第23話 幸せな冒険者とは


「今日は、ゴブリンじゃなく、オークを狩りに行こうか?」


「良いの?」


「うん!? これが狩れたら、もう初心者冒険者は卒業で良いと思うよ! 冒険者でも余り、実力がない者は案外、ゴブリンからオーク位しか狩れない存在も多くいるよ。1人で生きられる。そういう意味であればギリ合格だね。もう、その実力はある……だからこれは1人前としての卒業試験みたいなものだね」


「そうなの? 」


「ああっ、だから、今日からはオークを狩ろう。但し、洞窟とかじゃ無く草原や森で1体~2体でいるような、はぐれ者をね。これが出来れば、冒険者として家族を持って生きていけるという事だよ?頑張ろうか?」


「わかった、頑張るよ!」


という訳でレイラと一緒に近くの街道沿いの森に来ている。


ここで今日の獲物をじっくりと待つ。


「リヒト、この場所を選ぶ理由はわかるかな?」


「安全な場所で討伐をする事。ここなら危なくなったら街道沿いにいき、そのまま街方面に逃げられる」


「正解。補足すると、街方面に逃げれば、途中で冒険者や商隊に助けを求める事も出来るわ。最悪、良くないけど、擦り付けて逃げる事もできる。街道沿いは誰の自治でも無いから身を守るのは自己責任だから、その責任は問われない。尤もこれは法律的には問題はないけど、良心から考えて、最後の最後までしちゃ駄目だけどね」


「それは、確かに人間としてしちゃ不味いよ」


「これはリヒトが夫だから伝えたことだよ! 他の人間には絶対に言わない。 折角、結婚したのに未亡人は嫌だからね……私。英雄や勇者は逃げられないけど、普通の冒険者は逃げる事が出来る。冒険者は冒険なんてしちゃいけない。自分の命を一番に考え、なにがあっても家に帰ってくる。それが『家族にとって理想』の冒険者なんだよ」


「確かにそうだね……それが俺にとっても理想の冒険者だよ」


俺は、ただ楽しく生きられればそれで充分だ。


それにはリスク回避も含まれる。


「さぁ、あそこにオークが2体いるけど、どうする?」


「まだ、俺には2体は無理だから、見逃す」


「正解。だけど、今は私もいるから、行こうほら!」


「うん!」


こうして俺達は……あれっ?


「あたいの拳は無敵だーーっ! ウリヤァァァァ――ッ!」


「ぶもっ……」


戦う時には私じゃなくてあたいになるんだ。


それよりも……ただの一撃。


レイラのブラスナックルの一撃で、オークの頭は潰され息絶えた。


これが、元英雄パーティ。その力か。


「ほら、ぼさっとしない!」


「ぶもぉぉぉぉーーーっ」


オークのこん棒の一撃を躱して、さくッと腕を短剣で刺した。


痛さで、棍棒を落としたオークを遠巻きに見ながらがら空きの腹に潜り込む。


お腹をナイフで突き刺し、裂いて……危ない。


反対側の手でパンチが飛んできたので一旦離脱だ。


「そうそう、それで良いよ。態々イチかバチかに賭けて裂きに行く必要は無いからね。一度腹を刺した時点で、そのオークは確実に数時間後には死ぬ。チャンスを待つんだ」


「了解」


無理はしない。


これがレイラから最初に教わった事だ。


流石のオークも腹を何回も刺されていれば痛さから、腹を庇うようになる。


チャンスだ。


振り回す両手をかいくぐり、とうとう腹を裂く事に成功した。


オークの内臓が体からこぼれ落ちる。


「やったーーっ」


「ハァハァ……どうにか」


俺はオークが死ぬまで遠巻きで気をつけながら待っていた。


◆◆◆


「なかなかやるじゃん!」


「レイラの教え方が上手いからだよ」


「そりゃぁ……私の旦那様なんだから、死なれちゃ困るから、真剣に教えるよ。だけど、リヒトは凄く才能があると思うよ」


「そう?」


「此処までの事を反復して練習して技術を磨けばオーガまではすぐ狩れるようになると思うよ」


「そうですか、良かった」


「それで、そこから先はどうするの?」


「オーガから先の獲物は強敵で命がけの戦いになると思うから。そこでゴールで良いと思う。目指せC級冒険者。そんな感じ」


「英雄パーティにいたからわかるけど。その辺りの冒険者が一番幸せだよ。それじゃオークも2体狩れたし帰ろうか?」


「帰ろう」


俺とレイラはオークをレイラの収納袋にしまうと街への帰路についた。


オーク一体銀貨8枚(約8万円位)


今日一日で金貨1枚に銀貨6枚。


これだけ稼げれば、充分だよな。








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