女は俺のことを”レルス”と言っていて、兵士も俺のことを”カエザル王女補佐官”と言っていた。

 つまり、俺の苗字はカエザルで、名前はレルス。そして王女補佐官。つまり――

 王女補佐官のレルス・カエザル。


 笑わせるな。大事な言葉が抜けている。こんな見た目じゃ


 悪役王女補佐官のレルス・カエザルだろ!!


 俺は、息を切らす兵士と、ぐ~たらしている王女の視線に挟まれたまま、目の前の状況にどう対応をすればいいのか分からなかった。行動を起こすにしても情報がなさすぎる。


 とりあえず、姿鏡で見たレルス・カエザルの悪役雰囲気だけを頼りに、彼を演じることにした。


「じゃあ、とりあえず農民のところまで案内して」


 俺は正解だと思った返事をしたつもりだったが、兵士と王女の二人は目をキョトンとさせてびっくりしていた。

 ――あれ?もしかしてレルス・カエザルってこんな喋り方じゃない?もっと悪役っぽい話し方?そもそも喋らないキャラ?


 いまさら言ってしまったことはしょうがないことだが、自分が発した返事に自問自答しながら、兵士に案内されるがままついていく。


 どれだけ歩いても見えるのは外の景色と石造りの城壁、廊下に等間隔に置いてある絵画と立派な花ばかりで、一向に日の当たる外に出られる気配がない。建物の造りはもう映画やドキュメンタリーで見る王女が住まうお城、宮殿そのものだ。

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