フードファイターが異世界に! ~~女神様、その使命は童貞デブには荷が重すぎます~~

大舞 神

第1話 白木琢磨


 俺の名は白木琢磨。

 25歳童貞。特技は大食いのデブ。今はやりの大食いタレントをやっている。

 いや……はやりとは少し外れているかもしれないデブ系大食いタレントだ。

 最近の大食いは男も女も細身でイケメンとか美人が多い。

 デブは人気がでない。


 小さい頃からたくさん食べていた。

 食べても、食べても、食べ足りない。

 満足できないんだ。


『喰らう!喰らう!喰らう!! まさに暴食の権化かッ、この男っっ!!』


 俺は満たされない。


『――――完食ぅうううううう!! 白木琢磨選手の、優勝だぁああああああああ!!!!』


 世界大食い大会グランドスラム。そんな名誉ですら俺にはなにも響かない。 あぁ、くだらねぇ。 


『白木選手、一言お願いします!』


 クソ、くだらねぇ。


「……嬉しい、ブヒ」


 大食いタレントなんてなるんじゃなかった。 なんだよ、語尾にブヒって、バカにしてんのか? 事務所の指示だ、俺には逆らえない。


「……」


 会場が嗤いに包まれる。

 俺は醜い。 昔は可愛い顔をしていたはずだが、今では顔の半分は脂肪であり縮尺がおかしい。 体は言うまでもない。 座るのに椅子が三つは必要だ。 自分で自分のケツが拭けないとか終わってる。


「ブヒぃ……」 


 痩せの大食い。 イケメンの大食い。 インテリ、ギャル、巨人etc……。

 色々あるけど、デブの大食いは人気がない。


『白豚』それが俺の渾名。

海外に来てもホワイトオークとバカにされがちだ。


 いくつもの嘲笑の瞳。 

 そんなに俺は醜いか? 人からの敵意が俺の大きすぎる体にまとわりついて離れない。

 うんざりだ。


「帰るブヒ」


 優勝祝賀会を後にする。

 大食いの後にどんだけ食わせて飲ませるのか? 全部平らげたけれど。 大方、酔いつぶれ醜態を晒すのを期待していたのだろう。 はっ、俺を酔わせたいなら10樽はもってこいってんだ。



「ただいま、ブヒ」


 誰もいない部屋。

 こじんまりとしたアパートの一室で、俺は宝物たちに向かって挨拶をした。


「ブヒヒ……」


 美しい。

 匠によってつくられた至高の芸術――フィギュアたちだ。

 漫画やゲーム、アニメのキャラクターと様々なフィギュアが揃っている。とても精巧に作られていてとても良いお値段がするフィギュアたち。それらを飾る住居も小道具も俺の持ち物の中で一番お金がかかっている。


 本当にたくさんのフィギュアが俺を出迎えてくれている。

 中でも俺の一番のお気に入りは、エルフのミリアナ様。

 稼いだ賞金を彼女の衣装や住まいに使う。


 なんて幸せなんだろう。


 現実の女なんてクソだ。

 ミリアナ様たちが見せる笑みはいつも変わらない。

 俺を憐れんだ瞳でみたりしない。


「癒されるブヒ……」


 森の妖精。

 長く美しい髪、整いすぎた顔立ち、細く掴めば壊れしまいそうな体躯、そして神の創りし長耳の黄金比。 ここに我が理想と青春の全てが詰まった嫁がいる。


 あぁ、こんなエルフ嫁が欲しい。 

  



≪エルフが欲しいか?≫


 

「――っ!?」


 ミリアナ様のフィギュアを見つめること小一時間。

 祈りにも似た妄想を繰り返していると。

 幻聴が聞こえた。



≪敬虔な信徒――城木琢磨よ。汝は艱難辛苦を乗り越え、エルフを手にいれて見せるか?≫


 さっきよりもはっきりと、幻聴が頭に響く。

 それは女神様の声だ。


 意味が分からないとか頭がおかしくなったとか考える前に、その問いかけへ、俺は答えた。


「愚問です」


 直感だった。

 これは、神の試練だ。


 女神様の試練だ!


 ドキドキが止まらない。

 今にも心臓は飛び出しそうで、俺の思いも溢れている。

 たとえ夢でもいい。

 願いを。

 叶えたい!


 ならっ、魂で叫べ! 俺ッッ!!



「――――エルフを欲するッッ!!」


≪――――≫

 


 俺の魂の叫びに、女神様が応えてくれた気がした。 







――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございます!

別作品も投稿してますのでよろしくお願いします(*'▽')

【世界がゲームみたいになっても俺は無口キャラのまま】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557384884636

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