第20話 【異世界渡航】

>>>保有CP値:123000


 はい。

 10万越えました。

 あの後迷宮にはいかないで、普通にお店で売っている食材を買ってきたよ。

 フォレストウルフのお肉が非常に安く売っていたので大量に購入。

 野菜類も安いので迷宮で取れるというものを買ってきた。

 バンダナおじさんに貰った干し肉もフォレストウルフのだったのかな。


「グラビトン……どうしよう?」


 マジックバッグに入れてしまえば問題ないのか?

 銃刀法違反にならないといいのだけど。

 マジックバッグの容量的には問題ない。

 日本でもちゃんと機能することを祈ろう。


「【異世界渡航】……っ!」


 日本のアパート。

 かつて何百何千時間と祈りを捧げてきた場所を思い浮かべると、足元から魔法陣が生まれ体を上下する。

 何度も何度も行き来するごとにその速度は早まり体から力が抜けていくのがわかる。

 あまりにもあっさりと、俺は【異世界渡航】を成功させた。


「……戻ってきたブヒ」


 僅かな浮遊感のあと見慣れた光景が目に飛び込んできた。


「えっ!?」


 だがそこにあったはずの宝物がなくなっていた。

 ミリアナ様のフィギュアだ。

 

「……そっか」


 やはりあの魔法書はミリアナ様フィギュア……。

 悲しいけど、今あのフィギュアは魔法書となって俺の体と一体になっている。

 そう思えば寂しくはない。

 いつでも一緒だ。


「ふぇぇ!? 不在着信が30件も入ってる……」


 いろんな人からラインもきている。

 不在着信は全部マネージャーだが。


「まじめでいい子なんだけど、こういとこあるよねぇ」


 新卒のマネージャーさん。

 22歳の女の子で背が低くて可愛いらしい子だ。

 ただ真面目でキレやすいんだよねぇ。

 人生そんなに生き急いでどうするの?ってくらいせっかちだし。


「うわわ」


 また着信ががが……。


「あ、みほりん? おつかれさm――はい、すいません、すいません」


 お説教が長いのもつらいブヒ……。



◇◆◇


 スーパー銭湯『福福』。


「いらっしゃいませ!こんにちわ!!」


「「いらっしゃいませ!!こんにちわ!!」」


 『福福』は県内でも人気のスーパー銭湯施設だ。

 市街地にありながら地下1500メートルから湧き出す天然温泉を堪能できる。

 サウナやリラクゼーション施設もあり、大人気の食堂もある。

 食堂目当てで昼休みのサラリーマンや主婦たちがくるほどだ。


「いいか新人。 俺たちの給料は会社からもらっているんじゃない。 お客様から頂いているんだ! そのことを肝に銘じて接客に励め」


「はい!」


 従業員の数も多く活気もある。

 特にサウナ室でおこなわれるアウフグースはサウナ―たちにも好評だ。

 お忍びで人気芸人やウィーバーたちもくるほどに。

 ちなみにウィーバーは人気動画配信サイト、ウィーチューブの動画配信者のことだ。


「よし、このあとのアウフグースもしっかりと頼むぞ!」


 ピンポンパンポーン……


「ん……? アウフグースのアナウンスにしては早いな」


 予定外の館内放送。

 お客様のお呼び出しだろうかと、先輩社員は耳を傾ける。


 大食いタレント『白木琢磨』様、ご来店~、ご来店~……


「な、んだと? ……米だ、米を、米を炊けぇええええええええええええええええ」


「ええっ!?」


 突然の先輩社員の発狂に、新人社員は驚く。


「田中ぁ、アウフグースは任せたぞ。 俺はこの厨房戦場から離れられん」


「山田さんっ!」


 謎のテンションに入った先輩社員。

 アナウンスには大食いタレントが来たとあったが、来賓対応でもするのだろうか?

 そんな予定は聞いていない。

 

「……始まるぞ」


「っ!?」


 ピロンピロンピロンピロン!


 オーダーが入ったことを知らせる機械がまるで警報を鳴らすように木霊し、注文用紙が列になって飛び出してくる。

 今日はランチ帯といっても平日だ。

 せいぜい同時にきても5,6品くらい。

 実際、厨房内のスタッフも3人しかいない。

 先輩社員、新人社員、ベテランの仕込みマスター。


「マズイな……」


 昨今の世界的感染症大流行の影響で、人権費削減の嵐だ。

 それは人気スーパー銭湯でもかわらない。

 とくに昼間の時間帯は限界ギリギリでまわしているのだ。

 社員が厨房に入ってアウフグースもこなし、なんなら風呂番すらやる。


「前も今日は弱い」


 前というのは配膳係だ。

 そこに厨房もできるスタッフがいればまだ余裕があるのだがと、先輩社員は舌打ちをもらす。

 その間もオーダーの嵐はとまらい。


「さ、さっきまで人がいなかったのに……」


 来店した大食いタレントの影響か、食事スペースにはぞくぞくと人が集まっていた。

 まるでサイン会でもしようというのか、ひとだかりである。


「くっ、うちの常連さんたちから大人気なんだよ、あの白豚」


 あらゆる席からオーダーが入ってくる。

 その注文の全てが、一つの席へと運び込まれていく!


「くっ化け物がぁああ、いっそ殺せぇえええええ!!」


 厨房の戦い戦場はまだ始まったばかりだ。


 

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