第44話 後日談

 アカデミーの二年目が始まる。三王子たちは新しい年度の始まりに合わせてイグレシアスに戻ってきて、それぞれが土産と土産話を用意してくれていた。レジナルドは再びアナスタシア妃と共にイグレシアスに戻ってきていたが、アナスタシア妃はかなりインファンテ王に引き止められたらしい。インファンテ王も奥さんと息子がいなくて寂しかったのかな? それでもアナスタシア妃がこちらに戻ってきたと言うことは、余程こちらでの生活がお気に入りだったのだろう。大好きな息子のレジナルドと離れたくないのもあるんだろうけどね。


 でもお陰でアナスタシア妃とお父様、お母様の面会も叶った。お母様とアナスタ妃はだいぶタイプが違うんだけど、意外と気が合った様子。それも私がレジナルドと結婚する可能性が低いことが分かってるからかも知れないけれど。


 マシューとサイモンは相変わらず仲睦まじい雰囲気。国に帰るとマシューが以前よりも明るく活発になっていることに皆驚いていたとか。こっちでのびのび研究しているし、サイモンとの関係も私たちには隠す必要がなくなったからでしょうね。そう言えばフォーセットは収穫祭の時季だったかしら? 前の扉の中でもあのお祭りは楽しかった記憶があるから、来年辺り『友達として』招待してもらおうかしら。


 婚約が成立したユージーンとカーラは以前にも増して夫婦感が凄い。ユージーンの話では例のサーティス家のご令嬢は、第一王子であるユージーンの兄の婚約者リストから早々に削除されたらしい。そしてカーラがイグレシアスの王家の血を引いていると分かって、二人の婚約はトントン拍子で話が進んだんだとか。うーむ、こうなってくるとこの恋愛ゲームの主人公はカーラだったのでは? とさえ思えてくるわね。私、結構脇役じゃね?


 ラッシュブルックを離れたアマンダお姉様からは、無事に到着したこと、そして新しく仕事も見つけたことを記した手紙が来たらしい。仕事と言うのは他でもないイグレシアスの諜報部の任務だと思うけど、彼女なら巧く熟すことだろう。次に会えるのが楽しみだわ……あのイケメン諜報部員と結婚してたりして。


 シアーラは私の相談役になって、日々イーサクルの本に囲まれた生活をしている。彼女曰く、秘密の部屋にあった古文書類は本当に価値が高いものらしく、市場に出ればとんでもない値段になるだろうとのこと。値段以上に彼女の知識欲を満たしてくれているみたいだけど。シアーラとカーラとは何回かお茶していて、お母様が参加することも。まさかこんなメンツで和気あいあいとティータイムを楽しめるなんて思ってなかったし、マシューを加えても盛り上がりそうね。あ、私たちの中ではマシューは女性扱いなので。


 私はと言うと、相変わらずイーサラムの研究が忙しい。三倍速の赤いボードは壊れてしまったし危ないからダメと禁止されてしまったので、次なる乗り物を考案中。やっぱり次はバイク型かな? そして鉱石にイーサを込める量の最適化なども検討中よ。要は電池容量を増やして同じ大きさの鉱石でも持続時間を伸ばそうと言うわけ。現在秘密の部屋は、色々な鉱石のサンプルで溢れかえっていて、シアーラは呆れながらも色々と手伝ってくれている。


 明日から授業が始まるから、今日中に一度工房に行っておきたいわね。そう思ってゴソゴソと着替えて部屋を出ると、やっぱりレオがいた。


「お前、懲りないな」

「そんなこと言いながら着替えて待ってくれてるんだから、流石レオよね。さあ、工房に行くわよ!」

「へいへい」


 いつもの様に人に見つからない様に建物を出て通用門へ。そこの扉に手をかけてふと思う。最後の扉の中に入ったときは、後がない状態だったので緊張感も半端なかったわね。短い時間で必死で考えて王子全員をアカデミーに勧誘して……結果的には上手く事が運んだけれど、その前にエマとしては三回失敗してるからなあ。いや、ひょっとすると前の三枚の扉は、私がここで正しく判断を重ねられる様にあの案内人が用意した仮想空間の様なものだったのかも知れないわね。死に戻ってるとばかり思っていたけれど。


「どうした? 何か忘れ物か?」

「いいえ。ちょっとだけ考え事。行きましょうか」


 扉を開けばそこにはいつもの光景が広がっていて、難なく先に進むことができる。でも、これからのエマの……私の人生においては、また何枚もの扉を選択しなければならないこともあるかも知れないわ。そうなった時、私はまた正しい扉を選ぶことができるだろうか。ううん、そんなことは今悩んでも仕方ないか。最後の扉の奥で一先ずは成功したんだから、これからもきっとなんとかなるって。レオやカーラたちも傍にいてくれるなら、私は正しい扉を選び続けることができる……そんな気がする。


「頼りにしてるわよ、護衛の騎士様」

「何だよ、急に。俺だってお前を守りたいけれど、お前が予想外の動きをしたらそれもできないんだからな。頼むから王女らしくお淑やかにしてくれよ」

「はーい」


 レオのお説教は半分聞き流し、扉を開けて白の外へと駆け出した。

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