第33話 日本中の高校選手、即ち全国という名の大舞台――!

 晃一こういちが挿入したDVDが映し出す、その光景とは。

 果たして奈子なこから見れば、あまりにも信じられないものだった。


『さあ始まりました、今年から正式にスポーツとして発足した新進気鋭のスポーツ、高校総体(全国高等学校総合体育大会)に……いずれ加われればいいなと個人的には思っている、サッカーの……あっサッカー(袋詰めする方)のォ! 地区大会にて決勝に進出しました、恐るべきサッカー選手(袋詰めする方)の登場ですッ!!』


 観客が〝オーオー♪〟と歌う中、サッカー台の前に立つ選手、いやもはや勇士と呼んで過言でない者が、必殺を繰り出す――!



『ウオオオーッ!! この燃える闘魂を袋詰めに乗せて! 

 必殺――バーニング・シュートォォォ!!』


『おおーっと電光石火の両手が擦れあい、摩擦を生み、何とレジ袋が燃え上がったァァァ!!』



 そして、画面は即座に次へと移り変わり、更なる試合の佳境かきょうへと――!



『もはや我が拳、風を纏わん……真空の刃よ、全てを斬り裂けェェェイ!』


『何とッ! 中距離からの袋詰めかと思いきや……レジ袋が真っ二つに――ッ!?』



 アッ更に更に、次の試合へ移り変わり――!?



毘沙門天びしゃもんてんの加護ぞあれ! 我が槍、もはやレジ袋を制圧せり! タァーッ!』


『おおっと選手の槍が、槍がッ! 敵兵を屠るが如くレジ袋を突き上げた――ッ!? 選手の背後に、護法善神ごほうぜんじんの如きオーラが見えるようだァーッ!?』



 ソイヤッ、アッ更にソイヤッ、画面に映し出されるのは――!?



『フッ……これは敗者へと捧げる鎮魂歌レクイエム……せめて安らかに終われるよう、奏でて差し上げましょう……』


『何と……何と美しく繊細な調べでしょうか。試合開始するや、突然に奏でられたバイオリンが……会場中に感動の涙を呼んでおりますっ……!』



「……………………」


 最後の映像だけ長いのか、流れ続けるバイオリンの音色をBGMに――奈子が完全なる無表情で、晃一に問うのは。


「……まさか、まさかとは思いますけど……この人達もサッカー……袋詰めする選手の人達だから、戦えだとか、そんなことを言うんです?」


「? いや、違うぞ」


「えっ……あ、ち、違うんですか? なぁんだ……」


 ほっ、と一安心する奈子に――晃一は方向性を正すように告げる。



「今、何やら目立っていたのは――敗北した者達だ。だから、この人達とは戦わないし、もう二度と出てこないだろう」


「燃やしたり斬り裂いたりするからでしょうが! いやまあ納得ですけど、じゃあ見せたかったのって、その対戦相手の方だったんですか!?」


「そうだぞ」


「先に言え!!」



 そもそも映像も奇特な方々ばかり映していたので、対戦相手はチラッとしか映っておらず、注視ちゅうししたとしても顔も分からなかったのではないか。


 と、ツッコんでいた奈子が不意に、少しばかり気になったことを氷雨ひさめに尋ねる。


「あの、さっきの動画を見ていて、ふと気になったんですけど……氷雨さん、体の調子とか平気です? 何かこの前の大会で、吹雪みたいなの出したり、相手を凍り付かせたりしてましたけど……」


「あ、うん。正直あの時は死ぬほど怖かったけど……あの後、ちゃんと症状……もとい能力は治まったし……あれから練習してみたら、意外と使いこなせるようになってきたわ。見てて……えいっ、微風~」


「う、うわあぁ……す、涼しい~……もう理屈とか何とか置いといて、氷雨さんが大丈夫なら、それでいいか……こ、これから暑くなりそうですし、意外と便利かもですねぇ……」


「そ、そう? えへへ……涼みたくなったらいつでも言って、奈子の……親友のためなら、いくらでも使ってあげるわ!」


「わァ、ァ……感情の昂ぶりで、冷気が強くなったァ……あ、ありがとうございます……でも決して無理はせず、調子とか気をつけてくださいね……?」


「ありがとう奈子、でも絶好調よ! ……って、あっ、テレビに――」


「えっ? ……えっ、あっ、ちょっ――」


 動画は、どうやらまだ続いていたらしく――画面に映し出されたのは。




『――皆さんの応援のおかげで、優勝できましたっ♡

 ありがとうございます~~~っ―――――ぶいっ♡』


「――――――――――」




 両手のピースを真横に添えた、一等賞の笑顔―――


《サッカーの女王》、の、ドアップの笑顔だった―――!


 反面、テレビの前にいる奈子本人は、愕然としている……が、晃一は手に持ったリモコンを操作した。


「おお、良く撮れているな、うんうん……巻き戻して、もう一回、と」


『――皆さんの応援のおかげで、優勝できましたっ♡

 ありがとうございます~~~っ―――――ぶいっ♡』


「おいやめろ」


 ガシッ、と尊敬すべきコーチの肩を掴み、制止する教え子。

 だが晃一は安心させるように、フッ、と笑いかけながら言う。


「安心しろ、奈子……この様子は俺達や、あの大会を見た者だけでなく……サッカー界(袋詰めする方の)をチェックする関係者一同、多くの人間が知るコトになったはずだ。もしかすると今この瞬間も、キミを……《サッカーの女王》栄海奈子を、要注意選手としてチェックしているかもしれんぞ! 選手、冥利に尽きるな!」


「そこの心配が最大なんですよ!! そして更に心配をあおられましたよ今! 安心できないしイヤすぎる! 何で私は、あの時っ……しょ、賞金に……賞金に目が眩んだ、私の……私のばかぁーーーーーーっ!!」


「それにしても、本当に良く撮れているな……もう一回、ポチっとな」


『――皆さんの応援のおかげで、優勝できましたっ♡

 ありがとうございます~~~っ―――――ぶいっ♡』


「シバくぞ!!」


「奈子、かわいい~♡」


「氷雨さんの方がずっと可愛いですよ~!」


 晃一と氷雨の間に、越えられない壁のような対応の差がある気はするが、気のせいだろう、気のせいなんだ。


 だが、こうして奈子は――ある意味、退路を断たれたような形になってしまい。


「フッ、案ずるな奈子……キミの心配は、完全に理解しているとも。《サッカーの女王》とはいえプレイスタイルを研究される不安、たった一人で戦い抜けるかという孤独への不安、今後も続いていくサッカー選手(袋詰めする方)としての未来への不安……それらを感じているのだろう?」


「カスってすらいねぇんですよ」


「だがな、だからこそ――俺がいるのだ。奈子、キミは一人ではない――この俺がコーチとして、これからもコーチングし、サッカー選手(袋詰めする方)としてのキミを、更に進化させてみせるぞ――!」


「そもそも結局コーチング一回も受けてねぇんですよ」


 言葉遣いの乱れがちょっぴり心配になる奈子だが、晃一はニヤリと笑い、サングラスを外して――夕陽をバックに、言い放つ。



「そのために、この高校に、サッカー部(袋詰めする方)を作る――

 栄海奈子と霧崎氷雨を選手に、俺をコーチとして――!

 我々サッカー部(袋詰めする方)の伝説は、ここから始まるのだ――!」


「! アタシと奈子が、選手として……そして晃一を、いいえコーチをコーチとして……っ、アタシ、何だかっ……燃えてきたわ!! あっいえ《氷結女帝ブリザード・エンプレス》だから、冷えてきたわ!」


「冷えてきただとおかしくなりません!? ていうか私は納得してないし、認めてないんですけど!? うわーーー変なことになったうわーーーっ!」



 今、この瞬間、この高校に。

 サッカー部(袋詰めする方)が設立され。

《サッカーの女王》栄海奈子が叫んでいるのは


 ―――歓喜と、そして高揚の咆哮なのだ―――!


 間違いない。


「間違えてんですよ!!」


 えっ!!?


「ん!? 今、私は誰に言って……いや興奮しすぎてるせいかな、なんか変なツッコミしちゃった……」


「奈子、大丈夫? ちょっと冷やす?」


「あ、氷雨さん、お願いしていいですか? ……ぁ~、涼しい~……」


 ………ドキドキ………。


 ………………。


 じ、次回、最終回―――!

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