第175話障害のある恋の方が燃えるとか言うけどさ、平和に過ごすのが一番よ
日曜日。アカツキさんの目論見を知って一晩経った。別れ際に美作さんが、
次に会う時までには、乙成暁を亡き者にする策を考えておくように
との宿題を俺に残して去って行った。昨日も言ったが、俺は殺しまでは望んでいない。美作さんの暴走を止めつつ、アカツキさんが乙成をハイチへ連れて行ってしまわない様な策を考えねば……
「う〜〜〜〜〜〜〜ん」
ベッドの上に寝転びながら、何かいい策がないか考えていた。でも浮かぶのは乙成との今までの思い出ばかり。
乙成の笑った顔。
いつまでもとれない敬語で俺に話しかけてくる時の嬉しそうな表情。
俺が蟹麿の声をやると恥ずかしがりながらも満たされた様な顔をする所。
たまにオタクが出てきて、早口でまくし立てる様に話してくる時もあるけど、俺は全てにおいて、そんな乙成が好きだ。やっぱりハイチになんて行って欲しくない。
俺は自身のスマホを手に取った。画面のロックを解除して、通話ボタンをタップする。
かける相手はもちろん乙成だ。
数回のコール音だけが静まり返った俺の部屋に響く。出ない? まさかもうハイチに?! いや、そんなわけないか……でも、普段ならすぐに電話に出る筈の乙成が、今日に限って出ないなんて……頼む……! 出てくれ!
「はい」
「あっ、乙成? 俺だけど……」
「ふふっ、言わなくても分かりますよ? スマホに出てましたから」
一瞬、電話に出た瞬間の声が沈んでいる様に感じたが、すぐに普段の乙成に戻った。俺の勘違いだったのだろうか。
「珍しいですね? 前田さんが電話くれるなんて!」
「う……俺だってたまには電話するよ! それでなんだけどさ、乙成今何してる? もし時間があるなら……その、会いたいんだけど……」
そう、電話したのは何も声が聞きたかったからだけじゃない。今どうしても、会いたくなったからだ。
「……実は私も、前田さんに会いたいなって思ってた所なんです。今からそっちに行っても良いですか?」
「えっ! 大丈夫だけど、あれなら俺が行くよ?」
「大丈夫です! 丁度出先だったのでそのまま前田さんのお家に行きます! 待っててください!」
そう言って、電話を切った乙成。出先って言ってたな。それになんかやっぱり様子がおかしかった。もしかして、アカツキさんに会ったんじゃないだろうか?
「お邪魔します〜」
暫くして、乙成が到着した。外は暑かったのだろうか、額にうっすら汗が滲んでいる。俺は冷蔵庫からお茶を取り出すと、暑さで溶けかけている乙成に手渡した。
「それで? 何があったんだよ?」
「それはこっちのセリフですよ! 前田さんから電話してきたのに!」
「あ、そっか。なんか電話の声が変だった気がしたから……」
ついいつもの感じで乙成に質問してしまった。そうだ、今日は俺から連絡したんだっけ。
「でも私も前田さんにお話しないといけないなって事があったので丁度良かったんです」
「それってさ、アカツキさんの事?」
「!! 前田さんどうしてそれを?」
俺は乙成に、アカツキさんとの出来事を順を追って説明した。聞いている間も驚きを隠せない様子の乙成は、俺の話を聞きながら何度も目を大きく見開いて頷いていた。
「ってわけなんだけど……」
「まさか前田さんが父と会っていたなんて驚きです……」
「ごめん、隠しているつもりはなかったんだ。俺からしたら、あの人が乙成のお父さんだなんて考えもしてなくって……」
「そうですよね、私も久しぶりに会った父が別人みたいになっててびっくりしました。最初家に訪ねて来た時は、警察を呼ぼうかと思ったくらいなので……」
まぁそうだよな。以前のアカツキさんの事を俺は知らないけど、父親が急に浮浪者みたいな格好で登場したらビビるよな。俺だってビビるもん。親父が急にそんなんなってたら。
「でも父の見た目以上にびっくりしたのが、ゾンビの事で……」
「乙成は、アカツキさんから聞いてどう思ったの?」
乙成がゾンビになった理由。本人は転生したくて色々やってたらって言ってたんだ。色々ってなんだよってずっと思ってはいたが、アカツキさんの言ってた事が正しかったのだとすれば少しだけ納得がいく。
「うーん……思い返せば、確かにあの時心身ともに疲れていた私のもとへ、父からいつもの様に手紙が来た覚えがあります。でも、父が言っていた様なゾンビパウダー? ってやつはあったのかな? いつも現地で手に入れた珍しい食べ物やお茶を一緒に送ってくれるので、もしかしたらその中に紛れてて気付かず口に入れたのでしょうか……?」
「そっか。それで乙成、アカツキさんは言ってたろ? その……乙成をハイチに連れて行くって……乙成はどう……」
この質問が一番心臓がバクバクした。まさかとは思うが、乙成もノリノリでハイチに行くなんて言い出さないかと。そうなったら離ればなれだ。ここ数ヶ月、いや、正確には入社した時からほぼ毎日顔を合わせていたのだ。あまりにも生活に馴染みすぎていて、もう彼女がいない生活なんて考えられないっていうのに。
「その話もされました。でも私は、断固拒否するつもりです!」
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