#8
手押しポンプの歴史を調べてみると、ちょっと面白いことがわかる。
手押しポンプは、紀元前2世紀頃エジプトに住んでいたギリシア人が作っていたという記録が残っている。しかし、その次に手押しポンプの記録が見つかるのは、13世紀頃のアラブ。この間実に1,400年近くかかっているのである。また、ヨーロッパでは15世紀頃の資料にポンプの構造図が記されているが、その通り製作したポンプが実用に足るものであるかどうかは不明だったようだ。
日本では江戸時代にオランダからその原理がもたらされているが、当時製造されたポンプは木製または陶製であり、実用に耐える性能は発揮出来なかったと思われる。
その後時代は下り大正時代に於いて、
技術系の転生チートには二種類ある。その世界の知識・技術では再現出来ない物と、知識・技術は既にあるがそれを再現する為の何らかの
こう考えると古代エジプトの手押しポンプは、転生チートじみた場違いな
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この世界では既に、一定レベルの鋳鉄技術がある。そして「水が
だからこそ手押しポンプを、リックの武具店から鍛冶師ギルドを経由して、世間に公表することを選択したという訳だ。
とはいえ直接的には「孤児院改造計画」の一環。試験運用の名目で、一基格安で孤児院に設置するように契約した。
最重要は当然、セラ院長の説得である。
◇◆◇ ◆◇◆
「セラさん。この孤児院のことで、話があります」
「……何となく内容が想像出来るけど、何?」
「経営について、です」
「やっぱりね。キミは年齢の割に考えることが成熟しているから。けど、今でいっぱいいっぱいなのよ。町長様が補助金を増やしてくださらない以上、支出を減らすしかない。けどこれ以上減らしたら、子供たちの食べるものがなくなるわ。正直、キミが持ってきてくれる食料で、最近はかなり助かっているんだけど、ね」
「いえ、検討してほしいのは支出を減らすことではなく、収入を増やすことです」
「それは、町長様に直談判でもしろってこと?」
「そうじゃありません。孤児院で独自採算が出来るようなことを考えるべき、ということです」
孤児院の運営・経営は本来、行政が責任を負うものである。それは慈善目的ではなく、純然たる治安活動の一環だからだ。
「孤児」というのは、将来の
また、貧民街では病気になっても治療するだけのお金がなく、死んだ後も埋葬されることもなく放置される為、
だからこそ、行政を
しかしそう考えるなら、誰の資金で運営するにしても、ただ孤児院を経営するだけでは不十分である。もう一つ必要になるものがある。
「今、正直に言ってこの孤児院の経営は、アリシアさんの稼ぎと俺の食材提供で運営されているようなものですよね? けど、アリシアさんも俺も冒険者です。今後何があるかわかりません。なら、アリシアさんとか俺とか、そういった特定の誰かじゃなく、孤児院自体で収入を得ることを考えなければならないんです。
加えて、子供たちの将来も考える必要があります。ここを出た後、貧民街の住人になるのでは意味がありません。
アリシアさん、アリシアさんの同期の人たちは、今何をしています?」
「……卒院後はお互い連絡を取り合うことはしない。卒院生のその後を追及することは、
「そうでしょうね。アリシアさんのように冒険者として一定の成功を収めているのならともかく、どこそこの町で街娼をしているとか、どこそこの貴族の屋敷に忍び込んで捕まり今牢屋の中だとか、そんなことはお互い言いたくないし知られたくないでしょうから」
「お前、何を知ってる?」
「何も知りません。ただ現状では、そういう未来しかないってことです」
つまり孤児院で考えなければならないのは、院生たちの職業訓練。そしてこれを活用して収入の一助にすること。ついでに院生たちに初等教育を施すことが出来れば、卒院後の選択肢が更に増えるだろう。
「今アリシアさんが、子供たちに剣を教えてますよね。これがモノになれば、彼らが卒院後、冒険者や傭兵、或いは領兵の
女の子たちは自分の服くらいは自分で
また、読み書きと礼儀作法、そして算数が身に付くのなら、商人のもとに見習いとして奉公することも出来るでしょう。
他にも道はあります。そしてその為の訓練をし、その成果物を販売出来れば、院としては一石二鳥なのではないですか? 更に孤児院が有益な施設であることをアピール出来れば、町長からの補助金の増額も期待出来るかもしれません」
「……お前、本当に12歳の子供か? 大貴族の
それこそが、この世界の問題点。前世日本では一般人が常識で思い付くものでさえ、簡単に辿たどり着けないのだから。
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